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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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88

騎士団の案内を受け、葵達は王城へ向かって歩き始めた。


「おぉ……。」


葵は周囲を見回す。


王都は想像以上だった。


道の両脇には様々な店が立ち並び、人々の活気ある声が響いている。


露店から漂う美味しそうな香り。


大道芸人へ集まる子ども達。


立派な鎧を纏った騎士。


色鮮やかなローブを着た魔法使い。


「あっちも見てみたいなぁ……。」


「すごい店がいっぱいある。」


思わずきょろきょろしてしまう。


「ご主人様。」


はなが小さくため息を吐く。


「後ほどゆっくり見ればよろしいでしょう。」


「今は前を見てください。」


「あっ、ごめん。」


そうこうしている内に。


巨大な王城へ到着した。


◇ ◇ ◇


案内されたのは来客用と思われる立派な部屋だった。


「こちらで少々お待ちください。」


兵士が一礼し部屋を出ていく。


扉が閉まると、静かな空気が流れた。


「……。」


葵はそわそわと落ち着かない。


「緊張するなぁ。」


セレナが少し笑う。


「さっきまで普通だったのに。」


「いや。」


「王様なんて初めて会うし。」


「そりゃ緊張するだろ。」


その様子を見て、はなが呆れたように口を開く。


「ご主人様。」


「あなたは一国の王よりも、遥かに偉大なお方なのですよ?」


「そんなに緊張する必要はありません。」


葵は苦笑する。


「それは晴明だろ?」


「俺はただの葵だから。」


はなは肩を竦めた。


「そういうところですね。」


そのやり取りに皆が少し笑う。


すると。


コンコン。


扉がノックされた。


「失礼します。」


「準備が整いました。」


「どうぞこちらへ。」


◇ ◇ ◇


長い廊下を進み。


豪華な装飾が施された巨大な扉の前へ辿り着く。


ゆっくりと扉が開かれる。


その瞬間。


広大な謁見の間が姿を現した。


左右には多くの騎士。


貴族と思われる者達。


豪華な赤い絨毯。


その奥。


一段高い場所には黄金の王座。


そこへ威厳ある一人の男性が腰掛けていた。


その手前には、一人の壮年の男性。


落ち着いた雰囲気を纏い、知性を感じさせる人物だった。


男性が静かに口を開く。


「葵殿。」


「前へ。」


葵達は、はなから教わった礼儀作法を思い出しながら進む。


王の前で静かに膝をつき、頭を下げた。


壮年の男性が名乗る。


「私は、この国の宰相を務める者。」


「此度の功績、誠に見事であった。」


そして王がゆっくりと立ち上がる。


「顔を上げよ。」


葵達はゆっくりと顔を上げた。


王は穏やかな笑みを浮かべる。


「先日のスタンピード。」


「其方らの活躍により、多くの民の命が救われた。」


「この国を代表し、礼を述べる。」


「ありがとう。」


王は続ける。


「最大の功労者である葵殿。」


「望む褒賞があれば申してみよ。」


葵は少し考える。


「……。」


何も思い浮かばない。


その時だった。


『葵。』


頭の中へ晴明の声が響く。


『どうした?』


『この城の奥からね。』


『僕の扇子の気配がするんだ。』


『え?』


『ダメ元でいい。』


『青い扇子があれば欲しいって聞いてくれないかな?』


葵は少し笑う。


『晴明には色々貰ってるし。』


『それくらいならいいよ。』


葵は王へ向き直る。


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」


「申してみよ。」


「この城に。」


「青い扇子はございませんか?」


王は少し驚いた表情を浮かべる。


「……青い扇子。」


「確か。」


王は宰相へ視線を向ける。


宰相も頷く。


「ございます。」


王は思い出したように笑った。


「あれか。」


「透き通るように美しい青色だったので印象に残っておる。」


「だが、誰も使えず宝物庫へ保管したままだ。」


「もしそれで良いのであれば持っていくがよい。」


「ありがとうございます。」


王は他の者達へも視線を向ける。


「其方らはどうだ?」


クロード。


セレナ。


ロイド。


誰も特別な望みはなかった。


そのため。


褒賞として相応の金貨が与えられることになった。


「扇子は宝物庫より持って参る。」


「しばらく先程の部屋で待たれよ。」


王の言葉に一同は一礼し、再び控室へ戻った。


◇ ◇ ◇


しばらくして。


宰相が一つの木箱を抱えて現れる。


「こちらになります。」


静かに箱が開かれた。


そこに納められていたのは、一振りの扇子。


深い蒼。


しかし、それはただの青ではない。


澄み切った湖面へ朝日が差し込んだような透明感。


角度を変えるたび、水面へ光が揺らめくように青が表情を変える。


夜空へ浮かぶ月明かりを閉じ込めたような幻想的な輝き。


思わず息を呑むほど、美しかった。


葵はゆっくりと受け取る。


『うん。』


『間違いない。』


『僕の扇子だ。』


晴明が静かに呟く。


初めて触れるはずなのに。


不思議と手へ馴染む。


懐かしい。


そんな感覚が自然と胸へ広がっていく。


葵はゆっくり扇子を広げた。


パサッ。


自然な動きだった。


まるで何百年も使い続けてきたかのように。


その姿を見た十二柱は、思わず目を細める。


そこには確かに。


かつて世界を救った英雄。


晴明――ゼノスの面影が重なっていた。


「……懐かしいですね。」


六合が静かに微笑む。


青龍も嬉しそうに笑う。


「やっぱり似合う!」


朱雀は満面の笑みで頷いた。


「ゼノス様、そのまんまだ!」


クロードも優しく微笑む。


「とても、お似合いです。」


セレナも感心したように頷いた。


「何だか最初から持っていたみたい。」


葵は照れ臭そうに笑う。


「そうだろ?」


「やっぱ似合うよな。」


少しだけ調子に乗る。


その様子に皆が笑った。


和やかな空気が流れる。


その時。


宰相が咳払いをした。


「失礼。」


「王がお話ししたいことがあるそうです。」


「お時間をいただけますでしょうか。」


葵は頷いた。


「もちろんです。」


「報奨もいただきましたし。」


「ちゃんとお礼も言いたいですから。」


そう言って葵は立ち上がる。


王の待つ部屋へと向かった。

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