Episode6 - まずは観察を
服装は少し懐かしい初期服……ではなく。
所々が白く染められた、ちょっと変わった布の服。インベントリの中身は無くなっていた。イベントの仕様通りだ。
「さて、と。周りには……居ないな、2人」
まずは身内との合流が先決だ。
なんせ2人が居ないと何も食べられない。こっそり食べても良いのだが……まるで小さな子に対する注意をされた手前、意地でも食べるつもりはなかった。
私以外にもプレイヤーも何人か倒れている。プレイヤーによって目覚めるタイミングが違うのか、徐々に立ち上がっていく姿を横目で見ながら、ここからどう行動すべきか考える。
……んー、いや。普通に動いても迷子一直線だなこれ。
無人島。目の前には鬱蒼と生い茂る森の入り口だ。
フレデリカに見つかる為に植物の近くで待機しているのは良いかもしれないが……それはそれで面白くはない。
かと言って、森の中に入っていくのには流石にマップ把握能力が足りていない。
「どーうするかなぁー……」
「あ、あの!」
「ん?」
と、森の方を見ながら考えていると。
背後から声を掛けられた。女性の声だ。
振り返ってみると、そこには私よりも頭1つ分小さい人間のプレイヤーがそこに居た。
「突然すいません!私、普段はクリフヘイムにて冒険者をしております、検証組のリットンです!」
「クリフヘイム……それはまた珍しい。うん、私はイヴ。どしたの?」
「いえいえ、イヴさんの事はまぁ、その……色々な意味で良くお話も聞きますから。それに、モンスターアバターの中では人間側とある程度交流がある方としても有名なので、ご挨拶を、と思いまして」
「あぁー成程」
検証組。
どのゲームにも居る、ゲームの仕様……チュートリアルやトピックスで知る事が出来る表の情報だけでなく、目に見えないマスクデータと呼ばれるモノを暴き、周囲へ喧伝するプレイヤー達の事だ。
彼らの行為は悪ではない。検証の途中で運営の想定外の挙動を見つける事もあるし、それを機に修正が行われる事だってあるだろう。
私も他のゲームでは彼らの様な検証系のプレイヤーとは良く交流を持っていた。
「ちなみに……イヴさん的には、この島……今来たばかりだと思うので、パッと見の所感とかってありますか?」
「所感ねぇー……」
改めて周囲を見渡してから。
「うん、正直結構薄いね、この辺は」
「薄い、ですか?」
「うん。私【魂視】っていう魂を視れるスキルを持ってるんだけど、魂って生物にならなんにでもあるんだよこのゲーム。で、普段のフィールドとここの木々を比べると……うん、やっぱり異常にその魂が薄いんだ。何というか……ほぼ水を出し切ったスポンジ?みたいな」
「……あぁ、何となく分かりました。搾りカスみたいなものですね?」
「そうそう、そんな感じそんな感じ」
普段活動している湿地帯、つい最近遠出していたタラッセイア付近、そしてフレデリカの農園。
様々な所で木々を見る機会がある。そして、それらにも魂が宿っており、小さくともプレイヤーやNPC達、モンスター達の様にしっかりとそこにあるのを視る事が出来ていた。
しかしながら、ここの森の植物は違う。
限りなく透明に薄い魂。喰らったとしても、微かに何かの味がするかしないかしか味のしなさそうな、それほどまでに色が薄い魂が、それぞれに宿っているのが私の目には視えていた。
「これがイベントだからって事ならまぁ納得は出来るんだけど……前回のイベントだと植物らしい植物とか無かったから比較できないのがね」
「成程成程……つまりは、もしかしたら魂に干渉してくる類のモンスターやギミックがあるかもしれない、と」
「あくまで私が視る限りはね。私は暫くちょっと探索したら森の方に行ってみるつもりだけど……魂を視れる、もしくはそれなりに魂に関係がある種族のモンスターのプレイヤーとか連れて行った方が良いかも」
「ふむ、情報ありがとうございます!共有しておきます!」
「はいはーい。それじゃあね」
リットンに別れを告げ、私はゆっくりと砂浜を移動し始めた。
プレイヤー達が流れ着いたこの島。今も砂浜には数多くのプレイヤー達が打ち上げられている。
フレデリカやフータがその中に居ないかどうかを確かめつつも、私は森の方へと視線を向けていた。
……普通に探索するつもりではあるけど……私、もう魂喰いじゃないんだよなぁ。
スキルによって魂を視る事も、魂を喰らう事も出来る。
しかしながら、種族的には既にそれではない。故に、もしもその手の適性が高い必要があるギミックなんかが出てきた場合……私は正直何も手伝えない。
まぁそんなギミックがあるのか、という話ではあるのだが。
「……よし、入ってみるか」
覚悟を決めた。
正直、今回のイベントで死んだ所でこの砂浜からリスポーンするだけで以降参加出来なくなる、なんて事はない。
迷ったら【再誕】分を含めて2回自死する必要があるものの……それでも、マップを把握しに行くのは大事な事だろう。
そう考えて、一歩森の中へと向けて踏み出して。
「げっ」
空気が変わったのを感じた。
木々の隙間からしか届かない太陽の光に、薄暗いが故に冷たい空気。何処かから見られている様な感覚と、ついつい声をあげてしまったが……見知った雰囲気。
それは、
「ここ、多分遺跡じゃんか……」
遺跡。それも過去討伐したソウマやダキニの様に遺跡内の環境を自身が過ごしやすい、もしくは好きなように書き換えた類のモノ。
つまるところ、このイベントフィールドである無人島は事前に考えていた通り、ただの無人島なんかではなく。
……意思があるボスが居る超巨大な遺跡って訳かよ!
しっかりと攻略を目指した方が良い類の遺跡だった、という事だった。





