Episode5 - 今、出せる全力は
とは言え、気になる事が1つ。
……前回から思ってたけど……やっぱり、人形にしては驚いたりしてるんだよね。アレ。
繊維の人形のリアクションについてだ。
元より、彼らには魂がない。人形なのだから当然かと思われるが、この世界のゴーレム種やパペット種と呼ばれる人形系のモンスター達にはしっかりと魂が存在しているのは、日々の遺跡巡りの際に確認済みだ。
故に、アレが被造物であり、尚且つ魂を持つ程に自我がない事も頭では理解出来ている。
ではそんな存在が、何故、こうも分かりやすいリアクションを取ってしまうのか。
「――!?」
今もそうだ。
こちらが考え事をしながら、背後から迫ってきた猪型の突進を種族的な感知だけで察知し跳んで避けた事に驚いている。
骨の甲冑の右手の形状を変化させ、杭の様に射出する事で猪型の胴体を貫いて。
動けなくなった所を【ヒットボックス拡張】によって核ごと胴体を喰らい取りながら私は考え続ける。
……んー、あるのかなぁ。生み出した存在に意識を移すタイプのスキル。
考え付く可能性はそれだ。
私が持つ【多産】そして【配下指示】、【主従共有】の3つのスキルは意志を持った存在を生み出し操る為のもの。
それ以外にも、【人形作製】や【錬金術】などと言った、配下を作る為のスキルというのは存在している。意志を持たない存在を作り出せるのは……確か【人形作製】がそうだっただろうか。
そんな存在を操る為のスキルも存在しているのは分かっているが、詳しくどんなものなのかは私の知識の中にはない。
「仮に、主人の意識を移す類のスキルだったとして――」
言いながら、周囲の繊維の人形達を蹴散らしていく。
『飢餓』のスタック数に気を付けながらも喰らい、配下達から共有されるバフによって更に強化され。私は戦う時間が長くなればなるほどに手が付けられなくなっていく。
次第に、タンク役2人がヘイト収集スキルを使っても、私の方へと向かってくる繊維の人形が多くなっているのに気が付いた。
「ま、こうなる訳だ。操ってる存在が居るんだから、直接操ってるんだから……ヘイトを無視して動き出す、なんて個体が現れ始める」
だが、蹴散らせる。
確かに【光合成】によって『飢餓』との均衡がとれている状態の私では、そこまで強化の幅は無く1体1体に手間取ってしまう事だろう。
しかしながら、それは1人の場合の話。
この場には数多くのプレイヤーが居り、数多くのバフ、デバフが飛び交う戦場でもあるのだ。
故に、今だけで言うならば……私はこのKFOというゲームをプレイしてきた中で、一番の強化率。『飢餓』によって自死に向かわないギリギリの状態での、最大強化が今の状態だった。
「すいませんイヴさん!ヘイト取れないですそいつら!」
「あー大丈夫大丈夫。そっちだけでやっちゃって」
「でも」
「――あはッ」
『飢餓』と【光合成】の均衡が崩れるまで……凡そ残り5体分。
それだけの核を喰らってしまえば、私の身体はどうやっても死に向かって走り出す。ならば、非常に心苦しい選択だが……喰らわないという選択肢を取らざるを得ない。
蜥蜴型の放つ舌を避け、猪型の突進を半身になる事で通過させ。鷲型の爪による攻撃を剣状に変化させた骨の甲冑で斬り払い、獅子型の噛みつきと引っ掻きを下から上に蹴り上げる事で無力化して。
頭を掴み、膂力だけで握り潰し。
身体を掴んで地面へと叩きつけ。
手が届かないならば、動く先を読み【座標攻撃】を叩きこみ。
一瞬の隙を突く様に体重を乗せた中段蹴りを命中させる事で、複数の繊維の人形を巻き込みながら吹き飛ばす。
「……なぁ、全部あの人だけで良くないか?」
「い、いやいや!俺らがヘイト稼いでるのもあるだろ!?」
「まぁ、分かる。分かるよ。一騎当千組というか……第1回のトーナメント組はどっかおかしいんだよな、戦闘力というか、色んな所が」
聞こえてきた周囲のプレイヤー達の会話に、甲冑の下で少し笑う。
今の私は他の面々とは違い、本気を出せているとは言い難い状態だからだ。
今後、【暴食】のデメリット部分をどうにか出来る様なスキルを手に入れる事が出来ればまた違うのだろうが……現状では、私が全力で戦えるのはワールドボスや、周りに身内しか居ない死んでもいい戦いのみ。
……探してはいるんだけどね。『飢餓』の回避方法。
該当するスキルは見つかっていない。しかしながら……あと一歩、何かきっかけさえあれば辿り着けそうな気もしている。
スキルの進化がある世界だ。『飢餓』の様な解除不能のデバフも、しっかりとメリットに出来る様なスキルもあったりするかもしれない。
私の持つスキルで言えば……【背水の陣】が『飢餓』のHP減少効果と噛み合っている様に、だ。
「ま、今考える事じゃあないね」
既に繊維の人形達を、私だけでも10体以上は倒している。
他の面々も合わせれば、討伐数は100を超えるだろう。だが、今も森の中から迫ってくる繊維の人形の数は減っていない。
流石のプレイヤー達も疲労の色が見えてきている。
「やっぱり厳しかったかな、この作戦!」
「――何が厳しいって?イヴ姉ちゃん」
言った瞬間、私の周囲に迫ってきていた繊維の人形達が突如燃え上がる。
それ以外にも、虚空から射出された鋼鉄製のワイヤーに絡め捕られたり。大量に出現した複数の巨大な木製のボウガンが人形達の核を撃ち抜き始める。
突然出現する罠、そしてこれらが出現する際に聞こえてきた声。
「遅いぜ、フータくん!」
「はっはァ!主役は遅れて登場ってな!待たせたァ!」
我らが身内、その最後の1人である悪戯好きの妖精ボギーのフータ。
そんな彼が、壌土の蛇の頭の上に乗る様にしてこの戦場に現れたのだった。





