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九十階を突破してからの攻略は、驚くほど順調だった。
もちろん、敵が弱いわけではない。
九十一階。
九十五階。
九十九階。
SSランク級の魔物が、当たり前のように出現する。
それでも葵は、圧倒的な力で道を切り開いていった。
セレナもまた、日を追うごとに魔法の精度を高めていく。
以前は一つの魔法しか同時に扱えなかったが、今では複数の魔法陣を同時展開し、戦況を支配するまでになっていた。
「ライトニングランス!」
「アイスウォール!」
「ウィンドカッター!」
三属性の魔法を立て続けに放ち、魔物を翻弄する。
「すごい……」
葵は素直に感心した。
「もう俺より魔法は上じゃないか?」
「そんなことありません!」
そう言いながらも、セレナの表情には確かな自信が宿っていた。
一方で――クロードは違った。
確実に強くはなっている。
だが、葵やセレナほどの急激な成長はない。
敵が強くなるほど、その差は少しずつ広がっていく。
それでもクロードは弱音を吐かず、黙々と剣を振るい続けていた。
◇ ◇ ◇
そして――百階。
巨大な扉がゆっくりと開く。
これまでとは明らかに違う威圧感が、空間全体を震わせていた。
六合が静かに告げる。
「百階の守護者です」
「このダンジョン最上層のボス……気を付けてください」
扉の奥から現れたのは、黄金の鎧を纏った巨大な騎士だった。
身長は七メートルを超え、巨大な盾と聖剣を携えている。
全身から神々しい魔力が溢れていた。
「ゴォォォォォ!」
戦いが始まる。
◇ ◇ ◇
黄金の騎士は、圧倒的に強かった。
これまでのボスとは比べ物にならない。
クロードが前に出る。
「通しません!」
剣と盾が激しくぶつかり合う。
ガァァァン!!
重い衝撃。
何度斬りかかっても、黄金の騎士はびくともしない。
「まだだ!」
クロードは必死に食らいつく。
セレナも後方から魔法を放ち続ける。
「エクスプロージョン!」
爆炎が戦場を包む。
しかし煙の中から、黄金の騎士が飛び出した。
無傷。
「硬すぎる……!」
葵も前へ出る。
「俺も行く!」
三人は連携し、少しずつ傷を刻んでいく。
長い死闘の末――。
「これで終わりだ!」
葵の渾身の一撃が、黄金の騎士を貫いた。
ズバァァァァン!!
巨体は静かに崩れ落ちる。
百階――攻略完了。
◇ ◇ ◇
静まり返ったボス部屋。
その中央に、転移石が現れる。
さらにその隣に、美しく輝く巨大な水晶が出現した。
「これは……」
六合が目を見開く。
「ダンジョンコアです」
「通常、このような場所に現れるものではありません」
その瞬間、コアから柔らかな光が広がった。
『百階踏破を確認』
『報酬を選択してください』
三つの光が浮かび上がる。
一つ目。
『ランダムマジックアイテム獲得』
二つ目。
『基礎能力向上』
三つ目。
『ランダムスキル・魔法獲得』
「選べるのか」
葵は腕を組む。
「全部欲しいな」
「私もです」
セレナも真剣な表情を浮かべる。
クロードも悩み始めた。
「どれも魅力的ですね」
その時だった。
『ねぇ』
聞き慣れた優しい声が響く。
晴明だった。
「僕に選ばせてもらってもいいかな?」
葵は迷わず頷く。
「もちろん」
「俺は詳しくないし、任せる」
クロードたちも異論はない。
「お願いします」
晴明は柔らかく微笑んだ。
「ありがとう」
そしてゆっくりとダンジョンコアへ歩み寄る。
誰も見たことのない文字を、空中に描き始めた。
晴明は静かにコアへ手を触れた。
次の瞬間――。
コアが七色に輝く。
ゴゴゴゴゴ……。
部屋全体が揺れた。
『管理者権限を確認』
『封印解除』
『隠し領域を開放します』
空間がゆっくりと裂けていく。
そこに現れたのは、一枚の木製の扉だった。
「扉……?」
誰もが言葉を失う。
晴明だけが、懐かしそうに微笑んでいた。
「こっちだよ」
「付いておいで」
扉が開く。
眩い光。
そして――。
全員が息を呑んだ。
そこに広がっていたのは、どこまでも続く青空。
風に揺れる緑の草原。
小鳥のさえずり。
その中心に、一軒の小さな木造の家が建っていた。
「……何ここ」
葵が呟く。
「ダンジョンの中だよな?」
六合も信じられない表情を浮かべる。
「こんな空間……聞いたこともありません」
晴明は家を見つめ、懐かしそうに言った。
「変わってないな」
そして歩き出す。
家の前まで来ると、大きな声で呼んだ。
「おーい!」
「久しぶり!」
「いるんだろ?」
数秒後、玄関の扉がゆっくりと開く。
現れたのは、二十代前半ほどの青年。
長い銀髪を後ろで束ね、穏やかな笑みを浮かべている。
青年は晴明を見ると、目を見開いた。
「……本当に」
「帰ってきたんだね」
葵たちは、その青年をただ呆然と見つめるしかなかった。




