Episode1 - 海の祭り
強い日差し。輝く海。そして、強い潮の香り。
夏の様でありながら、この世界には夏の様な季節は実装されておらず。ただ、その手の温暖な気候であるだけ。
だが……しかしながら。
「うーみだぁ!やっほぉーい!!」
「元気だな……いや、俺よりもはじゃいでるのはどうなんだよ成人女性」
個人的に、私はそんな場所、時期、シチュエーションが好きだった。
場所はタラッセイア、その近くの海岸。
煩わしいゴミや、現実の海の様に濁ってはいない蒼く澄んだ海。
そして、海の中には……巨大な影。
「いやぁ。でもだぜ?フータくん」
私が海に駆け寄っていくと共に、その影は大きく……海が盛り上がる様にして海上へと姿を見せる。
赤く、それでいて金属の様な光沢をもった身体。
一際目立つのは、右手に当たる部分に存在する大木をも断ち切れそうな巨大な鋏。
蟹だ。それも、しっかりとこちらを敵として……餌として認識しているモンスターだ。
「こんな良いシチュエーションに、ご飯が勝手に近寄ってきてくれるんだ。テンションが上がらない訳ないだろう?」
「ぁー……うん。好きにしてくれ」
私の背後、少し離れた位置で厚めの布を頭から被って陽射しから隠れているフータは諦めた様にそう言った。
その反応に何かを思う事はなく。
私はそのまま、巨大蟹に対して笑みを浮かべながら駆けていく。
私達…….というよりは。私は今、KFOをプレイしてきた中で一番ゲームをゲームらしく楽しんでいた。
無論、別に元々の目的を忘れて休暇を楽しんでいる訳ではない。しっかりと理由があって、今私達はここに居るのだ。
―――――
時は遡り、タラッセイア到着時。
「とうちゃーく!思ったよりも掛かったねぇ」
「そうだな……っと、俺は一応ローブか何か羽織っといた方が良いよな?」
「そうだね。どうせ監視船でバレるけど、普通の住人達に変な目向けられるよりはそっちのが良いでしょ」
「了解了解」
タラッセイアには特定の街、というのは存在しない。
きちんとした陸地の領土は巨大な港のみであり、それ以外は巨大な船舶を土地として利用する事で1年間の殆どを海の上で過ごしているのがこの国の生活スタイルだ。
今回私達が辿り着いたのは、その港。
名前をシッテルダム港と言う。
シッテルダムに入る事自体は簡単だ。他の国に在るような検問は一切なく、徒歩で気軽に誰でも入る事が出来る。
何故か?港に泊まっている監視船がその役割を担っているからだ。
自動で犯罪者や野良のモンスターを検知し、その上で近くで待機している警ら隊へと通報。そのままお縄となる。聞いたところによると、他の国よりも犯罪検挙率やモンスターによる被害は少ないらしい。
「見ていって見ていって!建国記念で安くしてるよぉ!」
「ツルギトビウオの塩焼き!こっちはフクロダコとテッポウイカの炒め物!食ってけ食ってけ!」
「宝石ホタテの真珠を使ったアクセサリーはどうだーい!装備能力もそれなりに優秀だから、女性冒険者にはもってこいだよ~!」
「活気があるねぇ。ガスフロス以上かも」
「まぁ祭りだもんな。普段の首都と比べるもんじゃねぇだろ」
「あは、それもそうだね」
立ち並ぶ出店に、鼻をくすぐるのは海鮮の焼ける良い匂いと潮の香り。
子供や大人、人間アバターからモンスターアバターのプレイヤーまでもが入り混じり、それなり以上の賑わいを見せている。
タラッセイアでは現在、建国を記念した祭りが開催されており、普段は買えないような期間限定のアイテムや食事を楽しむ事が出来るらしい。
尤も、シッテルダム港で楽しめるのはそのほんの一部だという話なのだから……これからの事を考えると、口の中に涎が溜まっていってしまう。
「取り敢えず港全体見て回るか。イヴ姉ちゃんは金持ってるのか?」
「一応、ガスフロスで知り合いと会った時に幾らかは換金してもらってるよ。普段使う事なんてないからそのまま放置状態だったけどね……っと。そうだ」
「ん?どうしたぁ……ってぇ!?何急に肩車なんてしてるんだよ!?恥ずかしいだろ!?」
「いやいや、申し訳ないけどフータくんのアバターは背が低めじゃん?流石に祭りの中じゃはぐれる可能性もあるからね」
「だ、だったら手を繋ぐとかでも良かっただろうがよぉ……!」
「それはそれで、フータくんが祭り特有の景色を楽しめないじゃないか」
彼の身体の、脇に手を入れて軽く持ち上げる。
そしてそのまま私の肩へと乗せてから、祭りの中を歩き始めた。周囲からは肩の上に居るフータに対して生暖かい視線が向けられたものの、羽織ったローブの隙間から見える彼の風貌が人間とは違う事に気が付きすぐに目を逸らされる。
それに気が付いたのだろう。フータもフータで恥ずかしさから暴れてはいたが……すぐに大人しくなった。
「……やっぱNPC達にはあんまりウケが良くないんだな、モンスターアバターは」
「まぁ、基本的にモンスターは悪って世界だからね。普通にここまで入ってこれて、尚且つ問答無用で追い出されてないだけ、ここは優しい方だよ」
「それも……そうか。ガスフロスとか普段は問答無用で排除一択だからなぁ……」
そんな会話をしながらも、私達は祭りの中を進んでいく。
正直、凄く出店で何かを食べながら進んでいきたい所ではあるのだが、それをしていると恐らく日が暮れても港から出る事が出来ないだろう。主に私の所為で。
故に、後ろ髪引かれながらも、私はフータを肩に乗せたまま船の方向へと進んでいくと。
「む。ねぇねぇ!私もあれやりたい!あれやってよ!」
「い、いえお嬢。流石にお嬢にやるとオレらがただじゃすまないっていうか……」
「やるのやるの!あれ楽しそうだから私もやりたい!やってやってやってよぉ~!」
「ちょ、ちょっと!引っ張らないで下さいって!分かった、分かりましたから!」
何やら、ガタイの良い男性が幼い女の子に振り回されている姿を見かけてしまった。





