Episode7 - 交渉……に見せかけた
私達と話す時とは違う威圧感。
初めて出遭った時を思い出してしまう力強さ。
下手な事を言ったら殺す、そう言外に伝える態度にフータは息を呑みつつも、
「俺と勝負をしろッ!俺が勝ったらここを貰う!」
『ほう。支配権の奪い合いか。……汝が勝った時の要求は分かった。して、妾が勝った時の報酬はなんじゃ?』
「え?」
『おいおい、勝負というのは双方に勝利した時の報酬が在ってこそ。汝は自身の勝利時の報酬しか言っておらんが……もしや、妾が勝った時の報酬が無いとは言わんよなぁ?』
「え、えっと……!」
色々とここまでの流れに噛んである程度理解した事はある。
1つはフータのリアルが声相応に幼いと言う事。
KFO自体の年齢制限はそこまで低くはない。精々が13歳からプレイ出来る程度の低さだ。
ここまでの言動や、今の様な状況で考える事に必死になって何も言えなくなってしまう状態を見るに……恐らく彼はその最低ラインギリギリ。成人している側からすると、まぁお粗末なモノだと感じてしまうのは仕方ない事だろう。
そしてもう1つ。
……ダキニちゃん、やる気ないなぁ。
突然当事者になってしまったからか、それともそもそも興味があまりないからなのか。
遺跡の支配権を持っているダキニ自身のやる気が一切ない事だ。
勝負を仕掛けられたら引き受ける程度はするだろうが、その後の展開は私やフレデリカに丸投げして自身は寝たり酒を飲んだりして暇を潰しそうな雰囲気まである。
こちらとしてはそれでも良いが、下手を打って負けた時が怖い為に少しはやる気を出してほしいものなのだが……とそこまで考えて。
「あ、そうだ」
『む?』
ある考えが頭に浮かんだ瞬間、つい声を出してしまった。
その声にダキニがニヤニヤとした表情を浮かべながら、声だけは不思議そうにこちらへと話しかけてくる。
『なんじゃ、どうしたイヴ』
「あー……いやね?こっちが勝った場合の事を考えてなかったならさ、丁度良いしフータくんを仲間にしちゃえば良くない?って思ってね」
『ほう……仲間か。確かに誰かさんの勧誘状況もあまり良くはないからのぅ』
「はい、うるさいよー」
そう。仲間にしてしまえばいいのだ。
私とフレデリカ以外のプレイヤーが仲間になる、というのは少しばかりリスクがあるだろうが……それでも目の前のフータという存在は扱いやすい部類。
リアルの想定年齢もそうだが、ダキニの遺跡の内部を見た上で改めて勝負を挑む様な胆力。
そして、それの土台となっているであろう彼自身の持つ戦力。
ここまで私達が駆けずり回ってきたのは、単に戦力が足りないからに他ならない。
故に、外部からある程度の指揮が可能な戦力を補充出来るとなれば……その機会を逃すなんて事は出来ない。
『成程成程。――して、フータと言ったか?童』
「あ、あぁ!」
『今し方イヴが言った通り、妾が勝ったら汝と汝の持つ兵を頂こう。それで異論はないか?』
「問題は……ない!」
『ならば、勝負の開始はいつにする?妾としては今、この瞬間からでも構わんが……それでは童が困るじゃろう。言うてみぃ、出来る限り童の希望に沿ってやろう』
あくまで不遜な態度は崩さずに。
しかしながら、先程よりは少しやる気を出してくれたようで僅かにフータの方へと身体を向けながらダキニは言う。
……勝負については……まぁさっき話した通り、私が一撃入れれば勝てる様にしてくれれば良いしね。フータくんには悪いけどすぐに勝たせてもらおう。
流石に私達の拠点である遺跡の支配権を賭けた戦いで、私の好みの問題だけで切り札を使わないなんて事は出来ない。
何なら、ルールに抵触しない限りはある程度黒い事もしようかと考えているレベルだ。
「じゃ、じゃあ……明日!明日の今と同じ時間から開始でどうだ!?」
『ふむ……』
ダキニが私とフレデリカの方を見る。
恐らく私達がKFOに来れるかどうかを確認したいのだろう。
それに薄く笑みを浮かべながら頷くと、
『良いじゃろ。それでは、明日のこの時間から支配権を賭けた勝負の開始じゃ。ルールは?』
「お互いの遺跡に居るモンスターの数が一定値以下まで減ったら負け、でどうだ!」
『ほう……数量勝負か。成程成程、あい分かった』
「それじゃあ明日、時間になったらこっちから勝負を仕掛けるから!その瞬間から遺跡同士が繋がって勝負開始だからな!」
『分かっておる分かっておる。話は終わりじゃな?疾く帰るが良い』
そう言って、フータを人狐達に出入口まで送らせると。
ダキニは長く大きな息を吐いた。
『はぁ~……なんじゃあの童は……』
「あは、一応聞くけど勝てそう?」
『勝てるか勝てないかで言えば、まぁ勝てるじゃろう。これは慢心や驕りじゃなくただの事実じゃ。此処に居る妾の駒達だけでもあの童に正面から勝てるじゃろうからな』
「ふぅん。でもなんか煮え切らないねぇ」
『当然じゃろうて』
ダキニが嫌そうな表情を浮かべるのを見て苦笑する。
正直、私としても彼女の気持ちは分からなくはないのだ。
なんせ、フータのアバターの種族は私でもあまり聞いた事が無いモノなのだから。
『ボギー相手に勝負事をしなければならなくなった妾の気持ちを考えよ。本来であれば断ろうと思っておったんじゃがなぁ……』
「悪戯好きの妖精、だったよね。ゴブリン系のモンスターでもあるんだっけ」
「そうですそうです。悪戯好きで、時々人間を酷い目に遭わせてしまう妖精です。ホブゴブリンの一種とも言われてますね」
『ゴブリン種の特徴である数と、ボギーの特徴である悪戯好き……それを行う為の手先の器用さを考えると、流石に安全に勝てるとは言い難い。変なのが出てきたらすぐに呼ぶ故、2人共に準備しておくように』
ダキニの言葉に私達は返事をすると、今日はお開きになった。
相手はボギーのフータ。
何をしてくるのかも、どんなモンスターが出てくるかも分からない。
とは言え、戦力ではこちらに分があると言えるはずなのだ。だからこそ……今回は勝たせてもらうとしよう。





