Episode3 - 新天地の遺跡
遺跡の中はこれまで攻略してきたモノとそう大差ない明るさだ。
薄暗く、冷えた空気。
石材の床や壁の様子から、ここのボスがまだ遺跡内を自分の領域に変えていない事が理解出来る。
しかしながら、当然と言うべきか。
私達が見た事がないモノも存在していた。
それは、
「おいおいフータくん。凄いよここ、水路まである」
「フィールドの影響かぁ?一応罠らしい罠は見当たらないぞ」
「お、それは良かった」
水路。
多少広く作られた通路の脇、そこには水が奥から外へと向かって流れていく水路が存在していた。
遺跡の外に出ると同時に消えていっている為に侵入する前には分からなかったが……露骨な違いだ。
そして、それ以外にも目を惹く違いは存在している。
……壁の所々から生えてる木…….ってよりは、根っこかな?
生憎と、私は植物についてはフレデリカほど詳しくはない。
故に、それがどんな種類の植物で、何を意味しているのかは分からなかった。フータも同様なのか、こちらに視線を向けて首を横に振っている。
「……うん、進もう」
「その心は?」
「まず1つ、侵入してからもう1、2分経ってるのにモンスターが襲ってこない事。知能があるのか、それとも単純に足が遅いか私達に気が付いてないか。どちらにしても、私達がよく知る遺跡よりも難度は低い筈」
「ふむ」
「そして2つ目。ここを逃すと、次に遺跡を見つけるのがいつになるのか分からない」
「確かにそれはそうか……悪いな、俺の見た目的に」
「私みたいな人間に近い見た目の方が少数派だから気にしないで良いよ」
正直な話、私だけならばこの遺跡を無視して人間の街へと急ぎ向かったって良い。
だが、今回はフータという見た目がゴブリンに近い同行者がいるのだ。
彼を置いていく訳にもいかないし、彼がいるからこその利点もある。
だからこそ、ここを攻略する方針は変えずに先へと進む。
「でもイヴ姉ちゃんはここじゃ喰わないんだろ?戦闘は大丈夫か?」
「んー……まぁ何とかするよ。徒手空拳くらいはダキニとの組手である程度上達したし……それに、もし食べちゃっても、最悪私1人なら今日中に戻ってこれる」
「なら良いか」
遺跡の中を歩いていくと分かる事がある。
それは、何故ここで私達がモンスターに襲われていないか、だ。
理由は単純。
「うげ、まただよ」
「こりゃあすっごいな。植物の勝利、食物連鎖の頂点気取っちゃってるねぇ」
「……イヴ姉ちゃん危機感あんま無いな?」
「まぁ私はこれよりもっと酷いの見てきたし」
「何見たんだよ……」
所々から生えていた木々の根らしきもの。
それらが様々なモンスターを絡め取り、身体中に突き刺さるようにして栄養を吸い取っているのだ。
ここまで来る道中で見かけた、狼型のモンスターに始まり、兎型、鹿型と、羊型。
その全てが壁や床から生える根に捕まっていれば……大体察する事が出来る。
……大人しいタイプか、道具型かなって思ってたんだけど……これ確実に私達もキルゾーンに入ってる感じだなぁ。
つい先日戦ったリアライブの様な、遺跡自体を自身の身体と見立てるタイプ。
罠が無いのではなく、最大の罠は遺跡の出入り口だったパターンだ。
「でも水路には一切植物側は手を付けてないと」
「そうだな……ちょっと飲んでみるか」
「私が飲もうか?」
「大丈夫、俺も【毒耐性】は持ってるから」
「あは、私は持ってないや」
「じゃあ俺より危険じゃねぇかよ!?」
と、ここでフータが水路に流れる水を手で掬って飲んでみる。
すると、だ。
「しょっぱ!?これ海水だ海水!そりゃ植物は干渉しないわけだ!」
「海水を取り込んでも問題ない植物じゃないと枯れるだろうしね。成程成程……」
そこまで言って、私は少しだけ考えた後。
「じゃ、フータくん。お姉さんから離れない様に頼むぜ」
「な、何する気だよ」
突然の申し出に、少しばかり怯えた様な表情を浮かべたフータに対し。
私はにっこりと笑いながらも、彼の身体を軽く背負い上げて、
「そりゃあ……こうするんだよッ!」
「!?」
『――!?』
強化された膂力にモノを言わせ、片足を使って水路を破壊した。
瞬間、通路に流れ込む海水。
当然、私達もびしょ濡れになってしまうものの……それに流される程、私の体幹は弱くない。
だが、通路上に這う様に存在していた根には海水は耐え難いモノだった様で。
叫び声の様な音が遺跡全体へと響き渡ると共に、地震のような揺れが私達を襲った。
「ど、どうすんだよイヴ姉ちゃん!?なんかすっげぇ事になってるけど?!」
「慌てない慌てない。こういう時ほど冷静にだぜ、フータくん」
「!……そ、そうだよな!流石に何か考えがあってやったんだもんな!」
「いんや?何か面白い事になりそうだからやっただけだよ?」
「馬鹿野郎!」
私に担がれながらも、しっかりとリアクションをとってくれるフータに思わず笑みを浮かべてしまいつつ。
私はゆっくりと、流れ出た海水によって悪くなった足元をしっかりと踏み締めながらも遺跡の奥へと進んでいく。
今も遺跡を襲う揺れは収まらない。
その揺れに合わせるように、周囲に在った根が私達の進む方向へと急ぎ退避していくのが見えている。
……何かを考えてた訳じゃあないけど。まぁやっぱり普通の植物系には海水は辛い、と。
少しばかりのお遊び程度。
海水が掛かったらどんな反応をするのかと、気になった程度の行動でここまでの反応を示してくれたのだ。
これで、私達がここのボスに相手をされない可能性は無くなった。
少しばかり心配だったのだ。ここまで進んできて全くちょっかいを掛けられない現状は。
下手をすれば、ボス部屋まで辿り着いたとしても相手をされず、攻略すらままならない状況になるかもしれないと。
だが、これでそんな状況には成り得ない。
「さ、行くよ。フータくんは今のうちに使う罠の構成をちゃんと考えておいて。相手は植物系、それも特徴は木に近い。火も効き辛い可能性も考えてね」
「うぅ……ちょっと面白そうだからって着いて行こうと思わなきゃ良かったマジで……」
攻略はここからが本番だ。





