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人を喰らう、味方も喰らう。両方やらなくちゃならないのが屍人喰いの辛いところだね  作者: 柿の種
第9章 遠征開始編

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Episode4 - 私は我慢の出来る大人なんだから……


 遺跡の奥に進むにつれ、揺れは収まっていく。

 それと共に今までは何処かしらに存在していた根は見られなくなり、それらに捕まり栄養を吸い取られていたモンスター達の死体だけが通路の端々に落ちているのを目撃出来た。

 食べ残しは勿体ない。

 とは言え、流石の私もその死体達を喰らったりはしなかった。

 幾ら勿体ないとは言え、骨と皮しか残っていないモノを食べても私の食欲は満たされないからだ。


「イヴ姉ちゃん」

「分かってるよ。……やっと見つけたねぇ」


 そうして歩いていくと。

 私達はボス部屋へと繋がっていると思われる扉の前へと辿り着く事が出来た。

 今回の相手は推定植物系のボス。それも、あまり知性を持ち合わせているとは思えない類のモンスターだ。

 ボス部屋に侵入すると同時にボス戦が始まる可能性が高く、準備は今の内に済ませておいた方が良い。

……まぁ、私の方は準備とかは一切ないんだけどさ。

 既に事前に出来る準備はしてあるのだ。

 今も狩りを続けている配下達から共有されるバフ。それなりに長く何も喰らっていないからこそ精神的に感じてしまう食への欲望。

 生憎と植物相手の戦い方はあまり知らないし、ダキニとの組手で培った経験がどこまで活きてくれるかは分からない。とは言え、負けはしないだろう。


「使う罠は決まったかい?」

「まぁ物理系だな。属性ダメージ系はどれがしっかり効くかはあんまり分かんないから、矢や槍、後は……拘束系か?」

「無難無難。実際そういうのが一番徹りが良いんだから」

「まぁそうだな。後は……イヴ姉ちゃん次第だな。【捕食】系は使うのか?」

「んー……」


 正直、現状食欲自体はいつも通りに無限にあるものの。

 植物相手にそれをぶつけたいとは思っていない。否、当然リアルで見る様な野菜の姿をしたボスだったらその限りではないのだが……樹木の様なモンスターだった場合、正直あまり喰らうつもりはない。

 だが、それを抑える為の衝動をぶつけるのだけは相手がどんな姿であっても出来る筈だ。


「ま、トドメとかには使うつもりだよ。それ以外は戦いながら考えるつもり」

「負けるとは思ってないけど、その辺りの判断は早めに頼むぞ本当に!」

「あは、私を何だと思ってるんだい?」

「食欲魔人、なんでも口に入れる女、世界を食べ物か否かで見てる化け物」

「やっぱりフータくん私の扱い酷いよね!?」


 そんな事を言いながらも、私はゆっくりと扉へと手を掛ける。

 一度視線をフータの方へと向け、彼が頷くのを確認してから……力の限り、扉を奥へと押し込むようにして思いっきり開け放った。

 瞬間、内部から複数の木の根が私達へと迫り襲い掛かってくる。

 首、手足、胴。捕まれば身動きが取れなくなる部位だ。だが、私達2人共に焦って行動する事はない。

 瞬時に生成した骨の甲冑に身を包み、右手を前へ。根が手の先……指に触れると同時、無理に抗う様に動くのではなく、そのまま根が腕を沿う様に少しだけ流れを誘導してやって。


「さぁ始まりだ、気合入れるよッ!」

『――ッ!?』


 それ以外の根が私の首、胴、足に巻き付こうとしたタイミングで、滑らせ流した根を右手で掴み力の限り引っ張った。

 重い。しかしながら想像していたよりは軽く、簡単に私達の方へ……部屋の中から通路へと引き摺り出される。そして、


「おぉっと?……へへ」

「マジか……」

『grr……』


 中から出てきたのは、巨大な身体を持つ狼だった。

 白く、そして光の加減によっては銀にも見える毛並み。瞳には光はなく、しかしながらしっかりと視えはしているのかこちらへと向かって細かく動いているのが見て取れる。

 口からは大量の白く濁った涎を垂れ流しており、少しだけ見える牙も硬く鋭そうだ。

 しかしながら、それらよりももっと目を惹くのは……その狼の身体の内側から食い破る様に生えている青樹木だろう。

 狼の足を補強する様に巻き付けられた根。

 月の従獣の触手の様に獲物を探す複数の蔦。

 そして、極めつけは樹木の幹からこちらを覗く、巨大な1つの眼球だ。


「こりゃあ結構嘗めてたらヤバいかもな……」

「……」

「イヴ姉ちゃん!こっちはある程度罠の構成を変える!時間を……って、イヴ姉ちゃん……?」

「……へへへ……」


 だが、そんな樹木に関する情報はどうだっていい。

 今私にとって重要なのは……目の前に居るボスが『狼をベースにしており、骨と皮だけの様な存在ではない』事だけなのだから。

 フータが話しかけてきている内容も、私の耳には届いていない。

 目の前の狼の様に、私の口からは大量の涎が溢れ出し。

 視界は狭まり、樹木やそれに付随する植物的な要素は目に入らなくなる。

 心臓が早鐘を鳴らす様に高速で動き、全身に血を巡らせて。

 気が付けば、私は全力でその狼との距離を詰めていた。


『『共生樹 コーディス』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数2』

「っ、こんの食欲魔人がッ!クッソここで暴走するんじゃねぇよ!?」


 ボス戦(食事)開始の合図がログで流れたのと同時、私はまだこちらの動きに追いつけていない狼の、首筋へと向かって噛みつき、その肉と血を毛皮ごと喰らい千切る。

 戦闘開始だ。

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