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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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ダンジョンの奥で巨大なコアが砕け散った、その頃――。


戦場では異変が起きていた。


「……あれ?」


冒険者の一人が足を止める。


「魔物が……。」


「出てこない?」


これまで倒しても倒しても押し寄せてきた魔物の群れ。


その数が、目に見えて減り始めていた。


ギルド長は大剣で魔物を薙ぎ払いながら辺りを見回す。


「……なるほど。」


ニヤリと口元を吊り上げた。


「やってくれたか。」


その一言で、副ギルド長が驚く。


「まさか!」


「あぁ。」


「ダンジョンを潰した。」


ギルド長は大剣を肩へ担ぐと、大声で怒鳴った。


「野郎共ぉぉぉぉ!!」


戦場全体へ声が響く。


「終わりが見えたぞ!」


「ダンジョン攻略班がやってくれた!」


「もう一踏ん張りだ!」


「ここで踏ん張れば、この町は守れる!」


「最後まで立ってる奴が勝者だぁぁぁ!!」


その言葉に。


冒険者達の目へ再び火が灯る。


「おおおおお!!」


「やってやる!」


「あと少しだ!」


「押し返せぇぇ!!」


疲れ切っていた身体へ、もう一度力が宿る。


誰一人退かなかった。


冒険者。


騎士。


町の自警団。


全員が最後の力を振り絞る。


そして――。


数時間後。


最後の一体が倒れた。


静寂。


誰も動かない。


次の瞬間。


「勝ったぁぁぁぁぁ!!」


歓声が上がる。


「終わったぁ!」


「生きてる!」


「助かった!」


抱き合う者。


泣き崩れる者。


その場へ座り込む者。


町を守り切った喜びが戦場を包んだ。


ギルド長は大剣を空へ掲げる。


「野郎共ぉぉぉ!!」


「勝鬨だぁぁぁぁ!!」


「うおおおおおお!!」


大歓声が町中へ響き渡った。


◇ ◇ ◇


夕方。


ギルド。


広間は冒険者達で埋め尽くされていた。


テーブルには料理が並び。


酒樽まで運び込まれている。


ギルド長が椅子へ飛び乗った。


「今日はよぉ!」


「誰一人逃げなかった!」


「誰一人諦めなかった!」


「だから今、この町は残ってる!」


全員が静かに耳を傾ける。


「誇れ。」


「今日この場にいる全員が、この町の英雄だ。」


「今日は難しい話は無しだ!」


「飲め!」


「食え!」


「騒げ!」


「全部ギルド持ちだぁぁぁ!!」


「うおおおおお!!」


一斉に宴が始まる。


酒を飲む者。


料理へ飛び付く者。


笑い声が絶えない。


そんな中。


ギルドの扉がゆっくり開いた。


「おっ!」


「帰ってきた!」


「葵だ!」


「ダンジョン攻略組だ!」


満身創痍の葵達が姿を現す。


全員服はボロボロ。


葵は背負われていて自分では動けない様子。


それでも全員生きて帰ってきた。


一瞬静まり返った広間。


そして。


「ありがとう!!」


誰かが叫んだ。


「助けてくれてありがとう!」


「町を救ってくれてありがとう!」


「本当にありがとう!」


拍手が鳴り響く。


次第に拍手は広間全体へ広がった。


葵は少し照れ臭そうに頭を掻く。


「いや……。」


「俺達だけじゃないですよ。」


「皆が頑張ったから勝てたんです。」


その言葉に、さらに大きな拍手が起きた。


ギルド長は豪快に笑う。


「細けぇことはいい!」


「今日は主役なんだから飲め!」


そう言って、大きなジョッキを渡した。


「いただきます!」


葵は笑顔でジョッキを持ち上げる。


……が。


プルプルプル。


手が震える。


「……あれ?」


もう一度持ち上げる。


プルプルプル。


「え?」


今度は足へ力を入れる。


ガクガク。


身体が言うことを聞かない。


「……やば。」


その様子を見ていたはなが笑顔で近付いてきた。


「ご主人様?」


「はい。」


ジョッキを取り上げる。


「今日はお酒禁止です。」


「えぇぇぇ!?」


「ダメです。」


満面の笑み。


だが、笑っているだけで圧が凄い。


葵は思わず後退る。


「いや、一杯だけ。」


「ダメです。」


「乾杯だけ。」


「ダメです。」


「匂いだけ。」


「ダメです。」


「舐めるだけ。」


「ダメです。」


笑顔は変わらない。


だが。


完全に逃げ道はなかった。


青龍が苦笑する。


「晴明様も昔、同じことを仰っていましたね。」


六合も頷く。


「『反動の方が辛い』と。」


葵は絶望した顔になる。


「うわぁ……。」


「今回、晴明も『しんどい』って言ってたし……。」


「反動、絶対ヤバいじゃん……。」


深いため息。


それでも未練たっぷりに宴会を見る。


「やっぱり一杯だけ……。」


「ダメです。」


即答だった。


「うぅ……。」


「嫌だ〜俺も飲みたいし楽しみたいぃぃぃ!!」


葵の悲痛な叫びがギルド中へ響く。


そのまま首根っこを掴まれ。


「さぁ、ご主人様。」


「今日は休みましょう。」


「待ってぇぇぇ!」


「皆飲んでるぅぅぅ!」


「俺だけぇぇぇ!!」


情けない悲鳴を上げながら、宿へ連行されていく葵。


その姿を見た冒険者達は大笑いした。


「はははは!」


「英雄も大変だな!」


「頑張れー!」


笑い声が響く中。


町を救った英雄は、酒一杯飲めないまま静かに宿へ消えていった。

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