表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者  作者: sai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/28

7

静まり返った部屋。


残されたのは俺と黒崎さんだけだった。


「……。」


「……。」


なんとも言えない空気が流れる。


俺は黒崎さんを見る。


「黒崎さん。」


「はい。」


「まさか黒崎さんも、武道の達人でしたとか言いませんよね?」


「違います。」


即答だった。


「ですよね。」


「では……実は森に住む大きな猫の精霊の生まれ変わりとか。」


「違います。」


「じゃあ巨大なバスとか。」


「違います。」


「ですよねぇ。」


黒崎さんは少し困ったように笑う。


「私は本当に普通の人ですよ。」


「普通の人があんな事故でブレーキ二回踏めるかなぁ……。」


俺は首を傾げる。


そうだ。


一つ気になっていたことがある。


俺は水晶へ向き直った。


「質問。」


『許可します。』


「女神って誰?」


『回答権限がありません。』


「じゃあ何人いるの?」


『回答権限がありません。』


「何で俺たちを選んだ?」


『回答権限がありません。』


「……お前、便利な言葉覚えたな。」


『回答権限がありません。』


「それもかよ!」


黒崎さんが小さく吹き出した。


「少し面白いですね。」


「笑いました?」


「……少しだけ。」


その笑顔を見て、俺もつられて笑ってしまう。


「じゃあ黒崎さん、お願いします。」


黒崎さんは静かに頷き、水晶へ手を置いた。


『個体を確認しました。』


『生前情報を読み込みます。』


『対象者。』


『黒崎 一真。』


『今世の経歴を確認。』


『幼稚園バス運転手。』


『犯罪歴なし。』


『特筆すべき戦闘経歴なし。』


『極めて一般的な人生を確認。』


「ほら。」


黒崎さんが少し照れくさそうに笑う。


「私は普通なんです。」


「……ですよね。」


俺も納得した。


しかし。


水晶は続ける。


『前世情報を確認。』


「え?」


『対象者の前世。』


『守護型ゴーレム。』


「……はい?」


『村を守る目的で創造された守護個体。』


『住民及び子どもの保護を最優先行動として設定。』


「ゴーレム?」


俺も黒崎さんも固まる。


『今世において、守護本能の一部を継承。』


『死亡直前、能力の一部が覚醒。』


『即死相当の損傷を受けながらも行動可能となりました。』


「だから……。」


黒崎さんは自分の手を見つめる。


「最後まで動けたんですね。」


『補足。』


『同乗していた園児及び教諭は全員生存。』


その瞬間だった。


黒崎さんの肩から、ふっと力が抜ける。


「……そうですか。」


小さく笑う。


心の底から安心したような笑顔だった。


「よかった……。」


それだけだった。


自分が死んだことよりも。


子どもたちが助かったことの方が嬉しいらしい。


俺は思わず笑う。


「やっぱり黒崎さん、普通じゃないですよ。」


黒崎さんは首を横に振る。


「いいえ。」


「子どもを守ろうとする大人なら、誰でも同じです。」


その言葉を聞いて、俺は何も言い返せなかった。


『転移先への接続が完了しました。』


黒い扉がゆっくりと開く。


黒崎さんは俺に向き直る。


「葵さん。」


「はい。」


「短い間でしたが、お話しできて良かったです。」


「向こうでも、お元気で。」


そう言って深く一礼する。


「黒崎さんも。」


「ありがとうございました。」


黒崎さんは穏やかな笑顔のまま扉へ歩き、そのまま光の中へ消えていった。


ガチャリ。


静かに扉が閉まる。


広い白い部屋に残されたのは――


俺、一人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ