72
暴走したコアガーディアンは、ゆっくりと四人を見下ろした。
全身から溢れる赤黒い魔力。
その圧力だけで空気が震え、大地が軋む。
「来ます!」
六合が鋭く叫ぶ。
次の瞬間、コアガーディアンが消えた。
「右です!」
六合の声を信じ、葵は迷わず右へ飛び込む。
ドォォォォォン!!
巨大な拳が、今まで葵が立っていた場所を粉々に砕いた。
「速っ……!」
あの巨体からは想像も出来ない速度だった。
「今です!」
六合が両手を前へ突き出す。
足元へ黄金色の魔法陣が展開され、コアガーディアンの動きがほんの一瞬だけ鈍る。
「クロード!」
「はい!」
クロードが一気に間合いを詰める。
「はぁぁっ!」
鋭い斬撃。
続いてセレナの風魔法。
「ウィンドランス!」
無数の風の槍が装甲へ突き刺さる。
「葵!」
「分かってる!」
三人の攻撃に合わせ、葵も懐へ飛び込む。
「はぁぁぁぁ!!」
全力で胸部を狙う。
ガキィィィィン!!
だが。
装甲を浅く斬っただけだった。
「硬い!」
ガーディアンが腕を薙ぐ。
「下がって!」
六合の声。
三人は同時に飛び退く。
次の瞬間。
横薙ぎの一撃が空気を裂いた。
もし一瞬でも遅れていたら。
間違いなく全員まとめて吹き飛ばされていた。
「今度は左!」
六合は戦場全体を見渡しながら、次々と指示を飛ばす。
「セレナさん、後方!」
「クロードさん、三秒後に正面!」
「葵様、今です!」
その指示は驚くほど正確だった。
四人はまるで一人のように連携し、ギリギリで猛攻を捌き続ける。
しかし。
決定打がない。
時間だけが過ぎていく。
「ぐっ!」
クロードの肩へ拳が掠めた。
鎧ごと吹き飛ばされる。
「クロード!」
「まだ……大丈夫です!」
立ち上がる。
その直後。
セレナも衝撃波をまともに受け、地面を何度も転がった。
「きゃっ!」
「セレナ!」
「私は平気!」
そう答えるものの、肩からは血が流れている。
葵も傷だらけだった。
息が上がる。
腕が重い。
それでも剣を握り直す。
「まだ……終われない!」
四人は必死だった。
互いに支え合い。
六合の補助を受けながら。
ただ、生き延びるために剣を振るう。
しかし。
徐々に押され始める。
(まずい……。)
(このままじゃ。)
その時だった。
――葵。
どこか懐かしく。
どこまでも優しい声が頭の中へ響いた。
(……晴明。)
自然とその名が口をついた。
――よくここまで頑張ったね。
――君、本当に強くなった。
その声だけで、不思議と胸が軽くなる。
(でも……。)
(全然勝てる気がしない。)
晴明は少し笑った。
――大丈夫。
――今の君なら、届くかもしれないよ。
――六合の封印をもう一つ。
――青龍の封印を一つ。
――そこまで解放出来れば、この相手とも戦える。
葵は目を見開く。
(本当か?)
――うん。
――でもね。
晴明の声が少しだけ真剣になる。
――青龍が持つ封印は、まだ少し強い。
――今の君だと、身体が耐え切れないかもしれない。
――最悪……壊れてしまう可能性もある。
少しの沈黙。
それでも晴明は急かさなかった。
――どうする?
ガーディアンが再び拳を振り上げる。
クロードが受け止める。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされながらも、何とか勢いを殺す。
「葵様!」
「考え事をしている暇はありません!」
セレナも魔法を放ち続ける。
「ウィンドカッター!」
しかし、次々と弾き飛ばされる。
二人とも限界が近い。
葵は拳を握り締めた。
「……頼む。」
「俺に力を貸してくれ。」
晴明は優しく笑った。
――うん。
――それじゃあ。
――六合。
――青龍。
――頼めるかな。
結界の中。
二柱が静かに目を開く。
六合は微笑んだ。
「ようやく、この時が来ましたね。」
青龍は苦笑する。
「正直、もう少し先だと思っていました。」
はなが心配そうに二人を見る。
「本当に大丈夫なの?」
青龍は首を横へ振った。
「大丈夫とは言えません。」
「ですが。」
「葵様が選ばれた道です。」
六合も静かに頷く。
「私達が信じず、誰が信じるのです。」
二人は向かい合う。
同時に目を閉じた。
六合の足元へ、幾重にも重なる黄金の魔法陣が浮かび上がる。
青龍の身体からは蒼い龍のような魔力が溢れ始めた。
黄金。
蒼。
二つの光がゆっくりと共鳴し始める。
「契約を司る理よ。」
六合が静かに詠唱する。
「主へ託された封印。」
「第一階層──開錠。」
同時に青龍が右手を胸へ当てた。
「龍王が守護せし力。」
「我が魂へ刻まれし枷。」
「第一封印──解除。」
ゴォォォォォ……
蒼き龍が六合の黄金の魔法陣を取り囲む。
二つの魔力は空中で巨大な紋章を描き始めた。
まるで世界そのものへ刻まれた古代文字。
眩い光がダンジョン全体を照らす。
その光はゆっくりと葵へ向かって降り注いでいった。
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