Episode12 - 探索開始
非常に私事ですが、実は昨日誕生日でした
「植物系!基本的に案内を優先!戦闘には加わらず自身の安全を第一優先!」
「戦闘組は前へ!派手に動くなよ、はぐれるぞ!」
「ロートさんのバックアップが届く範囲をそろそろ外れます!ここから先は更に警戒を濃くしてください!」
喧騒が森の中に響く。
既に探索を開始して、2時間。私達は少しずつではあるが前に進んでいた。
「リットンちゃん。この辺で昨日は戻ったんだっけ?」
「そうです。敵モンスターの数が急激に増えた事、昨日時点での新種であるウツボカズラが出始めた事から、安全を優先して」
「成程成程っとォ」
近場の枝を折り、こちらに迫ってきていたハエトリグサへと向かって投げつける。
早朝の襲撃から、既に私は何度か食事を行っておりその分だけステータスの強化がされている。
その上で投げられた枝は鋭く、そして速く射出され……ハエトリグサの胴体部に風穴を開け、光の粒子へと変えていった。
……まだ【光合成】で『飢餓』は抑えられてる。もうちょい……多くて2体かな。食べたら均衡が崩れるな。
今も探索班は戦闘を行いながらも前へと進んでいる。幸いにして、未だ脱落者は0。
植物系のモンスターアバターのプレイヤー達がHPの回復に長けたスキルを持っていたが故の結果だ。
それに加え、
「【一刀両断】ッ!」
戦場となっている前方で、一度大きく光が放たれた。
先のレストート戦にて、突如乱入。そして一時的にワールドボスのヘイトを一身に受けていたプレイヤー……セツナの仕業だ。
彼女が放った横薙ぎの一閃。スキルでもあるのか、刀の刃渡りよりも広い範囲を巻き込みながら食虫植物達を上下に分割している。
私とは違い、初めから前線にて戦い続けている彼女は……既に何度も何度も回復されている……のだが。
「斬ルゥ……ッ、とぉ……危ない危ないでゴザル。後少しで呑まれかけたな」
彼女もまた、難儀なスキルを持ち合わせていた。
その名も【憤怒】。【暴食】と同じ、大罪の名を関するスキルだ。
効果は単純、敵対者を倒せば倒すほどに『敵対心』というバフがスタックし、ステータスを強化していく……というもの……なのだが。
その『敵対心』が私の『飢餓』と同じく厄介だったのだ。
……一定値以上スタックすると強制判定、その判定に失敗すると死ぬまで解除不能な『憤怒』の付与……あっちの方が見方によっちゃキツいかもなぁ。
『憤怒』は『狂気』に近い効果を持ったデバフであり、死ぬまでアバターの制御が奪われる、と言うもの。当然、『飢餓』と同じく死ぬまで解除不可能だ。
「そろそろセツナちゃんは下げた方がいいかもね」
「ですね。最悪、強い敵モンスターが出てきた時は戦ってもらい、それ以外はイヴさんと同じ様に全体が見れる位置で待機が良いかもしれません」
「うん……リットンちゃんって指揮系得意だったりする?割と全体見えてるよね」
「一応、その手のゲームが好きで。趣味程度ですけどね!」
最後に、私の身内であるフレデリカ。
彼女はと言えば、
「神……神よ……」
「こんな子を拠点の建築に回してたとか、探索進まなくても仕方ねぇだろ……!」
「いやぁ、助かるよ。で、今度どうかな?お茶とギャァア!?」
「「兄弟ー!?」」
「アホか」
「あはは……」
他の植物系のプレイヤーよりも広範囲高精度の情報取得、敵感知を行い、戦闘になれば拘束から回復、果ては毒によるスリップダメージもお手のもの。
それもそのはず。彼女の種族は今も変わらず樹木の魔女。
木々が在る場所にてその真価……魔女と人間に呼ばれるだけの力を行使出来るのだから。
……戦闘も、本当だったらフレデリカちゃんだけに任せちゃってもいいくらいなんだけど。
今も、彼女が地面の下から伸ばした木々の根が食虫植物達の身体を拘束し、動けなくなった所を戦闘組が狩り続けている。
その上で、変な事を言っている連中にはまだまだ元気な食虫植物を誘導するという動きまでやってみせているのだ。周りからの評価が上がっていくのは当然だろう。
だが、それはそれで良いか悪いかで言ったら……あまり良くはない。今は協力すべきイベント中だから良いものの、今後通常マップの方での関係を考えると……出来る事を見せ過ぎる、というのはそのまま自分が敵に回った時の対策に使われる。だからこそ、今回私はあまり前には出過ぎないようにしているのだが。
「楽しそうだねぇ、フレデリカちゃん」
「ふぇ!?……いやいや、そんなそんな。普段ここまで大規模に種族能力やスキル使ってないからって張り切ってないですよ?本当ですよ?」
「うん、張り切ってるんだねぇ」
軽い足取りで彼女の近くに行って話しかける。
嫌味の様に聞こえるかもしれないが、少しだけ自重する様にと言外に意味を含ませている為間違ってはいない。
「で、どう?フレデリカちゃんなら私達よりも奥の索敵と感知出来てるでしょ?」
「……ですです。この森、やっぱり空間が歪んでますね。見た目以上に広いです。それとやっぱり遺跡と同じ様にモンスターがスポーンしてます。ただ」
「ただ?」
「階層って言って良いのか、それとも中心部に近付く程に性質が濃くなるのか。それとも何かが近くに居るからその所為なのかは分かりませんが、ここからじゃ私の植物への干渉が通りません。この辺でもたまに干渉が通らない樹があるんですけど……あ、丁度アレですアレ。干渉できない樹」
彼女が示した方向を近くのリットンと共に見てみれば。
そこに在ったのは、普通の木。リアルで見た事ある木の中では……恐らくクヌギが一番近いだろうか。
何の変哲もない、ただの木にしか見えない。そう、普通に見た限りでは。だが、私の眼には……少し違ったように見えている。
……あの木、周りと違って魂が濃い。
そう、見た目ではなく内側。魂が周囲の木々と違って濃いのだ。
それこそ……散々私達を襲ってきているモンスター達の様に。
「……」
私は2人を近づかない様にと手だけで制止して、その木へとゆっくりと近付いていく。
そして、
「イタダキマス」
「――ッ」
その樹皮に口付けするように歯を立てたのだった。





