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人を喰らう、味方も喰らう。両方やらなくちゃならないのが屍人喰いの辛いところだね  作者: 柿の種
第9章 遠征開始編

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Episode5 - VS『共生樹 コーディス』1


 戦闘前に考えていた事が全て吹き飛んだ。

 何せ、目の前に突然御馳走が飛び込んできたのだ。余計なことを考えるよりも、先に喰らう事の方が何よりも優先されるべきだろう。

 狼が吠え、木が叫び声の様に全体を軋ませながらも、一部を喰らった私へと攻撃を返す様にその場で横に回転する。

 薙ぎ払いだ。

 見るからに巨体。私よりも2回り以上も大きい四足歩行の動物が狭い通路でそれを行うのだ。巻き込まれれば、幾ら強化されていると言ってもかなりのダメージを食らう事になる。

 だが、私は嗤いながら更に前へ出る。出た。

 姿勢を低く、ほぼ地面と平行になる様に身体を倒し、私の身体を狼の真下……腹の下へと移動させる様に足を動かせば。


「当たらないッ」

『ッルァ!』


 尾や身体から突き出る様にして生えている蔦、木の枝などは回転の中心部である腹の下には届かない。

 そして、四足歩行であるが故に、腹の下は死角。幾ら背中の木が自由意志を持っていようが、反対側に居る私に攻撃するのは中々に難しいだろう。

 故に、無防備な白い腹へ両手と口を近付けて、


「イタダキマス」

『――ッ!!』


 狼の叫び声が遺跡内に響き渡る。

 口の中に広がるのは、先程も口の中へと含んだ野生の獣の匂い。

 だが、それだけではない。

 何処か古く感じる濃厚な血の味に、腹だというのに少し固く感じる肉の味。

 溢れる涎によってそれらを一噛み、二噛みしてから飲み込めば、口の中に残るのは微かなハーブの様な香草の香り。

 通常、現実であれば食えたものではないそんな味。しかしながら、それらに付随する様に舌に乗るのは……濃厚な、様々な味のする魂の味わいだ。


「これだからッ!魂喰い(わたし)は辞められないんだッ!!」


 美味い。

 素材そのものの味を、魂というソースが一種の料理として成り立たせている。

 だが、惜しい。それ故に、惜しい。

 これは料理ではなく、生きている物。生物だ。生物の味なのだ。

 私が捕食者でなく、調理者だったならば……この味を活かす為の料理を考えることも出来ただろう。

 しかし、それは出来ない。

 私はモンスター。人の様な見た目をしていても、その両手を調理ではなく捕食の為にしか今は使えないのだから。

 出来るならば、このままずっと目の前の肉を喰らっていたい。腹が満たされていく、渇いていた身体に活力が漲っていく感覚を享受し続けていたい。

 嗚呼、でも悲しいかな。


「そろそろ正気でやらないとね」

「――そうだよマジで!いつまで好き勝手に喰らってやがる!?」


 私の身体がぐんと背中側へと引っ張られる。

 ボスの能力ではない。

 この場にいる、私の仲間であるフータが対象を引き寄せる罠を使い、私の事を自身の近くまで引き戻したのだ。

 そして見えてくる。

 狼の背中の木。苗床としている狼を喰らっているのにも関わらず、蔦などで無理矢理に攻撃して来なかった理由。それは、


「流石罠使い。相手が植物でも拘束出来るんだ、凄いじゃん」

「当然!」


 虚空から放たれている様に見える、無数の細い金属製の糸。

 それによって樹木本体だけではなく、身体から生える蔦や、いつの間にか遺跡の床から生えていた木の根すらも拘束されていたからだ。

……物理型、それも……スキルによって補強してるのかな?

 フレデリカによる、軟体を活かした受け流しの拘束ではなく。

 物理的、硬質な物質を扱う事で動く余地を与えない拘束。

 彼がその場その場によって罠を生成する事ができるからこその拘束だ。


「あと何秒保つ?」

「10、いや……1分は保たせてやる!武器は!?」

「あは、要らないよ。ありがとう」


 言って、その場で踏み込んで、行った。

 瞬間、再度私とボスの距離は零に縮まって……先程までの様な暴走はしない。

 一時的にでも食欲が満たされたのだ。頭の中は戦う前よりもクリアに、そして動きは今まで以上に豪胆に。

 真正面、狼の頭が首や腹から血を流しながらも真っすぐと私へと向いている。

 その大きな瞳の中、私が笑みを浮かべながら右腕を大きく、弓の弦を引き絞る様に後ろへと引いて……打つ。

 狙うは眉間の間。下手に鼻やそれ以外の部位を狙い反撃の可能性を与えるよりも、避けにくく反撃される事が無いであろう部位を狙って……勢いと体重を乗せた一撃を放った。


『……ァガァラッ!』

「イヴ姉ちゃん!?」


 吸い込まれるように、私の拳は眉間へと命中し打ち抜いた。

 だが、相手はボス。流石に無抵抗で攻撃を食らってくれる程優しくはなかったようで。

 外に出ている部分が動かせないのであれば、出ていない内側から。

 狼が吐く様な、苦しそうな鳴き声をあげると同時。口の中……喉の奥から、大量の蔦と木の根が私へと向かって殺到した。

……避けられないな、これ。

 端から見れば絶体絶命。

 避けたくとも避けれない距離感。下手に避けようとしても、蔦に四肢を捕られ開いた胴体を木の根が貫く事だろう。

 骨の甲冑の強度自体は問題はない……と思いたい。

 仮に貫かれたとしても、貫かれた箇所に口を生成し噛み止める事で引き抜かれる事は阻止出来るだろう。

 HPの残存量も申し分ない。私自身のスキルで得たHPに、今も【バフチェイン】によって共有されてくる一時HP。それらを合算すれば……大体私2、3人分にはなる筈だ。

 故に、避けず。

 私の身体は蔦と木の根に飲み込まれた。


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