Episode11 - 支配権争奪戦3
ボギーとは、悪戯好きの妖精である。
元々は北欧の伝承に登場し、人に対して悪戯を行い、時にしっかりとお灸をすえられる。そんな妖精だ。
では、このKFOというゲームにおけるボギーの特徴、そして能力はどの様に実装されているのか?
答えは簡単だ。
「ッ、うぉおお!?」
左右から迫ってくる無数の木の槍を、前へと姿勢を極限まで倒す事で避けつつ。
背後から迫ってくる大岩に追いつかれない様に何とか駆ける。
そんな私の、崩した体勢を計算でもしているのか、しっかりと頭部を狙う軌道で飛んできた矢の雨を、右腕の骨の甲冑の形状を盾の様に変化させる事で防げば……次は、頭上から大量に降ってくるイガグリの様な鉄球の対処だ。
……罠、罠が多い!
私が知らず知らずのうちに罠の起動装置や何かに触れてしまっているのか。
それとも、フータ側が連鎖的に罠を起動する様に設置しているのか。
奥地に入ってから、延々と罠に追われ、罠を対処し、罠に少しずつ骨の甲冑が削られていく。
ダメージ自体はまだ受けてはいない。しかしながら……奥へと進むにつれて濃くなっていく罠の密度を考えれば、もう余裕があるとは言い辛いだろう。
「ボギーってモンスターを嘗めてたのは私達の方だったか……流石にやらかしたな、っとォ!」
ボギーの特徴、そして能力。それは……罠の生成と配置。
軽く調べた限りでは、限られた空間にて最大効率を発揮する罠を設置出来たり、場所によっては一種のキルゾーンを作り出す事が出来たりもするらしいのだが……それでも人気はないとされているモンスターだ。
何故か?単純に、遺跡やフィールドを探索、攻略する上では他にもっと役に立つモンスターが居る為だ。罠を設置して敵が掛かるのを待つくらいならば、自身の身体ごと罠にする事が出来るスライム種が。
一定の領域内を確実に殺せる空間に変える術ならば、私の魂喰いなどの様に他のモンスターも持っている。
故に、態々自分から選んでボギーになるプレイヤーは少ないと掲示板には書かれていた。
だが……こうやって体験してみると、ボギーというモンスターの恐ろしさが分かってくる。
……ダンジョンマスターとか、一か所に留まって防衛戦をするって考えるとこれ以上ないねマジで!
罠を配置する事が出来、尚且つ自分の思った様にモンスターを配置する事が出来る。
その上で、今回の様な支配権争奪戦となれば……受け身の戦術ではあるが、入ってきた敵を延々と罠と潜伏させたモンスターで潰し続ければやがて勝てる。
そんな戦術を立てているのだろう。交渉、というよりも第一印象で幼い印象を受けていた所為でここまでしっかりと相手を殺す事に特化した遺跡を作り上げているとは考えてもみなかった。
「だけど、さァ!」
だが、その上で。
私という存在は向こうにとってもイレギュラーだったのだろうと思う。
ある程度の罠ならば甲冑で受ける事が出来、今も背後から迫って来ている大岩に追いつかれない程度には走力も持ち合わせ、尚且つ時折邪魔する様に湧いてくるモンスター達も、ほぼ一撃で無力化出来てしまうスペシャルユニット。
思った以上に焦ってはいるものの、ダメージは未だ受けていない。
……やっと、やっとだ!本当に!
永遠に続くかと思い始めてきた中で、私の視界の中にある物が映る。
森の奥地、罠だらけの中を駆けて駆けて駆け抜けた私の視線の先。
そこには、どの遺跡にも存在する……ボス部屋へと繋がる扉が在った。
ようやく見つけたボス部屋への金属製の扉。嬉しさと、感じる筈の無い空腹感と、そして多少の苛立ちが混ざり合って変な笑いが漏れるものの……少しだけ気を引き締めて、跳んだ。
右足を前にした、ここまでの勢いをそのまま乗せた跳び蹴りだ。幾ら扉が金属で出来ていようと、鍵が掛かっていようと関係なく、全てを打ち抜いて部屋の内部へと転がり込んで、
「やぁ、元気かなフータくん。お姉さんがやって来たぜ」
「ッ!元気……元気だよ俺も!」
そこで、複数のウィンドウに囲まれているフータを見つける事が出来た。
私と共に部屋の中へと吹き飛んだ扉は惜しくも彼には命中しなかったようで。少しだけ離れた位置に居るフータを視界の中央に据えると共に、部屋の内部の構造をしっかりと確認していく。
これまで駆けてきた森の中とは違い、このボス部屋は他の遺跡と似た構造だ。
石造りを基とした、壁から掛けられた小さい蝋燭でしか光が無い薄暗い部屋。大きさとしては……少しばかり弄っているのか、私が全力で駆けまわっても支障がない程度には広い。
……広い、って事はその分だけ罠が在る可能性もある訳で。
そして、部屋が広ければ広い程に……この場にモンスターが配置されている可能性が高い。
これまで出会ってきたモンスター達は数少ない。それこそ、斥候役で出てきた3体と赤鬼青鬼の2体のみ。
遺跡として考えるならばかなり少ない。他のプレイヤーが狩りをした後、スポーンが間に合っていないのかと普段ならば疑う程に。
しかしながら、今。ボギーという種族を使い、罠を何重にも配置するフータというプレイヤーを知った今では……その情報は違う意味を持つ。
「イヴ姉ちゃんはスペシャルユニット……つまりは、1回全損させればこの争奪戦中は出てこない。そうだよな?」
「そうだね」
「そして、ここに突っ込んできたって事の意味……それも分かってるわけだ」
「あぁ、うん。そりゃそうだよ」
「だったら……俺がこの後言う言葉も、分かるよな?」
フータの纏う空気が変わる。
端から見れば、ただ追い詰められたダンジョンマスター。しかしながら、私にとっては……そこらの遺跡で相手にするボスと似た威圧感を感じていた。
喉が鳴る。
恐怖からではない。空腹からだ。これから彼が言う事を予想出来て、これから私が直面するであろう事を想像して……ここまで我慢してきた食欲が表に出てきたのだ。
「罠と言ったらコレだろコレ――モンスタァアア!ハァアウスッ!!」
声と共に、部屋の床全体が光り出す。
フータとの……私がこの支配権争奪戦にて全力を発揮する戦闘が、やっと始まった。





