Episode15 - 判断は早く、その身体を
奥に進んでいくにつれ、食虫植物系モンスターに襲われる事が多くなっていく。
ハエトリグサ型、ウツボカズラ型は勿論の事、新種としてはモウセンゴケ型、そしてドロソフィルム型がトレントから生み出されては私達に向かって襲い掛かってくる。
その度に広範囲に攻撃出来るプレイヤー達が何とかリソースを切り詰めながらも何とかしていたのだが……それもそろそろ限界に近付いてきていた。
「リットンちゃん、今どの辺?」
「所謂中層に当たる付近ですね。そろそろ引き返さないと日没までに仮拠点に戻れない頃合いです」
「了解。……それじゃあ班を2つに分けるよー皆」
私達は探索班の中でも、2つに分かれていく。
1つは一度仮拠点に帰還し、様々な得られた物資などを持ち帰る班。
そしてもう1つは、
「じゃ、フレデリカちゃん。そっちの班は任せたよ。どうせならここから蛇使って無理矢理森を広げちゃってもいいんじゃない?」
「了解了解です!……無駄な森林破壊はちょっと……大量に敵モンスターが出てきたら考えますが」
そう、このまま森の中に残り探索を続ける班だ。
ここから先は夜の時間。探索能力が低い私が残るべきではない……のだが。それよりも、私は森の中に残らねばならない理由が1つあった。
……そろそろ【光合成】が発動しなくなる時間。つまりは……『飢餓』とHP回復の均衡が崩れる訳だ。
私のHPは今の所減っていない……ように見えている。
だが、その実。太陽の光によってHPを回復し続けているだけで、それが無くなれば……私は『飢餓』によって死ぬしかなくなるのだ。そしてそうなった先に待つのは不特定多数に対する【再誕】の開示。
フレデリカに本気を出させていないのに、私がソレを見せてしまうのはとても拙い。とっても拙い。
だからこそ残るのだ。森の中、夜……視界は悪く、暗視系の能力やスキルを持っていたとしても1人が復活する場面を目撃するのには難しい場所。
「セツナちゃんもこっち。……大丈夫?」
「K……KILLゥ……ッふぅー……うむ。一度死ぬまでこのまま森の中で過ごすつもりでゴザル。下手に生き残ったらそのまま皆を斬り刻んでしまいそうでゴザルからな」
そして、こちらにはセツナもいる。今も必死に、というか……半分以上【憤怒】によってアバターの制御を失いかけている彼女を少しでも抑えるという大義名分があるなら怪しまれる事もない。
現に、今もセツナと私の周りからはフレデリカとリットン以外のプレイヤーは距離を取っている。
誰もが巻き込まれたくはないのだろう。
「では、イヴさん。宜しくお願いします。目標は……」
「うん。出来たら反対側との合流。出来なくても……まぁ全力で中心に向かって距離を詰めてみるよ」
「はい。では」
「気を付けて気を付けてー!」
フレデリカ、リットンが帰還組を率いていくのを見送って。
私達居残り組は再度、探索を開始した。とは言え、ここから先は各個人がほぼソロで探索するようなもの。先程までの様な隊列や、速度を合わせた進軍などは行わず、各々が好きなように森の中を進んでいく。
その中でも……私とセツナは、と言えば。
「【多産】……セツナちゃん、どこまで行けそう?」
「ム……正直、限界が近い……拙者を置いていくか……介錯してもらった方が手間にはならないかもしれないでゴザル」
「ふむふむ……それじゃあ介錯かな」
少しでも森の中での探索時間を長くする為に、ここまで使ってこなかった【多産】を発動。5体の配下達に狩りを開始させながらも、私の目の前にゆっくりと跪くように体勢を崩したセツナへと視線を向けた。
介錯。所説あるが……本来であれば昔、切腹を行った時に苦しむ時間を少なくする為に行われた首切りの行為。
だが、こんな場所にセツナが持っている刀以外に首を斬れるモノなんてありはしない。
だからこそ、
「じゃ、セツナちゃん。一時的に触覚センサーとか切って、目も瞑った方がいいかも」
「りょ、了解でゴザル……流石に自分の身体を喰われるのは初めての経験でゴザルな……」
「あは、KFOでも自分の身体を狙ってくるのは本当に一部みたいだしね。それでは……イタダキマス」
喰らう。
セツナには事前に許可を取っている。帰還組になっても探索組になっても暴走し、他プレイヤーに迷惑をかける可能性があるならば……喰らって良いと。
そしてそれが今だ。
ゆっくりと、彼女の右腕を口元へと持っていき……一口。骨までは歯を入れず、柔らかくもしっかりと筋肉の付いた肉を噛み千切る。
……お、味が違う。女の子だからかな……ちょっと甘さがあるね。
ぶちぶちと歯によって筋繊維が千切れる感触と共に、口の中に広がるのは雑食動物特有の臭みだ。
そこに人間故か、酸味とキツい刺激臭が口の中を支配して……最後に、スイーツの様な甘さが後味として舌に残る。
食肉としてみるならば絶対に美味いとは言い難い味。しかしながら……存在喰いである私の舌は別の旨味を感じていた。
セツナの魂……巨大でありながらも、何処か赤みがかったそれの果物の様な芳醇な香りと味。
そして……存在の味、とでも言えばいいのだろうか。歯を当てると共に、その肉の外側から内側に掛けて何層もの旨味を伴った形容しがたい味が口の中に広がっていく。
「美味い」
「そう言われると……少しだけ恥ずかしいでゴザルな」
「あは、今後も食べに行くかも。よろしくね」
返事は待たず、私は喰らう。
夢中になって喰らい、その度に発動するスキルによって強化、『飢餓』によって増えていくダメージを見ながら……やがて。
「ゴチソウサマでした」
セツナのHPが切れ、光の粒子となって消えていくのを見ながら。
両手を合わせ食後の感謝をしようとして。
『行動ログ確認……可能性の鍵が1つ埋まりました』
「はぇ?」
変な通知に邪魔をされた。





