87
ゼノスの規格外な馬車のおかげで、王都までの旅は驚くほど快適になった。
「これ、本当に馬車か?」
ソファへ深く腰掛けた葵が呟く。
揺れはほとんど感じない。
外ではゴーレム馬が一定の速度で街道を進み続けている。
中ではゆっくりと紅茶を飲みながら景色を眺めることさえできた。
ロイドは何度目か分からないため息を吐く。
「もう普通の馬車には戻れません……。」
セレナも苦笑する。
「私もそう思います。」
クロードは窓の外を眺めながら呟く。
「移動がここまで快適になるとは思いませんでした。」
六合は静かに頷いた。
「ゼノス様は昔から移動時間すら無駄にしない方でした。」
こうして王都への旅は、これまでとは比べものにならないほど快適なものとなった。
◇ ◇ ◇
旅を続けること数日。
ふと葵は朱雀を見た。
「そういえばさ。」
「前に会った時、忙しいって言ってすぐ帰ったよな。」
「もう大丈夫なのか?」
朱雀は目をぱちぱちさせる。
「あ。」
「忘れてた!」
「忘れてたって……。」
葵は思わず苦笑した。
朱雀は舌を出しながら笑う。
「火山の近くに封印されてる魔物がいるんだけどね。」
「その封印が少し緩んじゃって。」
「抑え込むので手一杯だったの!」
「だからあの時はすぐ帰らなきゃいけなかったんだ!」
「なるほど。」
「それで忙しかったのか。」
朱雀は元気よく頷く。
「でも安心して!」
「ある程度抑え込んだところで玄武のジイちゃんが代わってくれたから!」
「今は任せてきた!」
葵は少し心配そうな顔をする。
「それって本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
朱雀は満面の笑みで答えた。
「ジイちゃんも。」
「『ご主人様が落ち着いたら一度来るといい。急がなくても構わん。』って言ってたし!」
「ゆっくりでいいって!」
はなが静かに口を開く。
「玄武がそう言うのであれば、問題ないのでしょう。」
「玄武は無理をするような性格ではありません。」
葵は安心したように頷いた。
「じゃあ。」
「王都で少しのんびりしたら行こうか。」
「うん!」
朱雀は嬉しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
さらに数日後。
馬車の窓から巨大な城壁が見え始める。
「あれ……。」
「もしかして。」
葵は立ち上がった。
「王都だ!」
セレナも窓へ駆け寄る。
「大きい……。」
クロードも思わず息を呑む。
遠くから見ても圧倒される巨大な城壁。
無数の建物。
天へ伸びるように建つ王城。
街へ出入りする人々の列。
「すげぇ……。」
葵は思わず笑みを浮かべた。
「やっと着いたな。」
◇ ◇ ◇
王都の入口では、多くの人が順番待ちをしていた。
商人。
冒険者。
旅人。
行商人。
様々な人々が門を目指して列を作っている。
葵達もその最後尾へ並ぶ。
しばらくすると。
鎧を身に纏った騎士団がこちらへ歩いてきた。
先頭の騎士が葵の前で立ち止まる。
「突然失礼する。」
「名前を聞いてもよろしいか?」
葵は素直に答えた。
「葵です。」
騎士は一枚の紙を確認し、小さく頷く。
「やはり。」
「葵殿で間違いありません。」
「王陛下がお呼びです。」
「ご同行願えますか。」
「……え?」
葵は目を丸くする。
「俺、何もしてないけど?」
「何で王様?」
騎士は穏やかに答えた。
「先日のスタンピード。」
「その件でございます。」
「王陛下より、多大な功績を挙げた冒険者へ直接報奨を授けたいとの仰せです。」
「あぁ。」
葵は納得したように頷く。
「そういうことか。」
「分かりました。」
騎士は一礼する。
「では。」
「ご案内いたします。」
王都へ到着したその日。
葵達はそのまま王城へ案内されることとなった。




