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一か月の療養を終えた葵達は、再びファルンダンジョンへ足を踏み入れた。
目的は――。
三十一階からの攻略再開。
「やっと戻ってきたな。」
葵は軽く身体を動かす。
一か月寝込んでいたとは思えないほど身体は軽い。
しかし。
「……ん?」
何かがおかしい。
歩く。
止まる。
剣を握る。
全て違和感はない。
だが。
「何だろう……。」
「身体が軽すぎる?」
青龍が頷く。
「その感覚で正しいです。」
「封印解除によって身体能力そのものが底上げされています。」
六合も続ける。
「身体は既に新しい力へ適応しています。」
「ですが。」
「葵様の感覚だけが以前のままなんです。」
「つまり?」
「ご自身が思っている以上の力が自然と出ます。」
「……なるほど。」
何となく嫌な予感がした。
◇ ◇ ◇
三十一階。
最初に現れたのはオークの群れ。
「肩慣らしだ!」
葵はいつものように剣を振るう。
ズバァン!!
「え?」
剣圧だけで前列のオークがまとめて吹き飛んだ。
その勢いは止まらず。
後ろの岩壁まで大きく抉る。
「……。」
「やり過ぎた。」
クロードが苦笑する。
「以前なら全力でもここまでにはなりませんでした。」
「そうなんだよ。」
「普通に振っただけなんだけど。」
セレナも笑う。
「普通じゃないんですよ。」
◇ ◇ ◇
次の戦闘。
今度は慎重に。
「これくらいかな。」
軽く踏み込む。
ドン!!
「うわっ!」
思った以上に身体が前へ飛び出した。
そのままクロードへ一直線。
「クロード!」
「はい?」
慌てて止まる。
クロードの鼻先数センチで剣が止まった。
「危なっ……。」
「すみません。」
「危うく斬るところでした。」
葵は青ざめる。
「ごめん!」
「本当にごめん!」
クロードは笑って首を振る。
「お気になさらず。」
「止められたので問題ありません。」
後ろではセレナが肩を震わせていた。
「ふふっ。」
「笑うな!」
「すみません。」
「でも少し面白くて。」
はなは呆れたようにため息を吐く。
「だから言ったじゃないですか。」
「しばらくは戦うより、力加減を覚える方が大変ですよ。」
◇ ◇ ◇
三十二階。
三十三階。
三十四階。
階層を進むごとに魔物は強くなる。
Aランク級の魔物も珍しくなくなった。
それでも。
今までとは違った。
オーガロード。
ミノタウロス。
キラーマンティス。
どれも強敵だったはずなのに。
葵の一撃で大きく体勢を崩す。
「やっぱり強くなってる……。」
青龍は満足そうに頷く。
「純粋な身体能力だけでも以前とは別人です。」
六合も補足する。
「ですが。」
「まだ三割ほどしか扱えていません。」
「まだ?」
「はい。」
「今は無意識に力を逃がしています。」
「全部出せたらどうなるんだ?」
「……。」
三柱は顔を見合わせた。
「今は考えなくて結構です。」
六合は苦笑した。
「怖いんだけど。」
◇ ◇ ◇
三十五階。
三十六階。
三十七階。
三十八階。
三十九階。
戦いを重ねる度に。
葵は少しずつ身体を理解していく。
踏み込み。
剣速。
魔力の流し方。
ようやく仲間を巻き込まずに戦えるようになってきた。
セレナが嬉しそうに笑う。
「もう安心して隣で戦えますね。」
「いや。」
「最初の頃は本当に危なかった。」
クロードも苦笑する。
「三度ほど本気で死を覚悟しました。」
「そんなに?」
「はい。」
「本当にすみませんでした。」
全員が笑った。
◇ ◇ ◇
そして。
四十階。
巨大な扉の前へ到着する。
「ここが四十階……。」
今までより一回り大きい扉。
漂う魔力も桁違いだった。
クロードが静かに剣を抜く。
「いよいよですね。」
セレナも深呼吸する。
「四十階ボス。」
「気を引き締めましょう。」
葵は静かに頷く。
以前の自分なら。
間違いなく苦戦しただろう。
だが。
今は違う。
ゆっくりと扉へ手を掛ける。
重厚な音を立てながら扉が開いた。
その先で待ち受けていたのは――。
四十階の支配者だった。




