Episode9 - 支配権争奪戦1
前半部は第三者視点です
支配権争奪戦。
ダキニとフータ、互いの遺跡の支配権を賭けた戦いの始まりは……静かだった。
遺跡の出入り口が封じられ、代わりに1つの光り輝く扉の様なモノが出現。そこから出てきたのは……数体の黒い装束に身を包んだゴブリン種のモンスター。
斥候能力に秀でた、ゴブリンアサシンと呼ばれるモンスターだ。
【隠密】を始めとした気配を消し、探索に特化したスキルを持ちながらも、急所を狙う事でダメージが上がるスキルである【奇襲】、【首狩り】などを持ち合わせている為、脅威度はそれなりに高い。
そんなモンスターが複数、それも侵入した事に気が付かれない様に音も立てずゆっくりと遺跡内に降り立った。
普通の遺跡、それもゴブリンアサシンの様なモンスターが居る事さえ知らないプレイヤー相手であれば、これだけで詰みの一手になっただろう。
しかしながら……ここは、現状のKFOの中でも屈指の実力を持つであろうNPCを主とする遺跡だ。
「敵対勢力発見」
「排除します」
「黒狐、白狐は取り逃しが居ないかを確認する様に」
「「ギャギャッ」」
「「「!?」」」
遺跡内、和風建築の通路の中を気配を消しながら進んでいくゴブリンアサシン達が、急に背後から組み伏せられる。
そこに居たのは2体の少女の形をした狐。普段はダキニの身のまわりの世話や、遺跡内の様々な業務を担う人狐だ。
彼女達の実力自体はそこまで高くはない。ダキニやイヴは勿論の事、フレデリカにも勝てはしないだろう。在野のプレイヤーにだって、1対1で戦えば勝てるかどうかは怪しいラインだ。
だが、彼女達は元より1体で戦うようなモンスターではない。
複数体、最低2体で常に行動し、スキルによって他の人狐とリアルタイムで思考を共有しながら敵対者を追い詰め倒す。それが彼女達、人狐の在り方なのだから。
ゴブリンアサシン達の首を捻り、懐から取り出した短刀を使って確実に頭部と胴体を切り離した後。彼女達は周囲を確認しつつ、改めて遺跡内の巡回へと戻っていく。
「ギャッ!」
「成程、この敵対者以外にはまだ侵入してきていない、と」
「ダキニ様はこちらから仕掛ける時ではないとおっしゃられています」
「ギャギャッ」
「白狐が敵対勢力の侵入してくるゲート前に集合したようです」
「侵入された瞬間、その場に居る人狐達と共に迎撃。情報を取れるようであれば生かし、それ以外は例外なく殺して良いと命令がされています」
あくまでも機械的。
与えられた指示をこなし、主人の目的に沿って生き続ける。それが人狐という……個体でありながら群体のモンスターの生態だった。
「フレデリカ様より、敵対勢力の遺跡内部の索敵が完了したという連絡が入りました」
「ダキニ様より、黒狐を数体投入して良いとの言も頂きました」
「ギャッギャギャッ」
「……確認中……完了。黒狐達は基本的に敵対勢力への攻撃ではなく、出来る限りの露払いをするように。これよりイヴ様が敵対勢力の遺跡内部へ投入されます」
「敵対勢力の攻撃よりも、イヴ様の攻撃に当たらぬように行動してください。貴方達の魂が喰われ、失われてしまいます」
「ギューン……」
黒狐が嫌そうに鳴くものの、この場にそれを可哀想に思うモノは居ない。
魂喰いという、周りの魂を喰らい尽くし厄災となるモノ。それを使い勝負を一気に付けるのだ。多少の犠牲は出てしまうのは仕方ないだろうし、それが遺跡でスポーンするモンスターとなれば……仲間意識よりも利便性、情よりも結果を優先して然るべきだろう。
人狐にとっては、それが自身になろうともあまり気にしないのかもしれないが。
―――――
『『逆信狐 ダキニ』より出陣の要請が申請されました。承認しますか?……確認』
『10秒後、転移を開始します』
「よし、私も仕事みたいだ」
「おぉ、頑張ってください!」
フレデリカの索敵情報を聞きながら。
私は全身に骨の甲冑を生成しつつその時を待つ。
ここまでの遺跡同士の戦いは非常にゆっくりとしたものだ。
ダキニは自身から攻める事はせず、相手の遺跡の中へと黒狐を侵入させる事でフレデリカの索敵を補助する事に留め。
フータはと言えば……意外にもゆっくりと、斥候役であろうモンスターのみを侵入させ防衛側に戦力を割いているようだった。
……でも、私が呼ばれたって事は、だね。
ダキニは勝負を終わらせるつもりなのだろう。
フータからすれば、まだまだ序盤。互いに力量を探っている頃合いかと考えているのかもしれない。
しかしながら、こちらのお狐様はそんな事は考えていない。
「既に既に、相手側の遺跡内部の索敵は済んでます。核であろうフータさんは一番奥、周囲には多くのゴブリン系のモンスターが配置されてますので気を付けて」
「了解。まぁ任せてよ、ゴブリン系を相手にする事に関しては……ちょっとだけ自信あるんだよね、私」
私を投入するという事は、フータの頭を一撃で喰らい取ってこいと言っている様なモノ。
既にダキニの中ではこの争奪戦は序盤ではなく……終盤も終盤、チェスで言うチェック前。相手に何をされる前に、一瞬で勝負を決めるつもりなのだ。
『時間になりました。転移を開始します』
アナウンスと共に、私の視界は一瞬で切り替わる。
先程まで居た庭園から打って変わり、そこは森の中。遺跡の外である湿地帯にも似たような場所はあるものの、こちらは背の高い針葉樹が中心となって生息しているようだった。





