Episode12 - 存在昇華
まず、戦闘中にも考えた事だが私には対多数での手数が圧倒的に足りていない。
これに関してはマーテルと戦う上で必須であり、ここを改善しなくては絶対に攻略は出来ないだろう。
……1体1体はそこまででもない。3体までなら余裕。5体は集中すれば。それ以上は今回の二の舞だ。
今回の探索では30体以上のゴブリンに加え、オーガも倒せている。
その為、今までとは比較にならない程の経験値を得ることが出来た。具体的には、新しいスキルを5個は取れる程度には。
「スキルレベルを上げて、素の性能を底上げするか……それともまた新しいスキルを手に入れるか……」
選択肢は無数にある。
しかし、今回は新しいスキルを手に入れる事はしないでおくことにした。
理由は単純だ。
「新しい選択肢があっても、器用貧乏になったら意味が無いからね」
【捕食】は【噛みつく】とのシナジーもあり、これまでの動きを阻害しなかったからまだ良い。
だが、それ以外。折角慣れたアバターでの動き方を阻害するかの様な、対多数用のスキルを獲得したとして……また慣れるまで時間が掛かるし、動き方を変えねばならない可能性が高い。
それならば単純なスペックを底上げした方が対応力も上がるだろう、と考えたのだ。
それに、
「存在昇華。あり得そうなのはレベルの合計値がキリが良い所だよね?」
私はモンスター。屍人喰い。
アバター作成時に選べる種族であり、これから先の未来が無数に存在するであろうモンスターだ。
ならば、その未来に賭けてみたって良いだろう。
……今の合計レベルは8。【捕食】を取った時から変わってない。10に合わせるなら2レベ分だよね……じゃあ何処を伸ばすか、だけど。
【聞き耳】は絶対に上げたい。探索だけでなく、戦闘中にも有用なスキルであるからだ。
ならば他に何を伸ばすか考え、
『スキル【聞き耳】、【捕食】のレベルを2に上昇させます……完了。アバターに適用しました』
【捕食】にした。物を食べていれば勝手に上がるだろうが、今欲しいのは即効性。
【捕食】で得られるバフの効力が増加するのであれば、個人的にも戦闘面でもありがたいからだ。
『スキルレベルの合計が規定値に達しました。存在昇華が可能です。行いますか?』
「おっし、ビンゴ」
そして、続ける様に。
私の目の前には1枚の新しいウィンドウが出現した。
……一応トピックスも表示しておこうかな。私の認識が間違ってると怖いし。
アバター作成チュートリアルを担当してくれたバストが言うには、存在昇華とはアバターの進化システムであり。
人間アバターならば3回、モンスターアバターならば最低3回以上行う事が出来るというモノだ。
「で、ゲーム内トピックスの説明的には……存在昇華ごとにスキルのリビルドも出来る、と。成程ね」
現状のスキルのまま、アバターの種族などが変わるのならばスキルのリビルドなんてものは必要ない。
つまるところ、何かしらのスキルが増えたりする場合があるのだろう。
……それこそゴブリンとかだったら存在昇華の先が想像しやすいんだけど……屍人喰いって何に成るんだろう。
こちらへと是非を問う目の前のウィンドウに指を運ぶ。
ここで存在昇華を行わない理由はない。そもそもとして、それを行えたら良いなと思ってスキルレベルをキリの良い数字まで上げたのだから。
『存在昇華を開始します……行動ログ精査開始。種族『屍人喰い』確認。……保有スキル精査開始。スキル【捕食】、【噛みつき】の組み合わせ保有を確認、昇華ポイントを加算します……精査完了』
何やらログが流れた後。
私の目の前には新たに2枚のウィンドウが出現した。
そこにはそれぞれ人型らしきアバターとその説明が書かれている。
『現在、存在昇華可能な種族はこの2つの種族となります。昇華先を選んでください』
「成程?……えぇーっと、『人喰い』と『レッサーヴァンパイア』の2つか。ふむ」
どちらも今の屍人喰いのアバターよりも身体は大きくなるのは確定。
それに加え、人喰いならば【カニバリズム】というスキルが。レッサーヴァンパイアならば【吸血】というスキルが手に入るらしい。
……【吸血】は想像しやすいけど、【カニバリズム】ってどんな効果なんだろうコレ。
行為の名称をスキルにしている時点で、人を喰らう事によって何かしらの効果を発揮するのだろうと想像出来る。
だが、生憎と今の私の生息領域内で人間を見た記憶は……無い。
とは言え、
「まぁ人喰いかな。レッサーヴァンパイアに魅力あんまり感じないし」
私は人喰いが表示されているウィンドウを選択した。
そもそもとして、ヴァンパイアと名が付いている以上……日中に行動するのにデメリットがないとは考えられない。
それに、私は血が飲みたいからゴブリン達を喰らっているのではなく、血を含めた相手の存在を食糧として見ているからこそ喰らうのだ。
だからこその人喰い。【カニバリズム】というスキルが発動しない死にスキルとなろうとも、私の在り方としてはこちらの方が合っている。
『『人喰い』が選択されました。存在昇華を開始します。……アバターメイキングが必要です。指示に従って行ってください』
「おや?……あぁ、そう言えばバストも存在昇華の時にメイキングするって話をしてたっけ」
目の前にこれから私の身体になるであろうアバターの素体が映ったウィンドウが出現する。
指で様々な数値を弄ったり、感覚的に調整する事でアバターのメイキングが出来る画面だ。それ以外にも、VR機器に保存されている他ゲームのアバターをKFOにアジャストする方法も存在しているらしい。
「よし、こういうのは……出来合いのもので済ませた方が楽なんだよね!変える意味もあんまりないし」
アバターメイキングガチ勢と呼ばれる人々ならば、ここで何時間も掛けて作り上げるのかもしれないが……私は彼らの様にメイキング作業に面白さを見出す事は出来なかった。
過去に作った、現実の私をモチーフとしたアバターが保存されているのだから、それでいいだろうという考えだ。
……えぇっと……あ、ちょっとだけ時間が掛かる訳ね。
アバターのアジャストの時間、そしてそれが終わり次第存在昇華が始まると言う事で。
少しの間の、このゲームを始めて初めての自由時間となったのだった。





