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ベルゼル達の姿が完全に消えると。
張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。
その場へ座り込む冒険者。
安堵して涙を流す者。
誰もが、生き残れたことを実感していた。
だが――。
戦場の向こうでは、今もなお魔物達の咆哮が響いている。
スタンピードは終わっていない。
ベルゼル達が去っただけで、町へ押し寄せる魔物の群れは依然として健在だった。
葵も深く息を吐く。
「助かった……。」
そして、自分を救ってくれた少年へ視線を向ける。
七歳ほどの幼い少年。
だが、その独特な喋り方が頭から離れない。
葵は目を細めた。
「君って……。」
「もしかしてだけど。」
「源三さん?」
少年は目を丸くした。
「ほっほっほ。」
「久々じゃのぉ。」
その一言で確信した。
(やっぱり。)
白い部屋で出会った、あの老人。
世界を救った英雄だと笑っていた源三。
目の前にいるのは七歳ほどの少年なのに、喋り方も笑い方もあの時のままだった。
「本当に源三さんなんだ。」
「そうじゃ。」
「ただ、この世界では――。」
「グレン。」
「グレン・フォン・アルフェルトじゃ。」
「アルフェルト辺境伯家の次男をやっとる。」
葵は思わず苦笑する。
「源三さんが辺境伯家の次男って……。」
「何か全然しっくりこないな。」
「儂も最初はそう思ったわい。」
グレンは辺りを見回した。
「ほれ、そこの……。」
「名前は何じゃったかの?」
少し考え込む。
「女神から聞いておったんじゃが……。」
「忘れてしもうた。」
クロードは苦笑しながら胸へ手を当てた。
「今はクロードと申します。」
「おぉ、そうじゃった。」
「クロードじゃ。」
グレンは何度か頷く。
「歳を取ると忘れっぽくなっていかんのぉ。」
クロードは思わず笑った。
「まだ七歳でしょう?」
「見た目はそうじゃな。」
「中身は爺さんじゃから仕方あるまい。」
その一言に、その場から小さな笑いが漏れる。
グレンは咳払いを一つすると、真面目な表情へ戻った。
「さて、本題じゃ。」
「本来なら儂は、クロードと同じ頃に転生する予定じゃった。」
「じゃが。」
「女神達が時系列を調整しておる最中に、少々アクシデントが起きてしまっての。」
「転生する時期がずれてしもうた。」
「それで、一週間ほど前じゃ。」
「女神から『この場所へ向かえ』と知らせが届いての。」
「慌てて飛んで来たという訳じゃ。」
「とは言え急な話じゃ。」
「しかも、ここは遠い。」
肩を竦める。
「普通に移動すれば二か月は掛かる距離じゃからの。」
「儂もかなり急いで来たんじゃ。」
「ギリギリ間に合ったわい。」
葵は感心したように頷く。
「二か月の距離を一週間で来たってこと?」
「無茶し過ぎでしょ。」
「ほっほっほ。」
「儂もそう思う。」
グレンは頭を掻いた。
「まぁ……。」
「急いでおったからの。」
「父上と母上には置き手紙だけ残して飛び出して来てしもうた。」
「帰るのが少々怖いんじゃよ。」
「間違いなく怒られるじゃろうなぁ。」
その言葉に。
セレナが思わず吹き出す。
「ふふっ。」
クロードも口元を押さえて笑う。
葵は肩を震わせながら言った。
「世界を救った英雄でも……。」
「親には怒られるんだ。」
「当たり前じゃ。」
グレンは真面目な顔で頷く。
「親は何歳になっても親じゃからの。」
その一言に。
重苦しかった戦場へ、久しぶりに笑い声が響いた。
しかし、その笑いも長くは続かなかった。
「まだ終わっておらんぞ。」
グレンの一言で、その場の空気が再び引き締まる。
グレンは聖剣を肩へ担ぎ直し、迫り来る魔物の群れを見据えた。
「厄介なのは帰った。」
「後は掃除の時間じゃな。」
その言葉に、冒険者達の目へ再び闘志が宿る。
ギルドマスターも大剣を肩へ担ぎ、豪快に叫んだ。
「聞いたか、お前ら!」
「スタンピードはまだ終わっちゃいねぇ!」
「この町を守るぞ!」
「魔物を一匹残らず叩き潰せぇ!!」
「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」
戦場へ再び雄叫びが轟く。
葵は剣を握り直した。
「クロード。」
「セレナ。」
「行こう。」
「はい!」
「もちろんです!」
三人は再び魔物の群れへ向かって駆け出す。
その後ろでは、グレンも静かに聖剣を構えた。
「さて。」
「久しぶりの実戦じゃ。」
「少し身体を動かすとするかの。」
──英雄の登場により、戦場は再び反撃へと動き始めた。




