Episode13 - 中々な力業
支配権争奪戦が終わった後。
私は転移による帰還ではなく、自らの足での帰還を選択した。その理由は単純で……デスペナルティを負ったフータを連れてダキニの遺跡へと向かう必要があったからだ。
同じ湿地帯、しかしながら私が未探索のエリアにフータの遺跡は存在し、そこから戻るとなると……幾ら私であってもそれなりに時間は掛かる。
それに『飢餓』によるタイムリミットも始まってしまっている為、出来る限り急ぐ為にフータの身体を米俵の様に抱え湿地帯に生息している木々の上を跳ねる様に駆けていた。
「あ、あの……イヴ姉ちゃん?」
「ん、何だい?」
「質問良いか?答えられるならで良いんだけど」
「良いよ良いよ。ちなみに今向かってるのはダキニの遺跡だね」
「あぁ、行先に関しては分かってるから大丈夫。俺が知りたいのはもっと別の所なんだけど」
フータは大人しい。
支配権争奪戦の前の態度が嘘の様に、というよりは。本当に嘘、見せかけの姿だったのだろう。
幼い声は変わらないものの、彼の雰囲気はそれに似合わない程に大人びている。
それに加え、先の戦闘での罠の配置や作戦の立て方だ。私というイレギュラーが相手だった為に破綻してしまったものの、相手が相手であれば十分以上に勝ちの目があったであろうと考えられた。
「最後の……滅多刺しになった時のやつ。アレ、どうやったんだ?俺の目から見て確実に命中してた筈だったのに……蓋を開けたら無傷で俺の後ろに立ってたし」
「あぁー……アレね」
思い出すのは最後のシーン。
私がフータを喰らい、争奪戦の決着をつける場面の事だ。
「アレのタネ自体は本当に簡単というか……スペシャルユニットだったからこそ、かな」
「スペシャルユニットだったからこそ……?……あ、もしかして!?」
「分かった?そう、ダキニちゃんから貸し出されたスキルと、私の強化されたステータスでゴリ押しただけなんだよね、アレ」
ダキニから貸し出されたスキル【幻生成】。行使者には確認できないものの、周囲には認識出来る幻を作り出す事が出来るスキルであり、その効果のほどはフレデリカ相手に確かめた通りだ。
そんなスキルを使い、近くに居た配下の1体に私そっくりの幻のガワを被せる事で、私以外にはそれが偽物であるとは分からない様にして。
瞬間的に発動させた【影法師】によって完全に意識の外へと抜け出した後、勢いそのままに背後へと回り込んだだけの事。
……ま、かなり博打も博打だったけどね。使おうと思ったのもアドリブだし。
偶々、私が進んでいく途中に配下が1体居た事。
偶々、私が【幻生成】の存在を思い出した事。
そして、たまたま……私が一瞬でも自分から意識を逸らす事が出来れば、気配を限りなく薄く出来た事。
それらの『偶々』が全てを繋がって、作り出せたのがあの一瞬だ。
「じゃ、じゃあ……最後の俺の罠とか分かって動いてたって事か……?」
「分かってないよ?だって私、別に罠感知系のスキルとか持ってないもん」
「はぁ?!道中避けまくってたじゃん!?」
「あれは単純に、作動した時の音を聞いて、身体に当たる前に避けてただけだよ。フータくんもステータスとスキル次第で出来るぜ?」
「出来ねぇよ!」
私的には、ステータスが足りていて尚且つ自分の対応速度が間に合うのであれば幾らでも再現出来るとは思うのだが……どうやらそうでもないらしい。
同じ味の料理を作り上げるのと同じ様なモノだと思うのだが……難しいものだ。
「ちなみに私も質問良い?」
「……なんだよ」
「君さ、多分だけど1回石板で存在昇華してるっしょ。さっき食べた時、月の従獣と肉の味が似てた」
「……」
私の言葉に、彼は黙る。
フータの肉の味は、ボギーという初見のモンスターである事を考慮しても……淡泊だった。
ゴブリン系に属するモンスターの肉は、皆似たような臭いとえぐみが存在する。しかしながら、彼の肉にはそれがほぼ無かったのだ。
プレイヤーだから、というのは関係がない。プレイヤー云々で関係があるのならば、フレデリカを軽く喰らった時に似たような味わいを感じている筈だし……同じ様な味であったならばバトロワイベントの時にすぐ気が付く。
しかし、そうではなかったのと……過去に喰らった、ニドリーの味。それに非常に似ていたのだ。
ニドリーがブリだとすれば、フータは……そう、ハマチやメジロのような。出世魚を食べた時の様な似ては居るが明確に違うモノ。その様な味わいを私は舌の上で感じた。
「……知らなかったんだよ。それに、2回目の存在昇華でこっちのルートに戻れたし」
「成程ね。ちなみに月の従獣の時ってどうプレイしてた訳?」
「別のフィールドで、延々と罠を使って相手を狩り続けてた。その間に貯まった経験値でスキルのレベル上げて存在昇華して……って流れ。多分……この前のワールドボス討伐の後くらいかな、ボギーになったのは」
「ふぅん……」
これは少しばかりロートに確認すべき内容が出来たようだ。
「ま、良いよ良いよ。戻ってこれただけでも君は立派だしね」
「そうなのか?」
「うん。酷い人だと、制御とか吹っ飛ばして……何なら経験値貯めるのも諦めてアバターを放置してる人も居るって話だぜ?」
「……そりゃあ……酷いなぁ……」
「そ。だから君は諦めなかった分偉い。……っと、そろそろ到着だぜ」
と、ここで。
ダキニの遺跡の入り口が見え、その前にフレデリカと……一応護衛としてなのか、人狐が1体立っているのが見えた。
既に向こうもこちらを認識出来ている様で、軽く手を振ってくれている。
その上で、私は視界の隅を確認してから、
「よーし、到着だぜフータくん。そして私はここまでだゲフゥ!」
「イヴ姉ちゃん!?ここまだ木の上、っていうか空中なんだけど!?おい待て消えるな食欲魔神!?」
「イヴさぁーん!?」
積み重なった『飢餓』によってHPを削り取られ、私は死んだのだった。





