Episode11 - ついに喰らって
口の中に広がるのは植物特有の青臭さと……ウツボカズラであるが故の、炭酸を口に含んだ時に感じる歯が少し溶ける様な感覚。
意外にも溶解液に臭みはなく……爽やかな果実ジュースの様な味わいが口の中を駆けていく。
総じて言うならば、
「美味い、朝食にはピッタリだ!」
全身に力が漲っていく。ここまで絶食してきたのだ。内側から溢れる食欲のままに目の前の相手を喰らい尽くしたい。そんな衝動に呑まれかけながらも……僅かに残った理性の部分が私の本能にブレーキを掛けた。
一瞬の思考の加速。喰らった事によって強化されたステータスが、何とか私に考える時間をくれている。
……食べたい。お腹いっぱい食べたい……でも!
ここで大量に喰らってしまえば、待っているのは『飢餓』による死……だけではない。
【再誕】という、今後人間側と戦うに当たって切り札になり得るスキルの露呈だ。
【暴食】、そして【光合成】のスキルレベルを上げた事によって、多少喰らう程度までならば『飢餓』のダメージ量と回復量は釣り合う様になった。とは言え、許容量は少なく……大体目の前に居るウツボカズラを5体も喰らってしまえば徐々にダメージが加速していく事だろう。
だからこそ、ならばこそ。
「ッ、ふぅー……!我慢ッ!」
「……?」
思考の海から帰還した私は、こちらに反撃しようと4本の蔦を動かしたウツボカズラの胴を掴み膂力の許す限り引き千切った。
普段の私ならばしない行動。それに近くに居たロートは少しだけ疑問を覚えた様だったが……今は防衛に力を入れた方が良いと判断したらしく、
「広域殲滅が可能な人は早めに切って!下手に長引かせるよりは数を減らして殲滅、或いは相手に撤退を選ばせた方がいい!皆起きてきてるからさ!」
指示を飛ばす。
この場では何も追及してこないその姿に少しだけ冷や汗が出るものの、何も言わずに私も殲滅に参加した。
そうして、約10分後。
「終了~……ドロップ品の確認、物資系なら建築班の起きてるメンツに渡しちゃってー。食糧は食糧班に。それ以外は一旦持っててもらって良いよー!」
「怪我人はこっちに!回復スキル回しまーす」
「拠点の一部が壊れただぁ?!フレデリカの嬢ちゃん起こしてこい!基部はあの子が居ないとどうにもならん!」
「むにゃ……なんでゴザルか……五月蠅い……」
最後の1体を討伐し、朝の襲撃は終わった。
何人か初心者組がデスペナルティを貰ったようだが、被害は最小限に留める事が出来ている様だ。
ただ、私やロート、それなりにこのゲームの経験がある面々の表情は非常に険しい。
「……イヴさぁ、どう見る?これ。普段捕食者側からの意見」
「いやぁ……まぁ、普通に考えて、野生動物が居ない理由が詰まってるよね。頂点捕食者として食虫植物型のモンスター達が君臨してる。その上で、途中……あいつら共食いもしてたからさ」
「共食いしてるのに数が減らないのが問題だよな。植物系だからなのか、それともそれだけ数が居るのかは知らねぇけど」
「まだ2日目ですよね。なのにここまで襲われてるのも問題です。私達だけじゃなく拠点にも攻撃してる時点で、知性はなくとも何かの命令を受けてる可能性があるかと」
そう、中々に現状が厳しいのだ。
食糧自体は細々とではあるが確保は出来ている。それこそ海の方で釣りや素潜りをすれば全員1尾ずつ食べられるくらいの量は集める事が出来るのは1日目に確認済みだ。
しかしながら、今回のコレはイベント。ただただサバイバルするだけならば普段のマップで勝手に自分ルールを作ってやればいい。
そして、襲ってくるモンスターが居る時点で……それをどうにかしようと考えるのは参加プレイヤーとしては普通の思考だった。
「リットンちゃん、森の探索はどれくらい進んでる?」
「あ、はい!掲示板にて方々に散っている検証組から集めたデータを確認するに、大体1日目に探索完了したのは森の10%程度。中心部どころか、浅層も浅層です」
「探索組だけじゃやっぱり戦闘が厳しい、かな」
「いえ、ロートさんもフォローしてくれるので戦闘面は問題無いんですが、やはり迷宮化が厄介ですね。植物系モンスターのプレイヤーさん達の協力で進めはしてますが、やっぱり速度に影響が出ます」
「成程、成程」
だが、一筋縄ではいかない。
森の中は確かに戦闘が多い。ハエトリグサやウツボカズラ達のホームなのだ。それは仕方ない。
問題となっているのはやはり迷宮化している事。それに、まだ私が視た魂の薄さや、フレデリカが感じた植物達の意思の希薄さも理由が分かっていない。
ロートがリットンの報告を聞いた上で腕を組み、少しだけ空を見上げながら考えて。
「よし、今日と明日で一気に探索範囲広げよう。建築班からフレデリカちゃんや、探索班じゃなかった植物系の子達を。食糧班からイヴとセツナちゃんを探索班に追加で」
「む、呼んだでゴザルか?」
「ん、異論はないけどなんで私とセツナちゃん?」
「理由は簡単。2人共個人技特化型なのと、生存能力も高めだから。もし戦闘中にはぐれちゃっても、最悪生き残ってくれてれば見つけられるからね。――よぉーし、聞いたかな?皆!反対側の子達と早めに合流出来るように、探索に力入れるよー!」
「「「了解!」」」
ロートの号令に、周囲の面々が反応するのを見ながら少しだけ息を吐く。
森の中は視界が悪い。悪いと言う事は……人知れず死んで、【再誕】が発動したとしても……誤魔化せる可能性が幾らでもある、と言う事だ。
最悪、フレデリカが近くに居れば守ってもらうフリをして周囲を植物で覆ってもらって、一度殺してもらう、なんて事も出来るだろう。
ならば、探索中に私が食事を制限する必要はない、と言う事。
食事を制限しないのであれば……HPを消費して発動する【多産】なんかの使用も視野に入るだろう。
何にせよ、出来る事の幅が広がる、と言う事だった。





