Episode6 - VS『共生樹 コーディス』2
身体を複数回、木の根が貫いていく。
衝撃が正面から背後へと向けて抜けていくのを感じながらも、私の視線は視界内の自身のHPへと向いていた。
木の根や、手足と首を縛り上げる蔦に依るダメージ。
身体を貫かれた事による『出血』や、首を絞められた事による『窒息』。そして自身の【暴食】によって付与された『飢餓』。計3つの持続ダメージ。
それらによって減り、今も減っていくHPを見ながら……私は一つ息を吐く。
……凄いな。繭みたいになっちゃった。
私の周囲は既に蔦と根によって球状に覆われてしまった。
恐らくは私を逃がさない為なのだろう。ゆっくりと動かしているのか、身体を縛り上げている蔦から僅かな振動が伝わってくる。
普通に考えればこのまま私が死んで、フータもボスを抑え切る事が出来ずに倒され攻略は失敗する事だろう。
「まぁ、そうはならないんだけどさ」
私の身体を貫いている根は2本。そのどちらも胴体部に生成した口の歯によって噛み止められ、前後どちらにも動かない様に固定されている。
引き抜かれる事で更に出血するのを防ぐためだ。
現実で何かが身体に突き刺さった時の対処法ではあるが、一応はこのゲーム内でも有効かと思いってやっている事。
「……よぉーし……気合気合。世の中意外と気合入れたら何とかなるんだからさ」
誰に言う訳でもなく。ただ無意識に、口から出てくる適当な戯言を自分自身で聞き流しながら。
再度息を吐き、しっかりとこの後に起きる事を予想して少しだけ苦笑してしまいつつ。
私は胴体に生成していた2つの口を消した。
「ぐっ、ふぅ……まぁそりゃあそうなるよね。でもこれで6個、口が使える訳だ」
瞬間、私の身体を貫いていた2つの根が引き抜かれ。再度貫こうと一瞬の溜めを作る。
とは言え、何の考えも持たずに口を消した訳ではない。
「さっきは肉を食べたからね、肉の後は野菜を食べなきゃバランス悪いッ!」
首、四肢。それぞれ私に巻き付いている蔦の下に口を生成し……喰らい千切っていく。
それに反応してか、焦った様に迫ってきた根へと対して視線をしっかりと向けて……私自身についた口で虚空を喰らう。
【座標攻撃】。【ヒットボックス拡張】も合わせる事で攻撃範囲を広げたソレ。
迫る根の内、1本が先端から半ばまで。もう1本がその攻撃範囲内に入っていたのか少しだけそれによって千切れ消えていく。
……もう1本はもう1本でッ!
一瞬怯みながらも、私へと向かって迫ってきた残りの根。
だが、その一瞬は私に自由を齎した。
「やっぱ私は拘束に弱い訳でッ!」
一撃。勢い良く迫る根の先端を蹴り上げると共に、素早く一歩だけ前へ移動する事で両の手でそれを掴む。
そうして行われるのは……このボス戦の一番初め。私が暴走する前に行った事の繰り返し。
力の限り自分の元へと引き寄せるのだ。
「どうするかどうするかって考えながら、今日ここまで来た訳なんだけどさァ!」
『――!?』
しかしながら、その勢いは最初のそれではない。
当然だ。ボス戦の初めはまだ配下から共有されたバフのみの、言わばほぼノーマル状態の私だったのだから。
それに比べ、今は……ボスの肉を喰らいテンション上げながら、HPが今も徐々に減っていく様な極限状態。
【捕食】、【魂喰い】だけでなく、【背水の陣】までもが乗った、スーパーな状態になっているのだ。
……おぉっと!?
ぐんと手元の根を引き寄せると同時、蔦と根で出来た繭が大きく揺れる。
それと共に、遺跡の水路を壊した時と同じ悲鳴の様な音が聞こえ……何か巨大なモノが根の先に引っ掛かっている様な感覚が手に伝わってきた。
その正体が脳裏に過ると共に、今度はしっかりと笑みを浮かべ。
繭の一部を足の裏で喰らいながら、減っていくHPを少しでも確保しつつ私は言う。
「植物なんだから、ちょっとは大人しくサラダにでもなっておきなよね」
両足の裏の口で繭をしっかりと噛み留めて。
体重を一度前へ、戻っていこうとする根を手のひらに生成した口で噛む事で固定し離さない様にして……一息。
「……せェーのォッ!」
身体を捻り、向いている方向から反対側へ。
根を肩に乗せ、引き寄せるというよりは引き上げるようなイメージで一気に引く。
すると、だ。先程よりも抵抗が強く、逆に引き戻そうとする力が働く感覚と共に……やがて、それは繭全体を襲う揺れとなる。
普通ならば立ってられない程の揺れ。しかしながら、私はそんな状況でも根から手を……口を離さない。
足裏の口もしっかりと繭を噛んでいる為に、私の身体はどんなに激しい揺れの中にあっても倒れず、力を入れ続ける事が出来ていた。
徐々に私と張り合う力が弱まっていくのを感じつつ。途中で引っ掛かっていた何かも抜ける事が出来たのか。
一気に抵抗する力が無くなって……それを引き寄せ引き抜く事が出来てしまった。
「よっしゃァ一本釣りィ!」
『――?!』
ずるり、そんな擬音が似合いそうな。
しかしながら、繭を外から壊すように。
巨大な樹木……狼の背中に生えていた筈のそれが血に濡れて飛び込んできた。
……おぉお!?すっごい事になっちゃったなぁ!?
それに合わせるように、繭全体が崩れていく。
最初に見えるのは……赤。鮮血の色だ。
それと共に、そこらに飛び散った肉や骨、少し離れた位置で茫然とした表情を浮かべながらも、何らかの操作をし続けているのであろうフータの姿があった。
狼の姿は……どこにもない。
「フータくん状況!」
「……あ、あぁ!イヴ姉ちゃんが捕まった後にそれを狼が呑み込んで、その後に突然震え出したかと思ったら背中の木が身体の中に飲み込まれて吹き飛んで、そのまま今!」
「成程、大体理解したよ!」
どうやら、大分力業でボス戦を攻略してしまっているらしい。





