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レインと別れた葵達は、転移石によって地上へ戻ってきた。
王都へ向かう準備を整えるため、しばらく町へ滞在する。
必要な装備の補充。
保存食や生活用品の買い足し。
そして、お世話になった人達への挨拶回り。
旅立ちの準備は着々と進んでいた。
◇ ◇ ◇
町を歩いていると、一人の商人が笑顔で近付いてきた。
「おや、葵さん!」
「ロイドさん。」
以前護衛依頼で世話になった商人、ロイドだった。
「皆さん、どちらへ向かわれるのですか?」
「王都です。」
葵が答えると、ロイドは嬉しそうに手を叩く。
「それはちょうど良かった!」
「実は私も王都の支店へ向かう予定なのです。」
「もしよろしければ、護衛依頼を受けていただけませんか?」
クロード達と目を合わせる。
「どうする?」
「問題ない。」
クロードが即答する。
セレナも頷いた。
「私も賛成です。」
「じゃあ受けます。」
ロイドは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドで正式に依頼を受理する。
目的地は王都。
護衛対象は商人ロイド。
全ての手続きを終え、葵達は王都への旅へ出発した。
◇ ◇ ◇
旅は驚くほど順調だった。
街道沿いには時折魔物が現れる。
ゴブリン。
ウルフ。
オーク。
以前なら油断できない相手。
しかし今では。
葵達にとって足止めにもならなかった。
「すごいですね……。」
ロイドが感心する。
「護衛依頼なのに、安心して商品を確認できるなんて初めてですよ。」
葵は苦笑する。
「まあ、前よりは強くなったから。」
◇ ◇ ◇
数日後。
日が沈み、野営の時間になった。
焚き火を囲みながら夕食の準備を始める。
配られたのは保存食。
干し肉。
固いパン。
温めただけの簡単なスープ。
旅では当たり前の食事だ。
葵はスープを眺めながら、小さく呟く。
「……。」
「あれは、本当に美味かったな。」
『何が?』
晴明の声が頭の中へ響く。
『倉庫で食べた料理だよ。』
『あぁ。』
『あれね。』
少し笑う晴明。
『せっかくだし。』
『今日は葵が作ってみる?』
「俺が?」
『うん。』
『僕が教えるから、やってみなよ。』
「出来るかなー?俺あんまりやった事ないよ?」
『大丈夫。そんな凝ったのにはしないからさ。
試しにやってみよ!』
「じゃとりあえずやってみるか!では先生お願いします。」
『了解!じゃ始めようか!』
◇ ◇ ◇
晴明の指示を聞きながら料理を始める。
まず肉の下処理。
余分な脂を落とし、香草で下味を付ける。
野菜は大きさを揃えて刻む。
鍋へ少量の油を引き、肉を焼く。
ジュワッ。
香ばしい音と共に肉汁が閉じ込められる。
そこへ玉ねぎを加える。
飴色になるまでゆっくり炒める。
人参。
芋。
香草。
スープを注ぎ、弱火でじっくり煮込む。
肉の旨味。
野菜の甘み。
香草の香り。
全てが一つになっていく。
焼き立てのパンへ軽くバターを塗る。
最後に黒胡椒を一振り。
完成した。
「いただきます。」
一口。
セレナが目を丸くする。
「美味しい……。」
クロードも驚く。
「以前いただいたゼノス様の料理とは少し違います。」
「ですが。」
「これは葵らしい味ですね。」
ロイドも思わず声を漏らした。
「これは……。」
「宿でもなかなか食べられません。」
晴明が嬉しそうに笑う。
『ちゃんと葵の料理になってる。』
『そうか。』
葵も少し照れくさそうに笑った。
◇ ◇ ◇
翌日。
再び馬車へ揺られながら旅を続ける。
「……。」
「やっぱり馬車って揺れるな。」
「これだけはどうにもならないか。」
晴明が笑う。
『それなら。』
『僕が昔使ってた馬車を使えばいいんじゃない?』
葵は目を丸くする。
「そんなの持ってるのか?」
『六合。』
『お願い。』
六合は苦笑した。
「……はい。」
手を軽く振る。
空間が歪み、一台の馬車が姿を現した。
見た目は少し豪華な馬車。
しかし扉を開けた瞬間。
「……。」
「え?」
中には広々とした洋風のリビング。
高級なソファ。
大きなテーブル。
本棚。
寝室。
浴室。
簡易キッチン。
魔道冷蔵庫。
窓の外は普通の馬車なのに、中だけが完全に別空間だった。
ロイドは言葉を失う。
「…………。」
「家……ですよね?」
六合は淡々と説明する。
「空間拡張術式を使用しています。」
「揺れは九五%軽減。」
「衝撃吸収。」
「温度自動調整。」
「防音。」
「防御結界。」
「魔物避け。」
「魔力自動供給。」
「寝室の睡眠補助術式。」
「簡易治療術式。」
「長距離移動専用仕様です。」
葵は呆れたように笑う。
「盛りすぎだろ……。」
六合は真顔で答えた。
「ゼノス様ですので。」
さらに馬車を引く二頭の馬を見る。
全身を銀色の鎧で覆われた馬。
「……。」
「普通の馬じゃないよな?」
「ゴーレム馬です。」
「疲労しません。」
「睡眠不要。」
「食事不要。」
「自己修復機能搭載。」
「最高速度は一般的な軍馬の約三倍。」
「緊急時には自律戦闘も可能です。」
葵。
セレナ。
クロード。
ロイド。
全員が呆気に取られて立ち尽くす。
葵は天を仰いだ。
「……。」
「晴明、、、」
「本当に自重って言葉を知らなかったんだな。」




