Episode12 - 支配権争奪戦4
モンスターハウス。
ローグライクやハックアンドスラッシュ系のゲームにて、大量のモンスターが配置された部屋やフロアの事を指す名称であり、一部のプレイヤーからはトラウマとして。更に一部のプレイヤーからは稼ぎ場として認知されているゲームの要素の1つだ。
「あはッ、良いじゃん良いじゃんかッ!」
「ギャギャッ!」
「ギギギ」
「ガァッ」
「そのままゴブリン達の物量で圧し潰れろ!イヴ姉ちゃん!」
私の周囲には、既に大量のモンスターが召喚されている。
ゴブリン、ホブゴブリンに始まり、通常のオーガ、道中で見た杖を持った魔術師風のオーガ種に、赤鬼青鬼。ゴブリン系に至っては派生種まで確認出来る。
だが、それだけだ。
確かにモンスターの数は大量だ。普通に相手をするならば、フータの言った通り物量で圧し潰される。
しかしながら……罠はない。今もモンスターを召喚し続けている罠以外、私を攻撃するような罠は確認できない。
当然だ。そんな罠があれば、折角この場に呼んだモンスター達までもを巻き込んでしまうから。
故に、この場には私を害する様な罠は存在しない。ならばこそ。
「延々運ばれてくる御馳走とか最高だよ本当にッ!【多産】ッ!!」
敵である私を認識して呼び出されたモンスター達が跳び掛かってくるのと同時。
私は身体から複数の水音を発しながらも、狙う。口を大きく甲冑の中で開き、視界の中にフータの……頭ではなく、避けにくい胴体部を捉え。
【ヒットボックス拡張】によって、自身の口の当たり判定を大きくした上で喰らう様に口を動かした。
噛み付きだ。【座標攻撃】を使った、特定座標に向かって放つ事が出来る必殺の攻撃だ。
対策を取り辛く、私がその手のスキルを持っていると知らなければ対策以前に初見殺しとなる一撃。
声に出して【多産】を使い、5体の魂喰い達を産み出す事で意識をそちらに向かせた上で放つゲームを終わらせるソレ。
私の口の動きに合わせる様に【座標攻撃】はゆっくりと効果を発揮して、
「ッ、やっぱり持ってたか遠距離攻撃!」
「おいおい、マジかよ?!」
避けられた。
僅かに歯が掠り、フータの胴体に傷が付いたものの……【座標攻撃】が避けられてしまった。
……タネは分からない、けど……こっちの攻撃を察知する何かを持ってるって考えた方が絶対に良い。
その事実に一喜一憂している暇はない。
今も私の元へと近付いて来ているモンスター達に対し、瞬間的に私は両手両足を露出させながら対応していく。
一番最初に私を認識し跳び掛かってきたであろうゴブリンアサシンの刃を、左手の指を使って逸らしつつ。
2番手として小柄で早いゴブリン達が鋭い爪を私の喉元に突き立てようとした所で、逆に1体の身体を掴み上げ盾として利用しつつ生成した口で喰らい。
次に来たのは無数の弓矢。ゴブリンアーチャーの様なゴブリン種や、先程見た青鬼達が放ったのだろう。通常の……先程までの私だったならば避けねばならなかったであろうそれら。
「でもさぁ……もう今は何とでもなるんだよ」
踏み越える様に、全てを蹂躙する様に。
私はそれらに特に対応する事なく、前へと……フータの元へと進んでいく。
周囲では私から産まれた魂喰い達が近くのゴブリンやオーガ達を喰らいつつ。複数のモンスター達によって袋叩きになりながらも、【大食漢】の効果でHPを増やしながら私へとバフを共有していて。
前へと進む私を止めようと、複数のオーガ達が迫ってくるが、
「あはッ、イタダキマス」
「ガ、ァアアア!?」
「!?」
「グ、ガア!」
「ギャギッ!」
頭上から、横から、そして下から。
様々な角度から迫ってくる金棒を始めとした得物を、延々と今も強化されていくステータスにモノを言わせて拳で砕き喰らう。
そしてそのまま、近くに居た1体のオーガの頭を撫でる様に喰らいつつ。
手にべっとりと付いてしまったオーガの血を舐め取りながらも、徐々に足を進める速度を上げていく。
歩く。オーガ達の得物を真正面から砕きながら。
早足になる。無理矢理にではなく、私の前に立ち塞がるモンスター達の隙間を通り抜けながらも撫でる様に喰らい。
軽く走る。私の目の前に立ったモンスターの頭を、上から踏み潰しながらも喰らい。
やっと駆ける。駆けていく。駆け続ける。
止める為に出てきたモンスターを喰らい、障害となる攻撃を噛み潰し、皿に残ったソースを舐め取るように手足に生成した口で相手を舐め喰らいながら。
前へと進んでいく。
「お、おかしいだろ!?避けたんだぞ、そっちの攻撃!?」
距離が遠い。
攻撃用の罠はなくとも、私の距離間隔を狂わせるか……もしくは物理的にこの部屋内部の広さが変わっているのか。
少なくとも、すぐに辿り着くと思っていた筈の距離が思っていた以上に縮まらない。
だが、私は駆けていく。
「それに、なんで俺のモンスター達の攻撃が効いてない!?時間はあったけど、イベントの時とは変わり過ぎだろ!?」
縮まらないのであれば、足を動かし続けるだけだ。
その間に立つモンスター達の事は、今や既に自身の力を底上げする糧にしか見えていない。
喰らって進み、進み喰らって。
糧が消えていく光の粒子に包まれながら、私はその勢いのままフータの元へと辿り着いて、
「――だけど、予想してない訳ないだろ?イヴ姉ちゃん」
「ッァ?!」
床、天井、果ては周囲のモンスターの身体の内側から飛び出した漆黒の杭によって全身を貫かれた。
血が噴き出し、身体全体が痙攣して……やがて動かなくなる。
「ふぅー……イヴ姉ちゃんは純粋な前衛。ある程度以上の防御力もある。だから一気に……貫通特化の罠を仕掛けておく必要があった訳だ。でもそれだけじゃ足りない」
フータは一仕事済んだかの様に息を吐き、額を伝う冷や汗を拭う。
「捕食者が一番油断するのは、被食者を喰らうその瞬間。それも、今回で言うなら俺という目標を捉えた瞬間だ。だったら……そこを狙って、その油断に漬け込んで仕掛けるしかない。……あーあ、結構使っちゃったなぁ。後でスポーンさせた時に色々と機嫌取らないと――」
痙攣している身体に近付いて、罠に掛かった相手が動けない事を確認した後に……何かに気が付いた。
既にHPは底をついていてもおかしくはない。
全身を、急所を含めて滅多刺しにされているのだ。それなのに、それは消えていない。
そして、気が付いた。気が付かれた。
フータが今の今まで、獲物だと思っていた相手。それが……私だと似て非なる存在であるの事に。
それの正体が、私が産み出し周囲で今も暴れている魂喰いの1体である事に。
ゆっくりと、まるでベールが剥がれるかの様に私の形の幻が消えていく。
だが……今更気が付いたところで、もう遅い。
「やぁ、良い夢見れたかな?」
「ッ……!!」
驚愕している彼の肩に、背中側から手を乗せる。
ゆっくりと私の方へと振り返る彼に、恐怖と疑問が入り混じる彼の表情に、私は口から涎を垂らしながらも微笑んで、
「それでは、漸く――イタダキマス」
「ぁ、あぁあああ!?」
喰らった。
『支配権争奪戦の勝利条件が達成されました』
『勝者:『逆信狐 ダキニ』』
『敗者であるプレイヤー:フータの遺跡支配権が移譲されます』
『遺跡の連結を解除。インターバルを挟んだ後、両遺跡は通常開放されます』
『お疲れ様でした』





