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騎士団の案内を受け、葵達は王城へ向かって歩き始めた。
「おぉ……。」
葵は周囲を見回す。
王都は想像以上だった。
道の両脇には様々な店が立ち並び、人々の活気ある声が響いている。
露店から漂う美味しそうな香り。
大道芸人へ集まる子ども達。
立派な鎧を纏った騎士。
色鮮やかなローブを着た魔法使い。
「あっちも見てみたいなぁ……。」
「すごい店がいっぱいある。」
思わずきょろきょろしてしまう。
「ご主人様。」
はなが小さくため息を吐く。
「後ほどゆっくり見ればよろしいでしょう。」
「今は前を見てください。」
「あっ、ごめん。」
そうこうしている内に。
巨大な王城へ到着した。
◇ ◇ ◇
案内されたのは来客用と思われる立派な部屋だった。
「こちらで少々お待ちください。」
兵士が一礼し部屋を出ていく。
扉が閉まると、静かな空気が流れた。
「……。」
葵はそわそわと落ち着かない。
「緊張するなぁ。」
セレナが少し笑う。
「さっきまで普通だったのに。」
「いや。」
「王様なんて初めて会うし。」
「そりゃ緊張するだろ。」
その様子を見て、はなが呆れたように口を開く。
「ご主人様。」
「あなたは一国の王よりも、遥かに偉大なお方なのですよ?」
「そんなに緊張する必要はありません。」
葵は苦笑する。
「それは晴明だろ?」
「俺はただの葵だから。」
はなは肩を竦めた。
「そういうところですね。」
そのやり取りに皆が少し笑う。
すると。
コンコン。
扉がノックされた。
「失礼します。」
「準備が整いました。」
「どうぞこちらへ。」
◇ ◇ ◇
長い廊下を進み。
豪華な装飾が施された巨大な扉の前へ辿り着く。
ゆっくりと扉が開かれる。
その瞬間。
広大な謁見の間が姿を現した。
左右には多くの騎士。
貴族と思われる者達。
豪華な赤い絨毯。
その奥。
一段高い場所には黄金の王座。
そこへ威厳ある一人の男性が腰掛けていた。
その手前には、一人の壮年の男性。
落ち着いた雰囲気を纏い、知性を感じさせる人物だった。
男性が静かに口を開く。
「葵殿。」
「前へ。」
葵達は、はなから教わった礼儀作法を思い出しながら進む。
王の前で静かに膝をつき、頭を下げた。
壮年の男性が名乗る。
「私は、この国の宰相を務める者。」
「此度の功績、誠に見事であった。」
そして王がゆっくりと立ち上がる。
「顔を上げよ。」
葵達はゆっくりと顔を上げた。
王は穏やかな笑みを浮かべる。
「先日のスタンピード。」
「其方らの活躍により、多くの民の命が救われた。」
「この国を代表し、礼を述べる。」
「ありがとう。」
王は続ける。
「最大の功労者である葵殿。」
「望む褒賞があれば申してみよ。」
葵は少し考える。
「……。」
何も思い浮かばない。
その時だった。
『葵。』
頭の中へ晴明の声が響く。
『どうした?』
『この城の奥からね。』
『僕の扇子の気配がするんだ。』
『え?』
『ダメ元でいい。』
『青い扇子があれば欲しいって聞いてくれないかな?』
葵は少し笑う。
『晴明には色々貰ってるし。』
『それくらいならいいよ。』
葵は王へ向き直る。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「申してみよ。」
「この城に。」
「青い扇子はございませんか?」
王は少し驚いた表情を浮かべる。
「……青い扇子。」
「確か。」
王は宰相へ視線を向ける。
宰相も頷く。
「ございます。」
王は思い出したように笑った。
「あれか。」
「透き通るように美しい青色だったので印象に残っておる。」
「だが、誰も使えず宝物庫へ保管したままだ。」
「もしそれで良いのであれば持っていくがよい。」
「ありがとうございます。」
王は他の者達へも視線を向ける。
「其方らはどうだ?」
クロード。
セレナ。
ロイド。
誰も特別な望みはなかった。
そのため。
褒賞として相応の金貨が与えられることになった。
「扇子は宝物庫より持って参る。」
「しばらく先程の部屋で待たれよ。」
王の言葉に一同は一礼し、再び控室へ戻った。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
宰相が一つの木箱を抱えて現れる。
「こちらになります。」
静かに箱が開かれた。
そこに納められていたのは、一振りの扇子。
深い蒼。
しかし、それはただの青ではない。
澄み切った湖面へ朝日が差し込んだような透明感。
角度を変えるたび、水面へ光が揺らめくように青が表情を変える。
夜空へ浮かぶ月明かりを閉じ込めたような幻想的な輝き。
思わず息を呑むほど、美しかった。
葵はゆっくりと受け取る。
『うん。』
『間違いない。』
『僕の扇子だ。』
晴明が静かに呟く。
初めて触れるはずなのに。
不思議と手へ馴染む。
懐かしい。
そんな感覚が自然と胸へ広がっていく。
葵はゆっくり扇子を広げた。
パサッ。
自然な動きだった。
まるで何百年も使い続けてきたかのように。
その姿を見た十二柱は、思わず目を細める。
そこには確かに。
かつて世界を救った英雄。
晴明――ゼノスの面影が重なっていた。
「……懐かしいですね。」
六合が静かに微笑む。
青龍も嬉しそうに笑う。
「やっぱり似合う!」
朱雀は満面の笑みで頷いた。
「ゼノス様、そのまんまだ!」
クロードも優しく微笑む。
「とても、お似合いです。」
セレナも感心したように頷いた。
「何だか最初から持っていたみたい。」
葵は照れ臭そうに笑う。
「そうだろ?」
「やっぱ似合うよな。」
少しだけ調子に乗る。
その様子に皆が笑った。
和やかな空気が流れる。
その時。
宰相が咳払いをした。
「失礼。」
「王がお話ししたいことがあるそうです。」
「お時間をいただけますでしょうか。」
葵は頷いた。
「もちろんです。」
「報奨もいただきましたし。」
「ちゃんとお礼も言いたいですから。」
そう言って葵は立ち上がる。
王の待つ部屋へと向かった。




