Episode14 - VS 『悪母鬼 マーテル』1
【筋力増加】、そして人喰いとなった私の身体の性能で投げられたゴブリンは、進路上に居たゴブリン達を巻き込みながら部屋の一番奥……マーテルの元へと飛んでいき、
『あら、あらあらあらァ?』
触れると同時に潰れて消えていく。
その様子を見届ける事なく、私はすぐさまその部屋の中へと入り近場にいたゴブリンから順々に喰らい潰す事で数を減らしていく。パっと見る限り、ゴブリンの数は10を超え20、30まで届くかもしれない。
時折こちらへと攻撃しようとしてくる個体も居るものの、連携も取ってこない相手ならば十二分に対処は可能だ。
『アナタ、さっきの屍人喰いね?』
「今はもう人喰いだけどね」
『……へェ、そう。そんなに私の事を殺したいのかしら?』
まだログにマーテルとの戦闘開始を告げるログは流れていない。
明確な攻撃行動をとったにも関わらず、マーテル側がまだ戦おうという意志を持っていないのだろう。
……嘗められてる、ってそうか。一回殺してる相手を嘗めない理由がないよね。
私だって、ゴブリン達の事を嘗めている。
オーガだって、今の私だったら以前ほど死線を潜り抜ける必要はないと思っている。
ゲームの、一度倒した相手などその程度の立ち位置になってしまうのだ。だからこそ、その油断を今は利用する。格下に見られている今が一番、マーテルの首を獲りやすいのだから。
「殺したいね。私の家の近くでこんな数のゴブリンを産まれると困るんだよ」
『御近所さんだったのねェ。それはごめんなさいな。でも申し訳ないけれどォ……やめるつもりは一切ないわ』
「あぁ~……やっぱり?」
明確に雰囲気が変わる。
それまでは雑談ベースの、まだ敵意を向けられていなかったのにも関わらず。突如、マーテルはこちらへと殺意の滲んだ敵意を向けてきた。
『当然じゃない、私の仔をそんな風に殺しておいて……一度殺した筈なのに生き返ってくるなんて、ねェ?』
「庭先に害虫が居たら潰すのは当然だろう?……あぁ、純粋なモンスターの君には分からない感情かな?」
『はは、ははは。――私の仔が害虫ですって?』
煽りに煽りつつ。
マーテルの様子に合わせ、こちらへの攻撃の密度を上げてきたゴブリン達に対応して私も手と足を総動員させながら露払いをしていく。
まだ【口腔生成】と【捕食】による格闘範囲での食事コンボは行わない。隠せる手の内は出来る限り隠しておいた方が良い。相手がNPCであろうとも、だ。
……さて、殺意自体は別に良いとして。そろそろ始まってくれると助かるんだけど。
余裕ではあるが、これを延々と喋りながら続けられるかと言われると……首を横に振るしかない。
簡単に倒せるようになったと言えど、ゴブリン達の数は私の何十倍も居るのだ。そんな相手に戦っていれば、徐々に私の身体には傷が付き、最終的にはHPが全部削り切られてしまう。前回の二の舞だ。
故に、出来るならマーテル自身がこちらに仕掛けてきてくれるとありがたいなと煽ってみているのだが……流石に肉塊のような見た目の相手が易々とこちらに迫ってくる事は無いようで。
『素直に帰るなり、謝るなりするなら許そうと思っていたのだけれど。言うに事を欠いて、害虫?こんなにも可愛い仔達を害虫ですって?……許せない、許せないわ』
マーテルの言葉と共に、こちらへと攻撃してきていたゴブリン達の動きが変わる。
これまではマーテルの様子を気にしながら、連携の様な事をしてきていたものの……その瞳や表情から一切の感情を失わせ、機械の様に一定の行動だけを繰り返す様になったのだ。
こちらへと飛び掛かる、手に持っているモノを振るう。これだけの単純な行動。
ある程度素手での自衛に慣れている私にとっては有難い変化ではあるが、これが普通の……剣や弓なんかを使うタイプのオーソドックスなプレイヤーだったならば苦戦しただろう。
『アナタだけは死んでも殺すわ。今更謝ったって聞いてあげない。何度でも何度でも殺して殺して殺しぬいてあげる』
「あは、そうなる前に私は君を殺すよ」
お互いに放った言葉が引き金となったのか。
マーテルはその全身からゴブリンを大量に産み始め……私の待っていたログが流れてくれた。
『『悪母鬼 マーテル』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数1』
「ぃよっし、まずはぁ……!」
ボス戦の開始。
それと共に私が行うのは……今、最も必要な事。
……マーテルは一種のギミック系のボス。子供であるゴブリンを産んで、その産んだ量によってHPが削られる類の、耐久を強いられるボス!
ゴブリンを産ませれば産ませるほどに相手は追い込まれていく。
だが、それをこちらのタイミングで行わせるには、ゴブリンの数をこちらが減らし続けねばならない。
「害虫駆除、やっていきますか!」
だからこそ殺す。
素手で首をねじ切って。ゴブリンの持っていた武器を奪い取りそれが壊れるまで振るって。最初と同じ様にマーテルへと向かって全力で投げつけて。
様々な方法で、既に私の相手にもならなくなったゴブリン達を蹴散らしていく。
それに合わせるように、機械の様にゴブリンを産み続けるマーテルは、
『……そう、この仔達じゃあだめねェ』
一言、そう言った。





