77
重厚な扉がゆっくりと開く。
ゴゴゴゴゴ……。
奥から流れ出てきた魔力だけで、床が小さく震えた。
「この魔力……。」
セレナが思わず息を呑む。
「今までのボスとは比べ物になりません。」
広い空間の中央。
一体の魔物が静かに立っていた。
身長は五メートルほど。
漆黒の鎧を纏い、巨大な大剣を肩へ担いでいる。
兜の奥から覗く紅い双眸が、ゆっくりと葵達を見据えた。
「オォォォォォ……。」
低い唸り声だけで空気が震える。
六合が静かに口を開く。
「ダークジェネラル。」
「四十階のボスです。」
「Sランク上位。」
「王国騎士団でも討伐隊を組む相手ですね。」
クロードが剣を握り直す。
「油断出来ません。」
セレナも魔力を練り始める。
「いつでも行けます。」
葵はボスから目を離さず、小さく呟いた。
「……なるほど。」
「強いな。」
ダークジェネラルが大剣をゆっくりと構える。
次の瞬間。
ズドォン!!
床を砕きながら一直線に突っ込んできた。
「速い!」
クロードが叫ぶ。
だが。
葵には見えていた。
「俺が行く。」
一歩前へ出る。
以前なら見失っていた速度。
今は違う。
剣筋。
重心。
力の流れ。
全てが鮮明に見える。
(ここだ。)
葵は静かに踏み込んだ。
カンッ!!
剣と大剣がぶつかる。
凄まじい衝撃が部屋中へ響き渡る。
しかし。
葵は一歩も引かない。
「え……?」
クロードが目を見開く。
「止めた……?」
ダークジェネラルも驚いたように一瞬動きを止めた。
その僅かな隙。
葵は迷わず踏み込む。
「はっ!」
二撃。
三撃。
四撃。
目にも止まらぬ連撃が漆黒の鎧へ叩き込まれる。
ガガガガガッ!!
分厚い鎧へ次々と亀裂が走る。
「嘘……。」
セレナが言葉を失う。
以前なら三人掛かりでも苦戦しただろう相手。
それを葵一人が押している。
怒り狂ったダークジェネラルが咆哮を上げた。
「グオォォォォ!!」
漆黒の魔力が巨大な大剣へ集中する。
「葵様!」
六合が叫ぶ。
「その一撃だけは危険です!」
巨大な斬撃が振り下ろされる。
空間そのものを裂くような一撃。
だが。
葵は静かに息を吐いた。
(焦らない。)
(力を押し込むんじゃない。)
(自然に流す。)
晴明の言葉を思い出す。
ゆっくりと魔力を剣へ流し込む。
以前のような暴走はない。
今なら扱える。
「これで終わりだ。」
静かに剣を振るう。
ズバァァァァァァァン!!
黄金にも蒼にも見える一閃。
巨大な斬撃が一直線に走る。
ダークジェネラルは反応する間もなく。
鎧ごと真っ二つに斬り裂かれた。
数秒。
巨体はその場へ立ち尽くし。
ゆっくりと崩れ落ちる。
ドォォォォン!!
静寂。
「…………。」
誰も動かなかった。
最初に口を開いたのはクロードだった。
「終わり……ですか?」
六合が静かに頷く。
「はい。」
「ボスの魔力反応が消えました。」
「四十階攻略完了です。」
セレナは苦笑しながら肩を落とした。
「私達……。」
「応援しかしてませんね。」
葵は頭を掻く。
「いや。」
「俺もびっくりしてる。」
「ここまで差があるとは思わなかった。」
青龍が静かに頷く。
「ようやく身体が力へ追い付き始めました。」
はなも嬉しそうに笑う。
「ご主人様。」
「もう前みたいに力加減を間違えることも少なくなりましたね。」
その時だった。
ダークジェネラルが消えた場所へ、青白い光が集まり始める。
やがて一つの石が姿を現した。
「転移石ですね。」
六合が微笑む。
「四十階攻略完了です。」
クロードは安堵したように息を吐く。
「帰りましょう。」
セレナも笑顔で頷いた。
「久しぶりにゆっくりご飯が食べられそうですね。」
葵は転移石を見つめ、小さく笑う。
「思ったより早く終わったな。」
青龍が穏やかに答える。
「それだけ葵様が強くなられた証です。」
「……まだまだだけどな。」
そう言いながら、葵は転移石へ手を伸ばした。
淡い光が全員を包み込む。
次の瞬間。
葵達の姿はダンジョンから消えていた。
ファルンダンジョン四十階――攻略完了だった。




