Episode7 - 森の中は
森の中を駆ける。奥へ奥へと……無人島の中心の方向へと向かって駆けていく。
別に狂った訳でも、目指し駆けている訳でもない。……逃げているのだ。
「あぁああ!もう!なんだよこれはぁ!?」
ちらと後ろを見てみれば、私を追いかけるように着いてきているのは……複数のモンスター。但し、ゴブリンやスライムなんかの分かりやすいモノではなく。
「――ァ!」
「――ッ!!」
「食虫植物は聞いてないって!っていうかあの大きさはもう人間も食べる奴じゃん!!」
食虫植物。ハエトリグサを巨大化させ、根の部分が動物の手足の様に発達させたような見た目のモンスターだ。
それが、複数。私が駆けていけば駆けていく程についてくる数も増えていく。
砂浜の方に逃げられれば良かったのだが……そちらの方に向かおうと駆け出しても、いつの間にか進路が戻されてしまっていた。
……この森特有の特殊ルールと、植物型モンスター……厄介過ぎるでしょ!?
当然、倒せば追ってきているモンスター達は光の粒子となって消えていく事だろう。
だがそれをしていない理由は単純。今の私は全くステータスの強化が出来ていないからだ。
2人と合流するまでは何も食べない。それに加え、【多産】をするタイミングを逃していた所為で、【バフチェイン】による強化すら行えていないのだ。
故に、今の私は本当に素の状態。パッシヴ系スキルによってある程度ステータスが盛れていたとしても……複数体との戦いは出来る限り回避したい。そんな状態なのだ。
「……ッ、仕方ないな……!」
再度、ハエトリグサ達の位置を確認。今も私に向かって根を動かしながら迫ってきているのを見て、少しだけ背筋に悪寒が走りながらも。
私は自身の口を大きく開き、
「【ヒットボックス拡張】……【座標攻撃】!」
「「――!?」」
喰らう動作をした。
瞬間、背後の2体の頭部の様な2枚の大きな葉が、何か巨大なモノに噛み千切られたかのように掻き消える。
一応はそこが急所だったのか、そのまま私を追いかける勢いは緩やかに遅くなっていき……最終的に、私の元へと辿り着くと同時、光の粒子となって消えていった。戦闘終了だ。
……すっごいな。私一応モンスターではあるんだけど……見境なしか。
あるいは、私がモンスターにしてはほぼ人間の様な見た目をしているからか。
兎にも角にも、あそこまで巨大な食虫植物が森の中を彷徨っている、と言う事はだ。
「……この森、もしかして動物とかもう居ないのでは……?」
「居ませんね居ませんね!私の感知範囲内に1匹も野生動物引っ掛からないです」
「ッ、ふぅー……フレデリカちゃん!」
と、ここで。突然背後から話しかけられ、驚きながらその場から跳び退き確認すると。
そこには船の時で見た姿よりも幾分か生き生きとしているフレデリカの姿があった。
「イヴさん森の中に居てくれて助かりました。海の方よりもこっちの方が探しやすいですし」
「私もフレデリカちゃんと会えて助かったよ……そろそろ何か食べないと、ちょっと戦闘厳しそうだし……」
「やっぱりあのハエトリグサさん達ですか?」
「うん。……え、もしかしてフレデリカちゃんも襲われたの?」
フレデリカの種族は現在も変わらず樹木の魔女。
植物と触れあい、会話し、心を通わせながらも操り行使するモンスター。
植物型のモンスターならば、戦闘になる前に会話する事が出来ると思ったのだが。
「駄目です駄目です。あの子達、私の言葉は聞いてくれるんですけど、食事願望の方が強すぎて……イヴさんみたいな植物さん達です」
「ん?私みたいな?ん?フレデリカちゃん?」
「それに、この森の木もちょっと元気がないっていうか……私が語り掛けても、上の空というか」
「あぁー……」
私は彼女に、見えているモノの情報を話していくと。
少しだけ思案顔になってから、
「成程、ちょっとこれはフータくんとも合流した方がいいかもです」
「フータくんというと……あ、もしかして」
「はい。もうこの森ダメかもしれないので、焼き払った方が良いです。勿論、私達3人だけのマップじゃないので大多数の人達が賛成したらですけど」
物騒な事を言いだした。
だが、私も焼き払うのには賛成だ。どう考えても、この森はおかしい所の騒ぎではない。
私がここまで駆けまわっていたのに、出会ったプレイヤーはフレデリカのみ。奥まで来過ぎている可能性もあるが、それにしたってプレイヤーが少なすぎる。
植物の魂が薄いのに加え、巨大な食虫植物が食欲旺盛に彷徨っているのもちょっと不穏だ。
「あと、ここの植物を伝って色んな場所の情報は得れるんですけど……自我が弱いからなのか、イヴさんの言う通り魂が薄いからなのか、操れないんですよね」
「……フレデリカちゃんの強みが活かせない森って事かぁ……」
「そうですそうです。だから焼き払ってもらって、私が私の森を作り出した方が……多分色々楽ですね」
そう言いながらも、彼女は自身の身体から何種類もの草花を生やしてはインベントリの中へと仕舞っていく。
中には以前、私に渡したHP回復用の薬草もある事から、今の内に物資をある程度整えようとしているのだろう。
「あ、でもこの森って多分迷いの森とかそういう類の奴だよね?私全く砂浜の方に行けないんだよ……そういえば、フレデリカちゃんはどうやって私の所までピンポイントで……?」
「あぁ、それは簡単ですよ。ここ、決まったルートを通らないと入り口に戻されるかどんどん奥地へと彷徨っていく構造になってるんです。ただ、私はそのルートを周囲の木々に聞けるので」
「……植物との会話能力、便利だねぇ……」
「えへへ」
迷路の中をヒントどころか答えありきで進んでいるようなものだった。





