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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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76

一か月の療養を終えた葵達は、再びファルンダンジョンへ足を踏み入れた。


目的は――。


三十一階からの攻略再開。


「やっと戻ってきたな。」


葵は軽く身体を動かす。


一か月寝込んでいたとは思えないほど身体は軽い。


しかし。


「……ん?」


何かがおかしい。


歩く。


止まる。


剣を握る。


全て違和感はない。


だが。


「何だろう……。」


「身体が軽すぎる?」


青龍が頷く。


「その感覚で正しいです。」


「封印解除によって身体能力そのものが底上げされています。」


六合も続ける。


「身体は既に新しい力へ適応しています。」


「ですが。」


「葵様の感覚だけが以前のままなんです。」


「つまり?」


「ご自身が思っている以上の力が自然と出ます。」


「……なるほど。」


何となく嫌な予感がした。


◇ ◇ ◇


三十一階。


最初に現れたのはオークの群れ。


「肩慣らしだ!」


葵はいつものように剣を振るう。


ズバァン!!


「え?」


剣圧だけで前列のオークがまとめて吹き飛んだ。


その勢いは止まらず。


後ろの岩壁まで大きく抉る。


「……。」


「やり過ぎた。」


クロードが苦笑する。


「以前なら全力でもここまでにはなりませんでした。」


「そうなんだよ。」


「普通に振っただけなんだけど。」


セレナも笑う。


「普通じゃないんですよ。」


◇ ◇ ◇


次の戦闘。


今度は慎重に。


「これくらいかな。」


軽く踏み込む。


ドン!!


「うわっ!」


思った以上に身体が前へ飛び出した。


そのままクロードへ一直線。


「クロード!」


「はい?」


慌てて止まる。


クロードの鼻先数センチで剣が止まった。


「危なっ……。」


「すみません。」


「危うく斬るところでした。」


葵は青ざめる。


「ごめん!」


「本当にごめん!」


クロードは笑って首を振る。


「お気になさらず。」


「止められたので問題ありません。」


後ろではセレナが肩を震わせていた。


「ふふっ。」


「笑うな!」


「すみません。」


「でも少し面白くて。」


はなは呆れたようにため息を吐く。


「だから言ったじゃないですか。」


「しばらくは戦うより、力加減を覚える方が大変ですよ。」


◇ ◇ ◇


三十二階。


三十三階。


三十四階。


階層を進むごとに魔物は強くなる。


Aランク級の魔物も珍しくなくなった。


それでも。


今までとは違った。


オーガロード。


ミノタウロス。


キラーマンティス。


どれも強敵だったはずなのに。


葵の一撃で大きく体勢を崩す。


「やっぱり強くなってる……。」


青龍は満足そうに頷く。


「純粋な身体能力だけでも以前とは別人です。」


六合も補足する。


「ですが。」


「まだ三割ほどしか扱えていません。」


「まだ?」


「はい。」


「今は無意識に力を逃がしています。」


「全部出せたらどうなるんだ?」


「……。」


三柱は顔を見合わせた。


「今は考えなくて結構です。」


六合は苦笑した。


「怖いんだけど。」


◇ ◇ ◇


三十五階。


三十六階。


三十七階。


三十八階。


三十九階。


戦いを重ねる度に。


葵は少しずつ身体を理解していく。


踏み込み。


剣速。


魔力の流し方。


ようやく仲間を巻き込まずに戦えるようになってきた。


セレナが嬉しそうに笑う。


「もう安心して隣で戦えますね。」


「いや。」


「最初の頃は本当に危なかった。」


クロードも苦笑する。


「三度ほど本気で死を覚悟しました。」


「そんなに?」


「はい。」


「本当にすみませんでした。」


全員が笑った。


◇ ◇ ◇


そして。


四十階。


巨大な扉の前へ到着する。


「ここが四十階……。」


今までより一回り大きい扉。


漂う魔力も桁違いだった。


クロードが静かに剣を抜く。


「いよいよですね。」


セレナも深呼吸する。


「四十階ボス。」


「気を引き締めましょう。」


葵は静かに頷く。


以前の自分なら。


間違いなく苦戦しただろう。


だが。


今は違う。


ゆっくりと扉へ手を掛ける。


重厚な音を立てながら扉が開いた。


その先で待ち受けていたのは――。


四十階の支配者だった。

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