Episode8 - 今回は
「だぁあ!何まったりしてやがる!ほら支配権とったから早くリスポーンの設定しろって!」
「あは、確かにそうだね。ありがとうフータくん」
ボス戦が終わり。
周囲を見渡しながら一息ついていると、すぐに遺跡を支配してくれたフータに急かされスポーン位置の設定を行った。
これでダキニの遺跡の自分の部屋からリスポーン出来なくはなったが、戻れば設定し直す事が出来る為問題は無い。
どちらかといえば、今はここからタラッセイアへと向かう事の方が重要なのだからそれで良いのだ。
「じゃ、一旦死んでから戦後処理と行こうか」
「おう。俺がやろうか?」
「いんや?大丈夫」
フータが罠を作り出そうとするのを手で止め、自身の右手を首へと持っていき生成した口で一噛み。
当たり判定の拡張も行ったそれは、一瞬で私の首全体と顔の下半分を巻き込み……そのまま少ないHPを削り取ったのだった。
―――――
「と、言うわけで。ボス戦お疲れ様ぁ〜」
「お疲れ様。俺は殆ど何もしてないけどな」
「いやいや、フータくんが動き止めてくれたから私が好き勝手出来たからね。有難い限りだよ」
「……まぁ、好き勝手は本当にしてたな……」
戦後処理、と言っても別に壊れた遺跡を直すなんて事はしない。
お互いに得たボスの素材の中で欲しいモノを交換したり、一度死んだ私の様にHPの回復などを行う程度だ。
タラッセイアに向かっていく間、消耗品の補充は出来ない。それこそ、最悪そこらの野良を喰らう事でHPの確保が出来る私と比べ、その手の回復手段に乏しいフータの為にだ。
「俺も何かしらの近接戦闘手段を持っといた方が良いかな」
「んー、確かにそうだね。今回はそこまで影響無かったけど、私がフォローに入れるタイミングが無い可能性だってあるし」
「だよなぁ……」
話を聞きながら、私は自身のインベントリ内のアイテムを確認していく。
ここ最近は遺跡の攻略をし続けていた為に、スキル獲得用のMVPアイテムが貯まってしまっている。
しかしながら、相手にしてきたボスの中で私のスタイルに合いそうなスキルを使ってきたボスは少ない。
……そもそもとして、【捕食】系を使うボスなんて見た事ないけどね。
喰らう事をトリガーとして発動するスキルを使うボス、そしてモンスターは意外にも少ない。
理由は簡単だ。
野生の中で、私の様に延々と喰らい生き続ける事は難しい。頂点捕食者でもない限り、何処かで限界が来て殺される。
遺跡に存在するボスも、頂点捕食者に位置する者ではあるが……彼らは彼らで、遺跡内にスポーンするモンスターを喰らい続けるだけで生きる事が出来る為に、そこから先……一時的な強化よりも、他のスキルで永続的に強化する道を選ぶ。
故に、私の求める【捕食】などを補助するスキルを持つ事自体が珍しいのだ。
「イヴ姉ちゃんは拘束系への対策とかしないのか?」
「しようとは思ってるんだよ。でもさぁ……」
「でも?」
「正直、口が動かせるならワンチャンあるし、何なら下手な拘束程度なら噛み壊せるんだよね」
「……そうだった……今回もそれで何とかしてたしな……」
そして、もう1つ。私がスキルを取得する候補としては拘束系への解答手段というのがある。
と言っても、今のところ全てが全てステータスでのゴリ押しか、【口腔生成】による物理的破壊。
もしくは、【座標攻撃】を使った拘束者に対しての直接攻撃による解除と……結局は力業で解決出来てしまっている。
良くない成功体験であるのは理解しているし、それが原因で今後痛い目を見るのだろうとは考えている……ものの。
……性に合わないってのもあるよねぇ。
どうしても、その手の小細工が好きではないというどうしようもない自身の性格も相まって、食指が伸びないのだ。
「ま、私の方は良いんだよ。結構数あるMVP報酬の中から適当にスキル取るからさ」
「普通はそんなに取れないんだぞ、MVP」
「あは、ソロで攻略しないのが悪い」
「それはそうなんだがなー……っと、よし決めた」
と、ここで。
私と話しながらスキルの一覧を見ていたフータが何かしらのスキルを取得した。
その上で、
「よっ、と」
「おぉ、それは……ナイフ系のスキルかな?」
「あぁ。ナイフの扱い全般に補助が入る【短剣の心得】ってやつ。ナイフ自体は……ほら」
言うと共に、彼の顔近くの虚空から突然ナイフが射出され……それを軽く指で挟んで止める。
【罠生成】によって作り出されたナイフ系の罠だろう。
「成程。直接生成する訳じゃなくて、あくまで罠の延長上として使う訳だね」
「だな。1本だけ俺の方に向かってくるように使えば、それを使って近接戦闘も出来るようになる。ま、問題は維持時間がちょっと短いくらいか?」
「それくらいなら戦闘中は気にならないんじゃない?どうせ沢山罠使うでしょ」
「それもそうだな」
言っている間にも、私が止めたナイフは消えていく。
罠の性質にも依るが、基本的に命中しなかったものや無力化されたものは少し経てば消えていく。
それも相まって、フータのナイフは嵩張らない。武器の持ち込みが制限される場合でも、補充元はスキルによる物が故に、理論上は何処にでも持ち込める。
……真正面からってよりは暗殺者みたいな構成になってるのは……まぁフータくんのビルドだし口は出さなくていいか。
本人的にもそれを使うのは最終手段になるだろう。
基本的には私や他の前衛を張れる者の後ろから、状況に合わせた罠を生成するのが彼の仕事なのだから。
「んー……じゃあ私は1個だけスキル取っとこうかな。フータくんはこの後どうする?」
「時間は……結構良い時間だし、このまま落ちるよ。明日は今日と同じくらいに?」
「そうだねぇ。早めに来ちゃったら適当に過ごしとくから、急がなくても良いよ」
「了解。それじゃあまた明日な、イヴ姉ちゃん」
「はーい、また明日」
フータがログアウトしていくのを見送りつつ。
私もMVP報酬を使い、1つのスキルを取得した後にログアウトした。
明日からは本格的にタラッセイアへと向かう事になる。
面倒事が起こらねば良いが……私達はモンスターアバター。面倒事が向こうからやってくる可能性の方が高い。
「出来れば美味しい出来事だと……良いなぁ」
独り、呟いた。





