Episode10 - 支配権争奪戦2
『スペシャルユニットが投入されました』
『HPが0になる、もしくは支配権争奪戦の勝利条件を満たす事で排除が可能です』
遺跡内に響く無機質なアナウンスの声を聞きながら、私は前へ……黒狐が作り導く道を進む。
フレデリカから内部の構造自体は聞いている。
フータの遺跡は、その大部分が森……それも、リアルの北欧に存在する森に近い環境となっているらしい。
恐らくは、フータのアバターの種族であるボギーが登場するのが北欧の伝承である為に、ある程度環境を寄せているのだろう。
「うん、観察されてるね」
私が転移したのは、恐らく遺跡の入り口に程近い位置。
しかしながら、周囲の木々の陰などから僅かに音や息遣いが聞こえることから、既に私が何処にいて、どの様にして奥へと向かっているかは報告されていることだろう。
……フータくん、私のことを知ってるみたいだったからなぁ。
それに加え、私というプレイヤーは多くの人の目に良い意味でも悪い意味でも触れている。
私が【捕食】などのスキルをメインに使い、相手を喰らう事で強化されていくのは周知の事実だと考えた方がいいだろう。
その上で、私の事を観察しているという事は……だ。
「何か対策はある、そう考えたほうがいいかな」
それにしたって、生半可な対策であれば真正面から喰い潰すだけなのだが。
そう考えながら進んでいくと、少しばかり森の密度が上がっていくのに気が付いた。
ステータスの強化は今はない為、そこまでの速度は出ていないが……所謂奥地に辿り着いたのだろう。
先行する黒狐がこちらを振り返りながら、
「ギュン」
「うん、ありがと。ここからは私だけで進むから戻っていいよ」
「ギュギュッ」
そのまま来た道を戻る様にして帰還していく。
ここから先は私1人。
転移する前に聞いていた情報では、奥地に入ってからはそのまま真っ直ぐ進んでいけばフータの居る場所に辿り着くらしいが……そう単純に事は進まないらしい。
「ゲゲッ」
「ゲッゲッ」
「ガギャッ!」
「えーっと……ホブゴブリン2体にオーガ系?にしては……細いな。背も低い」
観察し終えたのだろう。
森の中から3体のモンスターが、私の行手を阻む様にして現れた。
2体は私も時折遺跡の攻略中に見た事があるゴブリンのポピュラーな存在昇華先であるホブゴブリン。
そしてもう1体は……見た目こそ、以前見たオーガに似ては居るものの、全体的な筋力量が少なく、細く小さい。手には1本の杖の様なモノを持っており、それをこちらへと向けて何かを叫んでいる……が。
「――ま、先に潰すか」
「ガッ!?」
「「!?」」
明らかに後衛のような立ち位置のモンスターを放置する訳もない。
瞬間的に足裏に力を込め、一気に前方へと跳躍。手のひらを露出させた右手で喉元を掴み、力のままに地面へと押さえつけながら勢いのままに前へ進む。
まだ【捕食】は使えない。
ここでこのゴブリン達が出てきたのはあくまでも私の力量を測り、尚且つ出来るならば足止めをする為。
そんな事が目的の相手と、馬鹿正直に戦ってやる必要もない。
……どっかのタイミングで【多産】使って稼ごうかな。
HPを消費する為にまだ使っていない【多産】ではあるが、何処かのタイミングで使わねばならないだろう。
【暴食】による『飢餓』は、あくまでも私自身の口でモノを喰らった場合にのみ付与される。
故に、【バフチェイン】によって共有されるバフには反応はしない。ちょっとした抜け道だ。
だが、それをやるならば……出来れば、フータの姿を確認してからが望ましい。
私のHPを自由に、自分の意思で回復、増加させられるタイミングでこそ【多産】は最大効力を発揮するのだから。
「グッ、ガァア!」
「おっ、君結構しぶといじゃんね。オーガ系なだけはあるよ。名前知らないけど」
背後のホブゴブリン2体を大きく引き離す様に駆けていると。
地面に擦り付ける様にして運んでいたオーガ系のモンスターが声を上げながら、なんとかといった体で私の腕へと手を伸ばす。
少しでもダメージを与えて拘束を解こうとしているのだろう。
だが、そんな些細な抵抗は骨の甲冑が許さない。黒板を引っ掻いた時の様な不愉快な音が響くのを聞きながらも、甲冑を鋭い爪で引っ掻いているのを視界の隅で捉えつつも、まだ死なない様に調整しながら運んでいく。
「ガ……」
「ギギ……」
「おぉ、それっぽいのも居るじゃん。結構ちゃんとやってるんだ、フータくん」
すると、だ。
ある程度進んでいった先。森の奥地への入り口であろう、より森の密度が高くなっている場所の入り口に、2体のモンスターが居るのが見えた。
1体は巨大な金棒を持ち、全身が赤銅色に染まったオーガ種。
そしてもう1体は、巨大なボウガンの様なモノを担いだ全身を群青色に染めたオーガ種だ。
……赤鬼と青鬼だろうなぁ、モチーフ。
どんな特徴があり、どんな能力を持ったモンスターかは分からない。
だが、奥地へと続く道を塞ぐように立っているのだ。それなりに実力を持っていると予想は出来た。
だからこそ、
「先手必勝ォ!」
「「!?」」
「ガァアアア!?」
ここまで引き摺ってきたモンスターを力の限り、勢いの限り投げつけた。
狙いは特に決めていない。2体の間を飛んでいく様に投げただけ。しかしながらそれでいい。
投げると同時、私自身の足裏にも力を瞬間的に入れ、軽く膝を曲げてから……一気に地面を蹴る様に再度跳ぶ。
今度は誰かを掴む為ではない。単純に前へと……目の前の2体をスルーして先へと進む為の加速。
ステータスの強化が出来ていないのが悔やまれるが、それを言い出したら今の私のスキルビルド的にどうしようもないので置いておいて。
……ま、この速度でもついては……来れるよね!
ここまで駆けてきた勢いと、自身の膂力に依る再加速。
普段私が相手にしている様な、湿地に生息しているモンスターならばこれだけで一気に距離を引き離す事が出来るのだが……この2体はやはり違ったようで。
間を通り抜ける事は出来たものの、私の後を追いかける様にして追跡を開始しているのが音で分かった。
「でも、ここまで来ちゃったからね!もう少しだぜ、フータくん!」
私の目の前には森の……この遺跡の奥地の風景が広がっている。
深くなる森。葉や枝の密度が高くなり、中々光の届かなくなった頭上。
薄暗い森の中を、私は笑い、口の中に涎が満ちていくのを感じながら……2体のオーガ達を引き連れて駆けていく。





