Episode2 - その内の1人
幼い女の子の様相は、今祭りにいる誰よりも異質なモノだった。
モンスターではない。人間だ。
しかしながら、その低い背に似合わないぶかぶかの軍服と、腰から下げた古めかしい1つの短銃。そして……彼女の軍服に掲げられた、幾つもの勲章らしきモノ。
明らかに住人とは違う、見た目に反した軍人の姿。
そして……私の眼には、幼い身体に収まり切らない巨大な魂が視えてしまっていた。
……成程、あれが。
プレイヤーではない。
そして、ただの軍人でもない。
彼女は……タラッセイアという国において、一番と言って良い程に知名度のあるNPC。
付き人であろう男の肩に乗り、少しばかり違和感があるような表情を浮かべている幼い少女にしか見えないものの。周囲の彼女へと向ける視線が微笑ましいものではなく、少しばかりの緊張を伴っているのが、彼女がただの子供でないのを示していた。
「フータくん」
「あぁ、分かってる。分かってるけど……喰いたいとか考えるなよ?イヴ姉ちゃん。まだ俺達は着いたばっかなんだぞ?」
「あは、何も言ってないじゃんか。――でも、あれがこの国の軍事担当様かぁ」
タラッセイアでは三権分立とは似て非なるものの、国の運営に関わる3人のNPCが存在する。
政治を主に担い、貿易や他国との交渉を行う『鉄面皮』。
監視船を始めとした、国内の治安維持や罪人の処分を主とする『放蕩指』。
そして、タラッセイアという国の戦力……軍を束ね、外海へ侵攻し領土を広げる事を主な仕事とした『海賊姫』。
3人の意見を束ね、国の行先とする。それがタラッセイアという……他国と比べ、比較的新しい国の在り方だった。
「むぅ。無理矢理やらせても面白くない……仕方ないなぁ。――ねぇねぇお姉ちゃん!私も乗せて!」
「おぉっと!?」
「お嬢!?」
私の肩に突然子供1人分の重みが追加される。
見れば、先に乗っていた筈のフータは器用に左の肩へと退けられており……もう片方、右の肩には少し離れた位置にいた筈の彼女が笑顔で乗っていた。
「むふふー……ん?お姉ちゃんもしかしてモンスターさん?」
「あー、うん、そうだね。私はこれでもモンスターさんなんだよ。ちなみに君の名前を聞いておいていいかな?」
「私?私はレイナ!よろしくね!」
「レイナちゃんか。うん、こちらこそよろしくね」
右肩に乗る『海賊姫』……レイナが私へと向けて手を伸ばしてくるのに、握手をする事で返しつつ。
血相を変え、こちらへと迫ってきている付き人をどう対応すべきか……私の頭の中は急速に回転し始めていたのだった。
―――――
暫くして。
「大変申し訳ない!」
「あは、別に良いって良いって。私は気にしてないから」
「いやいや!それでもお嬢を抑えておけなかったオレらの責任でさァ!このお詫びは、どうかここの飯で勘弁してくだせぇ!」
「……ほぉーう?」
私の肩に乗ったレイナは、すぐに付き人に確保され。
そのまま、迷惑をかけたと言う事でタラッセイアの本土……本船?の中にあるレストランにて料理をご馳走になっていた。
驚くべきは、彼らの態度だ。
港にいた住人達は、少なからずフータの姿を見て嫌悪感を抱いていた筈なのにも拘らず。
この場に来るまで、誰1人として私達へと忌避の目を向けてくる事はなかった。
「当然でさァ。オレらの船員の中には話の出来るモンスターも居る。人間のオレらだけじゃ把握し切れない海の中や気候も、アイツらが居るお陰で事前に把握して対応出来る。認めはしても、排除するなんて事はオレらはしないんですよ」
「おや意外。でもそれって他の国からは……」
「当然、良い顔はされやせん。それでも、オレらにとっては必要な仲間達。……まぁ、他の国の奴らも、一回海に繰り出してみりゃ良いんですよ。その辺りがよぉーく身に染みる筈だ」
食事をしながら、付き人から色々な話を聞いていく。
彼らは漁師ではなく国に仕える軍人だ。しかしながら、彼らのトップは……今も無邪気にデザートを食べている幼い少女。
彼らは彼らで、色々と考え、そしてこの幼い少女を支える為に頑張っているのだろう。
……うん、食事は美味しい。新鮮な海鮮を使ってるのもあるけど……生の魚が出てくるとは思ってなかったな。
テーブルの上に置かれているのは、刺身の様な料理やカルパッチョ、それにアクアパッツァなどと言った主に魚を使ったタラッセイアらしい料理の数々。
海に近いどころか、海の上の国だ。当然と言えば当然だが……どれも旬の様に脂が乗っており非常に美味い。
「して、お客人。アンタらは何が目的でタラッセイアに?見た所、ただ祭りを楽しんでたってワケじゃあないんでしょう?」
「まぁ素直に楽しんでいたかって言われると……そうじゃあないね。恥ずかしい事に」
「ちょ、イヴ姉ちゃん」
「良いんだよ良いんだよ。……多分、ここだ。私達が気張らないといけない場面はね」
食事の場とは思えない程に空気が変わる。
付き人は私達がモンスターでありながら、ただただ問題も起こさず、かと言って祭りを楽しむ為に港に居た訳ではないと身なりを見るだけで理解していた。
だが、その上で……ある程度までは話が出来ると、すぐに警ら隊に突き出す事はせずにこうして食事をするという道を選んだのだろう。
その場に国のトップの中の1人であるレイナが居るのは恐らく誤算なのだろうが。
「じゃあ、ここからは難しい話をしようじゃあないか」
「望む所です」
あまり舌戦の真似事は得意ではないのだが……横にはフータが居る。
少しばかり頑張ってみる事にしよう。





