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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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78

四十階を突破した葵達は、その勢いのまま攻略を続けた。


四十一階。


四十五階。


五十階。


階層を重ねるごとに魔物は確実に強くなっていく。


しかし、それ以上に葵達も成長していた。


◇ ◇ ◇


「セレナ!」


「右だ!」


「はい!」


セレナが杖を掲げる。


「フレイムランス!」


以前とは比べ物にならない速度で魔法陣が展開される。


次の瞬間。


何本もの炎の槍が空を裂き、魔物を正確に貫いた。


ドドドドドッ!!


「すご……。」


葵が思わず声を漏らす。


以前のセレナなら一本撃つだけでも時間が掛かっていた。


今では詠唱も短く、威力も精度も段違いだった。


六合が満足そうに頷く。


「完全に才能が開花し始めていますね。」


「魔力操作も格段に上達しています。」


セレナは少し照れ臭そうに笑った。


「皆さんのおかげです。」


「まだまだ頑張ります!」


◇ ◇ ◇


一方。


クロードは違った。


「はぁっ!」


剣を振るう。


だが。


以前なら一撃で倒せていた魔物へ二撃、三撃と必要になってきていた。


「くっ……!」


魔物を倒しても息が乱れる。


葵はそんなクロードを何度も助けていた。


「大丈夫か?」


「申し訳ありません。」


クロードは苦笑する。


「足を引っ張っていますね。」


「そんなことない。」


「クロードが前衛にいてくれるから助かってる。」


「ですが……。」


クロードは自分の手を見つめる。


「以前より皆さんとの差を感じます。」


その言葉へ誰も返せなかった。


◇ ◇ ◇


その後も攻略は続く。


六十階。


七十階。


八十階。


以前なら一階攻略するだけでも数日掛かっていた。


今では一日に何階も突破していく。


葵は完全に新しい力を自分のものにし始めていた。


そして。


セレナもSランク級魔法を少しずつ扱えるようになってきていた。


だが。


クロードだけは違った。


成長している。


それは間違いない。


それでも。


葵とセレナの伸び方が異常過ぎた。


◇ ◇ ◇


そして――。


八十九階。


最後の魔物を倒し終える。


「これで八十九階。」


セレナが汗を拭う。


「次はいよいよ九十階ですね。」


クロードは静かに頷く。


「節目の階層です。」


葵は剣を肩へ担ぐ。


「行こう。」


全員が頷いた。


◇ ◇ ◇


九十階。


巨大な扉がゆっくりと開く。


現れたのは。


六本の腕を持つ巨大な鬼神。


全身から禍々しい魔力が溢れている。


六合が表情を引き締めた。


「オーガロード・エンペラー。」


「九十階の支配者です。」


「SSランク。」


「これまでとは別格です。」


咆哮。


次の瞬間。


鬼神が消えた。


「速っ!」


クロードが飛び出す。


「葵には行かせません!」


真正面から剣を合わせる。


ガァァァン!!


凄まじい衝撃。


クロードは吹き飛ばされる。


それでも立ち上がる。


「まだです!」


何度も立ち向かう。


だが。


実力差は大きかった。


鬼神の六本の腕が一斉に襲い掛かる。


「クロード!」


葵が叫ぶ。


間に合わない。


ズドォォォン!!


クロードの身体が壁へ叩き付けられる。


「がはっ……!」


大量の血を吐く。


右腕は折れ。


鎧も砕け散っていた。


「クロードさん!」


セレナが駆け寄る。


「大丈夫です……。」


そう言いながらも立てない。


クロードは悔しそうに拳を握った。


「また……。」


「守れませんでした。」


その瞬間。


葵の身体が静かに動いた。


「もう十分だ。」


一歩。


また一歩。


鬼神へ近付く。


「ここからは俺がやる。」


鬼神が六本の腕を振り上げる。


だが。


今の葵には遅かった。


一閃。


ズバァァァァン!!


鬼神の六本の腕が宙を舞う。


続く二撃目。


巨体は真っ二つになり、そのまま崩れ落ちた。


戦いは一瞬だった。


◇ ◇ ◇


「終わった……。」


セレナが呟く。


クロードだけは笑えなかった。


「また……。」


「また助けられた。」


拳を震わせる。


「私は……。」


「何も出来なかった。」


その姿を。


葵の奥で静かに見つめる存在がいた。


――晴明。


「そんな顔をしなくていい。」


優しい声がクロードへ届く。


クロードは驚いて顔を上げた。


目の前には。


白い羽織を纏った青年。


「あなたは……。」


穏やかに微笑む晴明。


「君の力は。」


「そんなものじゃない。」


「まだ眠っているだけだ。」


クロードは黙って話を聞く。


「焦る必要はない。」


「君には君だけの戦い方がある。」


「それは、まだ始まってもいない。」


クロードは静かに拳を握った。


「……ですが。」


「今のままでは。」


晴明は笑う。


「だったら。」


「まずは百階を目指そう。」


「そこまで辿り着けば。」


「きっと君にも見えるものがある。」


クロードは少し不安そうな表情を浮かべながらも、小さく頷いた。


「……はい。」


「必ず。」


「百階まで辿り着いてみせます。」


晴明は満足そうに笑う。


「その意気だ。」


その姿はゆっくりと光へ溶けていった。


クロードは胸へ手を当てる。


そこには、不思議と先程までの焦りはなかった。


新たな目標。


それは――。


百階到達だった。

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