Episode1 - さぁ行こう
目先10センチにまで迫った槍の穂先。
瞬間的にそれを、眼球に生成した口によって喰らい、砕きながら前へ進む。
そんな私の動きを読んでいたのか、虚空から出現した拘束器具が私の首と両手を封じると共に、首を落とす様に刃が上から降ってくる。
ギロチンだ。
だが、それも来る方向が分かっているならば効かない。
首裏に生成した口によって、刃が首に触れると同時に噛み止め、ステータスの暴力によって拘束器具ごと無理矢理突破して、
「喰らうぜ――」
『――終いじゃ食欲魔人』
「あいたぁ!?」
突如出現した私を囲む半透明の壁にぶつかって勢いが殺された。
現在、私が居るのはダキニの遺跡の内部……その中でも、普段私とダキニが組手に使っている道場風の内装をした部屋の中。
だが、今日私の相手をしているのはダキニではなく。
「うへぇ、やっぱ全部の罠喰われちまうな……どんな反応速度してんだよイヴ姉ちゃん」
新たに仲間となったボギーのフータ。
彼の持つ【罠生成】、そしてそれを補助するスキル群を用いる戦術を改めて真正面から味わってみようというのが、今こうして組手のようなモノをしている理由だ。
……反応速度って話なら、フータくんも上々だと思うんだけどね。
【捕食】によって私の戦闘中のあらゆる速度……反応速度を始め、身体の動きの始まりや生成速度なんかはしっかりと強化されている。
そんな私に対して、フータの持つステータス強化系のスキルは【筋力増加】などと同じ部類のパッシヴ系のみ。
それで私が引っ掛かる様に罠を配置しているのだから、驚くべきは彼に対してであって私にではない。
「で、どうだったよダキニちゃん」
『うむ、これなら大丈夫じゃろ。イヴに着いてっても問題は起きん』
「ホントか!?やったぜ!」
そしてもう1つ。
この組手は、彼の対応能力を見る為のモノでもあった。
「次行くのは……草原は草原でも海の方に向かって行くんだったよね」
『じゃな。妾達にはタラッセイア側の情報が足りとらん。故に、どうせ何も言わんでも勝手に行くイヴと、それなりの対応力があるフータの2人で行ってもらう』
「フレデリカ姉ちゃんは?」
「無理です無理です。将来的にはどうにかしますが、今はまだ種族的にもスキル的にも海が近くなると厳しくて」
「「あぁ〜」」
タラッセイア側に行くということは、イコールで海に近くなるという事。
魂喰いである私や、ボギーであるフータと違い、植物としての影響を受けやすい今のフレデリカが向かうには砂漠と同様に厳しい環境でもあるのだ。
とは言え、それも今回私達が向かった先…….例えば沿岸部なんかに生息する植物を採取し、持ち帰る事ができればその問題もある程度までは解消されるらしい。
つまるところ、今回の遠出は将来的に敵になりそうなタラッセイアの情報を探ると共に、フレデリカの行動範囲を広める事が目的なのだ。
「よし、じゃあ行こうかフータくん」
「へ、良いのか?今の組手でイヴ姉ちゃん【暴食】発動してるだろ?」
「まぁね。でもまだ『飢餓』のスタック数は少ないし……これくらいだったら【光合成】で回復も間に合うから」
「デメリットがデメリットになってねぇ……」
ちなみに、今回は既に【多産】によって配下を5体産み出している。
組手を行う都合上、まだ遺跡の外で狩りをさせてはいないが……遠出をすると同時に湿地帯並びに草原に放ち、そこらの野良のモンスターやプレイヤーを喰らわせておく手筈だ。
以前、ガスフロスへと向かう際に放ったのとは違い、今回は純粋に私へとバフを重ねる為の外部装置的扱い。【暴食】のデメリットを発動させず、尚且つ【大食漢】による一時的なHPの確保を行う為のモノ。
多少他プレイヤーから文句は出るだろうが、掲示板で文句を言うくらいならば直接私に仇討ちしにくれば良い。美味しく受けて立つだけの事。
『フータよ、そこのが死んだら無理せず汝も死んで戻ってくると良い。第一に優先すべきはフレデリカの活動圏を広げる為の植物じゃ。それさえ採取出来てれば他はかなぐり捨てても良いからの』
「あれ?私の扱い雑じゃない?」
「分かった!」
「あれれ?フータくんもそっち側なの?疑問とか持たない感じだ?」
何やらこの場の面々からの扱いが日々雑になって行くのを感じつつ。
私とフータはタラッセイアのある方向……ガスフロスから見て東側へと向かって遺跡から出発した。
「で、まずはどこを目指すんだ?」
「新しいフィールドかな。草原もそうだけど、国に応じたフィールドがある筈だし。タラッセイアなら……海や沿岸部、それに準じたフィールドに入れれば良い感じ」
「ふむふむ。その後は?」
「適当な植物の採取と……遺跡を見つけ次第攻略かな。あとは……」
今回、私達の目的はかなり漠然としたモノとなっている。
何なら、この先……目的を達成した後は何も指示されていないくらいには雑な遠征だ。
だからこそ、私には隠れた目的が1つ存在している。
それは、
「どうせイヴ姉ちゃんの事だから、見つけ次第見た事ないモンスターを食べてみよう!とか言うんだろ?」
「な、何故それを……!?」
「そりゃ分かるだろ!イヴ姉ちゃん基本的に食欲が行動目標の一番上に来てんだから!!」
「そんな……」
そう、食だ。
今までは草原、湿地帯共に陸地も陸地。
ガスフロスでは軽く魚などがあったものの、あそこで喰らったのは巨大なカエルと巫女のみ。
まともな海鮮をこのゲーム内で喰らった記憶が全くと言って良いほど無いのだ。
故に、私の目標は……海鮮を喰らう事。
出来るなら満足できるほどに大量に。
「まぁ、とりあえず向かおう!ここからだと……大体普通のプレイヤーが歩いて3、5日くらい掛かるらしいし!早めに移動した方がお互いのプレイ時間的にも良いでしょ!特にフータくんはさ!」
「そ、そりゃあそうだけど……ってそんなに掛かるのか!?」
「まぁ私が担いで移動すれば……それでも1、2日くらいかな?」
言いながらフータを担ぎ上げ、私は駆け始める。
既に配下の狩りは始まっており、私には少なく無い量のバフが共有され始めていた。





