Episode9 - 海へと向かって
次の日。
ログインしてきたフータと共に、再びタラッセイアへと向けて移動を開始した。
それなりに長い道のり。攻略した遺跡を中継地点として使ったとしても、あと丸1日程度は移動に費やす事になるだろう……そう考えていた、のだが。
「いやぁ、意外と世界って狭かったんだなぁ」
「いやいや、確実にイヴ姉ちゃんが速いだけだぞコレ」
集合し、移動し始めてから約2時間。
道中、特に面倒事が起こる事も新しい遺跡を発見する事なく。順調に進んでいった私達の鼻が、今までとは明確に違う濃い匂いを捉えた。
潮の匂いだ。
これまでも微かに、薄く漂う程度の匂いはしていたものの……現実で海に行った時に感じるあの濃い匂いが今、私達を包み込んでいた。
とは言え、まだ海は見えていない。
周囲の景色もここまで走ってきた場所と大きく変化している訳でもなく、足元に細かい砂が混じり始めた程度。
故に、私はフータをしっかりと抱えると共に、
「よっ、とォ!」
跳ぶ。
近くにあった背の高い木の、太い枝に跳び乗って。更にそこから手を使って登っていって……周囲を見渡してみれば。
「「おぉ~……!」」
見えた。
私達が進んでいた方向。まだ遠く、ここから進んだとしても時間単位で到着するには掛かるだろう。
しかしながら、見えた。青く、太陽の光を反射して輝くソレ。
海だ。
恐らくフータはその景色への感動から、そして私は勿論……この先に待っているであろう海鮮に対しての期待から思わず声が漏れてしまう。
「ほら、見えるかいフータくん。めっちゃでっかい船が泊まってる」
「あぁ、見える見える。あれがタラッセイアの領土、なんだよな?」
「正しくは、あの船を含めた何隻かの船の上と、その周りのでっかい港がタラッセイアが持ってる領土になるねぇ」
「結構複雑な国だよなやっぱ。なんだよ船が領土って」
「他の国が基本的に内陸部にしかないからね。その点を考えると……まぁある程度国土を大きく見せるのには必要だったんじゃあないかな」
とは言え、私達にはあまり関係のないことだ。
タラッセイアを襲う予定は今の所無いし、今回はあくまでも情報収集と植物採取が目的の遠征。
荒事に巻き込まれる事はあっても、荒事を起こす側には回る事は……きっと無い。
「えーっと……気を付けないといけないのは……何人かのNPCとプレイヤー、後は監視船だっけ?」
「そうだな。俺達から見てどれがそうかは分からないけど、デカい船に居る3人の船長達……それぞれが国の運営に関わってる奴らに見つかるのは避けた方が良いらしい」
「ふぅん?」
タラッセイアの成り立ちは以前知った通り。
その上で、現状のタラッセイアには3人のトップが居る。
国の運営に関わる者。
国の治安維持に関わる者。
そして、国の戦力を担う者。
それぞれが独立した権力を持つと共に、誰か1人欠けたとしても国として成り立つ様になっているらしい。
……本人達も実力はあるんだろうけど……怖いのはその周りかな。
そして、そんな国のトップ達の周辺には勿論近衛兵が居る。
相手が何者かを探り、排除し、主人を守る為に動く者達だ。
無論、モンスターである私達は彼らからすれば排除対象。万が一見つかりでもすれば……確実に戦闘になる事だろう。
「プレイヤーの方は海上の戦いに慣れてる奴が多いみたいだな。ロレリアと違って、剣や弓じゃなく銃がメインの武器らしい」
「うげぇ、見てから避けるのむずいじゃん」
「弓も普通は難しいんだけどな……?」
そして、プレイヤー達。
環境が違えば、使われる武器も違う。
ロレリアの様に周囲に障害物が少なく、プレイヤー達の移動方法が馬や徒歩に限られている環境とは違い、タラッセイアでは基本的に船を用いて移動する。
故に、船に積まれている大砲や、離れた位置からでも威力が落ちにくい銃を用いた戦闘が盛んらしい。厄介な事だ。
「最後に監視船。特定範囲内に入った敵対的な奴らを自動で検出、通報するんだと」
「……変に便利だね」
「まぁその辺りはゲームだからだろうな。スキルを付与したアイテムで作り上げたタラッセイア特有の船らしいぞ?」
「そもそも船自体がタラッセイアくらいでしか見れないけどね、今は」
「まぁ、それはそうなんだけど!」
そして監視船。
言ってしまえば、通報機能が付いた監視カメラの類だ。
タラッセイアの一定範囲毎に泊められており、その範囲内に入った者を検知。対象が敵対的であれば……その時点で警ら隊へと通報されるらしい。
救いなのは、モンスターアバターであるからと言って問答無用で通報される事はないらしい。
野良のモンスターは通報される辺り、何かしらの基準があるのだろう。
「ま、気を付けるのはこの辺だな。ちなみに今は建国記念の祭りをやってるらしいぞ」
「へぇ?良くある建国何年〜みたいな?」
「そうそう、それ」
「良いじゃん良いじゃん。お祭りでしか食べられないものとか有るだろうし、良いタイミングだよ」
言って、木から飛び降りながらタラッセイアを目指し再び駆け出した。
これまでは遠征の前段階。まだ目的地にも辿り着いていなかった、いわば準備段階。
そして、ここからは……やっと、この長い移動時間を意味あるモノにする為の時間となる。
「なぁに食べようかなぁ……」
とは言え、私の頭の中はタラッセイアで何を喰らうのかという考えだけが巡っているのだが。





