Episode13 - 変わった気分
「ふんふふふーん」
薄暗い遺跡の通路。
そこを、無造作に伸ばした長い黒髪をたなびかせながら1人の女が歩いていく。簡素な布の服だけを身に纏い、気が強そうな釣り目は楽しそうに弧を描きながら。
端から見れば、服装さえどうにかすればモデルにも見えなくは無いだろう。しかしながら、着ている服にべっとりと付いた血が外見の印象よりも色濃いインパクトを周囲に与えてしまっている。
そう、私の……このKFOにおけるイヴの、新たなアバターの姿だった。
……いやぁ、楽しいなぁ。本当に。ついつい柄にもない鼻歌とか歌っちゃうよ。
しかしながら、そこは既に敵の巣穴の真っ只中。
鼻歌なんて歌いながら進もうものなら、巡回していたゴブリン達にすぐに見つかり、
「イタダキマス」
「ゲヒ……ッ」
おやつでも食べるかの様に、首元が削り喰われ光の粒子となって消えていく。
存在昇華を終え、新しい身体となった私は既にその力の一端を味わい満足していた。
……うーん、良いね。やっぱり口が多いと戦い方も変わる変わる。
人喰い。
人を喰らい、人の中で生きていくモンスター。
その脅威度は屍人喰いの比ではなく、一度人混みに紛れられると見つけ出すのは困難を極める……らしい。存在昇華を行った後に追加されたトピックスにはそう書いてあった。
そして当然、そう成った私もその特徴を新たに得ることが出来た。
「方向性自体は同じだけど、やっぱりリビルドして正解だったなぁ」
存在昇華に伴うスキルのリビルド。
元々の合計レベルまでの中で、現状取れるスキルの中から取捨選択出来るシステムだ。
私の場合、人喰いになったことにより【カニバリズム】がレベル1、それ以外に【隠密】がレベル2で取得出来るようになっていた。
故に選んだのは、初期スキルである【聞き耳】、【筋力増加】、【噛みつき】に加え、【カニバリズム】、【隠密】、【捕食】、【恐怖耐性】。
そして新たに獲得可能だった、
「【口腔生成】良いねぇ。レベル1だから作れるのは1つまでだけど……手のひらに作れるのは本当に便利」
【口腔生成】は名前の通り、口腔……ではなく。
身体の任意の場所に一時的に口を作り出すことが出来る、モンスター専用のスキルだ。恐らく、運営側がスキル名を考える際に音の良い単語を当てはめたのだろう。
そしてこのスキルによって、私の戦闘スタイルはほぼ変わることなく……しかしながら、素手で無理なく【捕食】を発動させることが可能となった。
「スキルレベルが上がってるからか、バフも良い感じだし……そろそろ行きますか」
ゴブリンは既に敵ではない。
触れれば食べることが出来る、延々と供給されるバフアイテムだ。
数がいようと、リアルの身体と同じ様に……スキルによってそれ以上に動かすことが出来る様になった今では関係がない。
……私が死ぬ前と比べてゴブリンの数が多い。マーテルが産み続けてるのかな。
気になる事はある。
ゴブリンの数もそうだが、存在昇華前と比べると遺跡全体が静かなのだ。
無論、巡回しているゴブリンは居る。しかしながら、そのどれもが何というか……感情が薄いとでも言えば良いのだろうか。
「機械っぽい。操られてる感じ、かな」
これまで私が出会い、倒してきたゴブリン達は私の行動に驚いたり恐怖したりと個体ごとに感情を持っているように見えていた。
しかしながら、今この遺跡内で出会うゴブリンは……目の前で仲間が生きたまま喰われていたとしても反応を示さない。
目の前の敵を殺す事だけを命令されているかのように、ただただ私に向かって武器を振るってくるだけなのだ。
「んー……私がマーテルに1回挑んだから?それとも……マーテルが本気出して子供達を指揮し始めたとか?」
どちらだったとしても、私の行動が原因である事には変わりないだろう。
そして、それらが意味する事は……私がマーテルと戦う前に考えていた事が現実になる、という事。
人の様な見た目になったとは言え、こんな場所に住んでいる国家側のプレイヤーなんていない為、良くてゴブリン達氾濫の首謀者にされて掲示板や何かで色々と言われる事になるのは想像に難くない。
……簡単に、とはいかないだろうけど。流石に私が倒しておかないとだ。
マーテルの倒し方、というか。
そこまでの道筋は前回見つける事が出来た。
ならば、今の私の身体の性能を十全に活かせば……良い所まではイケるのではないだろうか。
その後はノリで……最悪、その場ですぐに経験値でも使ってスキルレベルを上げたりして対応する事にしよう。
「着いた。……うん、やっぱり数が多い。鳴き声が外にまで聴こえてきちゃってるじゃん」
そして、私は記憶に新しい鉄の扉の前へと再び辿り着いた。
中からは大量のゴブリン達の声が聴こえてきている。
このまま普通に中に入ったらすぐに群がられてしまうだろう。流石に存在昇華したと言えど、部屋を埋め尽くす程にゴブリン達が居た場合はひとたまりもない。
「お、丁度良い所に」
「ゲ!?ヒャギ!?」
「はーい、暴れないよ。まぁ君の末路を考えると暴れたくはなるんだろうけど?」
と、ここで少し離れた場所に1体のみのゴブリンを発見した為、すぐさま捕まえて。
頭をしっかりと掴み、こちらに抵抗出来ないようにした後に……私は扉を開き、
「お邪魔しまァーすッ!」
「~~~ッ!?」
思いっきり、そのゴブリンを中へと向かって投げ込んだ。





