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人を喰らう、味方も喰らう。両方やらなくちゃならないのが屍人喰いの辛いところだね  作者: 柿の種
第10章 後の海岸事変編

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Episode11 - VS『忌夜狩獣 レストート』4

本日5話更新

4話目


 両手を、両足を、口を。時折【ヒットボックス拡張】によって当たり判定を巨大化させる事で大きく削り喰らいながら。次第にダメージを与える為ではなく、目の前の美味い肉を喰らう為に口を動かすようになってきて。


「イヴ姉ちゃん、すまん!そろそろ限界!」

「んぐ。そう?だったら離脱して良いよ!こっちは……もう結構掘れたからッ!」

「良いのか!?」

「良いんだよ。フータくんは元々後衛だ、ナイフを使える様になったとしてもね。だからここじゃなく……後ろから、他の人達と協力して蛇の処理に回って」

「……了解、死ぬなら最後に、勝ってから死ねよッ!」


 フータが胴体から飛び降りていくのを聞きながら、視線を視界の隅の時間が表示されている場所へと向ける。

 拘束を開始してから約10分。いつの間にか経っていたには短く、戦闘中と考えると非常に長い時間が経っていた。

 そんな間、ワールドボスを仮にも1人で抑え続けたのだ。彼が逃げようと称賛される事はあれど罵倒される事はない。

 だからこそ、


「ここからは私達の出番だ。そうだろう?サムライさん」

「KILLゥッ!」


 修羅と化し、私が喰らい掘ったレストートの胴体の穴の近くまで来たサムライへと視線を向けずに話しかけた。

 突然乱入してきた時の面影は既になく。

 ポニーテールは解け、綺麗な金髪が血の色に染まり。和装は所々に穴が開いている。

 背中から生えた光る腕は赤黒く濁り、合計4本の腕に持った刀はその全てが赤黒い靄を纏っていた。

……デメリットで『狂気』がスタックする強化系のスキルかな。

 明らかに理性があるようには見えない。しかしながら、彼女はレストートだけを攻撃し続けていた。

 穴の中で喰らい続けている私には見えないが、音や聞こえてくる声からして、近場でレストートへと攻撃を仕掛けているプレイヤー達には攻撃はせず、きちんと敵味方の判別だけは出来ているようだ。

 それがスキルの効果なのか、そうでないかは置いておいて。

 少しだけそんな彼女の味を確かめたくなりつつも……視界下部のレストートのHPを見る。

 私とサムライだけでなく、他のプレイヤー達も攻撃に加わったからだろう。残HP自体は既に半分を切り約4割。このまま何も起こらないならば、20分程度で削り切れるペースだ。

 だが、それはレストートが動いてなかったからの話。フータが離脱した今、


「ボスが動き出すぞ!」

「口には気を付けろ!メントゥムの時とは違って丸呑みされたら即デスペナだってよ!」

「蛇の出現量、頻度共に増加!本体じゃなく蛇処理に何人か回れ!」

「自己強化重ねられる奴だけ今は前に出ろッ!後衛組は拘束急げ!!」


 他のプレイヤー達が本格的に動き出す。

 拘束が解けないようにと何処かセーブしていた部分もあったのだろう。ここからが本番だと展開し、攻撃を激化させようと改めて声出しを始め、


『――ぅぁるぅ!』

「「「!?」」」


 レストートから、赤ん坊の様な鳴き声が周囲に響く。

 それと共に、瘴気の密度が増し……胴体からは大量の蛇、蛭の様な生物が湧き出るように出現した。

 当然それは、私が喰らい進めている胴体の穴の中にも出現する。

……HPが減ったから行動パターンが変わった訳だ!しっかりそういうのがある相手なのね!

 1体1体の耐久力も、攻撃力も元から出現していた蛇とそう大差ない。蛭に関しても私の身体に自ら近付いてきてくれる為に、脅威になる所か片手間に食べられるおやつ代わりにしかなっていない。

 だが、変化はそれだけではなかった。

 レストートが今まで以上に積極的に攻撃を始めたのだ。穴の中、音だけで判断するならば……恐らく、尾か何かが増え、その巨体を存分に活かした突進や、その場での旋回行動。

 それ以外にも、近くにいるものを丸呑みにする様な行動も増えているようだ。そして、誰かが丸呑みにされるたびに……僅かではあるが、HPが回復している。


「……前の巫女さんみたいなお助けNPCが居てくれればいいんだけどさぁ……!」


 無い物ねだりをしても仕方がない。今は私がやるべき事をやるべきだろう。

 といっても、私が出来る事はさっきから変わらず喰らう事。ステータスの強化が重なっていくにつれて【ヒットボックス拡張】を合わせた捕食行動の規模が大きくなるだけで、これといった決め技なんてものはない。

 そも、【座標攻撃】の効果が薄い、もしくは効かない相手に対しては私は喰らい続けるしかやる事がないのだ。

 【暴食】によってその上がり方や【魂喰い】の副次効果……相手の弱体化も狙いやすくはなったが、結局喰らわない事には何も続かない。


「……うぷ」


 そうして食べていくと。驚いた事に、私の身体に限界が来た。

 このゲームで味わった事のない満腹感。無論、今も『飢餓』自体は機能しており少し経てばこの感覚も無くなるだろう。しかしながら、今まで感じてこなかったそれに驚き……そして、笑みを浮かべた。


「そっかそっか、私ってまだ満腹感とか感じれるんだ……へぇ?」


 笑い、自分の身体に鞭打つ様に。しかしながら心から歓喜を感じながら……更に喰らう。

 限界を迎えた自身の腹。それが更に膨らんでいくのを感じながら、ちらと見ただけで腹が膨らんでいるのを確認しながらも……更に喰らう。

 確かに満腹だ。吐きそうなくらいに、内側から破裂しそうなくらいには満腹だ。

 だが、そこで喰らうのをやめるなんて事は許さない。目の前に食べられるモノがあるのに、向こうから食べられにやってくる食材が居るのに、捕食者である私がそれを放棄するなんて事は絶対にあり得ない。

 だからこそ喰らう。肉を喰らい、骨を砕き、血で喉を潤し、そしてまた喰らう。

 食事に対してではない。自身の身体に対して乱暴に、肉を喰らい飲み込んで、また喰らう。物理的に腹が限界に達して内側から裂けたとしても関係ない。喰らう。喰らえば一時的にでも治るのだから、喰らい続ける。

 無心で、自身の心の赴くまま……身体の事なんて、今後の事なんて何も考えず。一時的にレストートの事すら忘れて喰らっていると。


『条件の達成を確認しました。特殊存在昇華が可能です。行いますか?』

「……はぁ?」


 急に現実に、ゲーム内に、ワールドボスとの戦いに、そして……目の前に突然表示されたウィンドウに意識を戻された。


 口の端から落ちかけた肉片を指で押し戻しながら。先程以上に重くなった腹を抱える様に体勢を直した後にそれを見る。

 以前見たのは……私が魂喰いに存在昇華をした時だ。それ以降、スキルレベルが60を超えても特になんの通知も無かったが故にすっかりと頭から抜け落ちていた。

 何が条件だったのか、どうして今なのか。何も分からない。分からないが、


「良いじゃん。面白そうじゃんか」


 私は選択した。


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