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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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三階へ足を踏み入れた瞬間だった。


「……。」


誰も言葉を発しなかった。


広大な空間。


中央には巨大な祭壇。


その前に、一体の巨人が静かに立っていた。


全身を黒曜石のような漆黒の鎧で覆った騎士。


身長は四メートルを優に超え、胸部には赤黒く脈打つ巨大な魔石が埋め込まれている。


顔には表情がなく、仮面のような無機質な顔。


背中からは黒い魔力が煙のように立ち昇っていた。


「あれが……。」


葵が息を呑む。


六合は静かに頷く。


「あれが、このダンジョンの守護者。」


「コアガーディアンです。」


「本来、この規模のダンジョンで生まれるガーディアンはAランク程度。」


「ですが、ベルゼル達がダンジョンコアへ大量の魔力を流し込んだ影響で完全に暴走しています。」


六合の視線が胸の魔石へ向く。


「あの胸部の魔石。」


「あれがダンジョンコアとの接続部です。」


「あそこを破壊しなければ倒すことは出来ません。」


「逆に破壊できれば自己修復も止まります。」


葵は剣を構えた。


「分かった。」


「胸を狙う!」


その瞬間。


ガーディアンの両目が赤く輝く。


ギィィィィ……


低い唸り声が響いた。


「来ます!」


六合の声と同時に。


ガーディアンが地面を砕きながら突進してきた。


「散れ!」


葵の声で全員が左右へ飛ぶ。


ドォォォン!!


巨大な拳が叩き込まれ、大地が陥没する。


「なんて威力だ!」


クロードが息を呑む。


はなが真正面から飛び込んだ。


「こっちだ!」


鋭い拳がガーディアンの顔面を捉える。


しかし。


ビクともしない。


逆に振り払われ、その巨体が吹き飛ぶ。


「はな!」


青龍が雷を纏い、一瞬で懐へ潜る。


「雷閃!」


雷撃が全身を駆け抜ける。


わずかに動きが止まった。


「今です!」


六合が叫ぶ。


クロードとセレナが左右から飛び込み、剣と魔法で動きを止める。


その隙に。


「はぁぁぁぁぁ!!」


葵が全力で跳躍した。


狙うは胸部。


赤黒く脈打つ魔石。


ガキィィィィン!!


剣が突き刺さる。


だが砕けない。


「まだだ!」


もう一度。


全身の力を込める。


クロードも横から剣を振り下ろす。


セレナの魔法が一点へ集中する。


はなの拳。


青龍の雷。


六合の補助魔法。


全員の力が一つになる。


「砕けろぉぉぉぉ!!」


バキィィィィン!!


胸部の魔石が砕け散った。


ガーディアンの動きが止まる。


その巨体がゆっくりと膝をついた。


「やった!」


セレナが声を上げる。


しかし――。


ドクン。


ダンジョン全体が脈打った。


ゴゴゴゴゴゴ……


激しい揺れ。


祭壇の奥が赤く輝き始める。


六合の表情が変わる。


「まさか……!」


「皆さん!」


「離れてください!」


祭壇が崩れ落ちる。


その奥から。


直径二メートルほどもある巨大な紅い水晶が姿を現した。


ドクン。


ドクン。


巨大な心臓のように脈打つダンジョンコア。


「本物のダンジョンコア……。」


六合は目を見開く。


「今までの魔石は制御核。」


「本体ではありません!」


次の瞬間。


壁。


床。


天井。


そして倒した魔物達の亡骸からまで。


ダンジョン中の魔力が巨大なコアへ吸い込まれていく。


ベルゼル達が最後に仕掛けた術式。


最後の保険だった。


吸収された膨大な魔力が、一気にガーディアンへ流れ込む。


「ギィィィィィィィィ!!!!」


倒れていたガーディアンが再び立ち上がる。


黒かった鎧は深紅へ染まり。


全身から赤黒い雷が迸る。


背中には四本の巨大な魔力の翼。


放たれる魔力だけで空間が震え始めた。


六合が静かに呟く。


「第二形態……。」


「ダンジョンコアが直接ガーディアンと融合しました。」


クロードが剣を握り締める。


「冗談……でしょう。」


セレナも青ざめる。


「こんなの……。」


「勝てるんですか?」


六合は苦しそうに答えた。


「現在の強さは……。」


「恐らくSSSランク相当です。」


その言葉が終わるのと同時だった。


砕け散った制御核の欠片が、突然赤黒い光を放ち始める。


「……?」


はなが眉をひそめる。


六合だけが異変に気付いた。


「皆さん!」


「離れてください!」


しかし。


遅かった。


無数の欠片が宙へ浮かび上がる。


「なっ……!」


「これは!」


欠片が一直線にはな達へ襲い掛かる。


六合は咄嗟に後方へ飛び退いた。


「くっ!」


間一髪で回避する。


だが。


はなと青龍はガーディアンとの距離が近すぎた。


「しまっ!」


赤黒い欠片が二人の周囲を高速で回転し始める。


カチン。


カチン。


カチン。


まるで何かが噛み合うような音。


次の瞬間。


バァァァァン!!


巨大な赤黒い結界が展開された。


「くっ!」


はなが拳を叩き込む。


ドォン!!


しかし。


結界はびくともしない。


青龍も雷を纏い全力で斬りつける。


轟音。


雷光が走る。


それでも傷一つ付かない。


六合が結界へ触れる。


「これは……。」


「ダンジョンコアの魔力そのもの。」


「通常の結界ではありません。」


はなが再び拳を叩き込む。


「壊れろ!」


ドォォォン!!


それでも結界は静かに揺れるだけだった。


青龍が静かに言う。


「内側からも破壊は難しいですね。」


六合は歯を食いしばる。


「ベルゼル達の狙いです。」


「最初から三柱を隔離するための術式……。」


その言葉に葵達の顔色が変わる。


「じゃあ……。」


「俺達だけで?」


六合は静かに頷いた。


「はい。」


「この結界は私でも解除出来ません。」


「ダンジョンコアが停止しない限り消えることはないでしょう。」


はなは結界越しに葵を見る。


「ご主人様!」


「ここは私達に構わず戦って!」


青龍も静かに頷いた。


「葵様。」


「あなたなら必ず勝てます。」


「私達は信じています。」


戦うことすら許されず、結界の中から見守るしかない三柱。


暴走したコアガーディアンは、ゆっくりと葵達へ向き直った。


今、この場で立ち向かえるのは――


葵。


クロード。


セレナ。


そして六合。


四人だけだった。

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