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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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「クロード!」


「セレナ!」


二人は互いに視線を交わすと、小さく頷いた。


セレナは懐から一本の小瓶を取り出す。


「これで……最後です。」


迷うことなく神薬を飲み干した。


淡い光が全身を包み込み、裂けた傷がみるみる塞がっていく。


「クロード!」


「はい。」


クロードも懐から最後の一本を取り出した。


「こちらも最後の一本です。」


神薬を飲み干すと、疲弊していた身体へ再び力が戻る。


二人は空になった小瓶を静かに見つめた。


「これで私達の神薬は尽きました。」


「後は……葵だけですね。」


葵は黙って頷く。


晴明から渡された神薬は、まだ倉庫に山ほど残っている。


だが。


今の戦況では、取り出して渡す一瞬の隙すら存在しなかった。


「行こう!」


「はい!」


三人は再び槍使いへ向かって駆け出した。


◇ ◇ ◇


しかし。


現実は甘くなかった。


クロードの全力。


セレナの魔法。


葵の剣。


どれも決して弱くない。


それでも。


「甘い。」


槍使いは一歩も退かない。


鋭い槍が幾度も閃き、その度に三人へ傷が増えていく。


「くっ!」


葵の肩が裂ける。


「ぐっ!」


クロードの脇腹が抉られる。


「きゃっ!」


セレナの腕から鮮血が飛び散る。


葵の倉庫には神薬が大量にある。


だが、それを取り出して仲間へ渡す暇すら与えられない。


完全に押し込まれていた。


「葵!」


クロードが叫ぶ。


その瞬間。


ズブッ――。


「がっ……!」


漆黒の槍が葵の脇腹を深く貫いた。


「葵!」


クロードの顔色が変わる。


「葵!」


セレナも悲鳴を上げる。


遠くでは。


「葵様!」


青龍が振り返る。


「っ!」


はなも表情を変えた。


「まずい!」


六合も結界を維持しながら叫ぶ。


しかし。


三人とも宿敵に足止めされている。


助けへ向かうことができない。


「まだ終われません!」


クロードが再び黄金色の闘気を噴き上げた。


「クロード!」


「無茶だ!」


「構いません!」


「ここで倒れる訳にはいきません!」


限界を超えた力を無理やり引き出す。


身体中から血が滲む。


それでも剣を振るう。


「はぁぁぁぁ!」


渾身の一撃。


しかし――


カンッ!


槍使いは片手で受け止めた。


「二度目は通じん。」


次の瞬間。


ドォン!!


クロードの身体が大きく吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


地面を転がり、そのまま膝をつく。


もう立ち上がる力すら残っていなかった。


「クロード!」


セレナが魔法を放とうとした。


しかし。


「遅い。」


槍の柄が腹部へ叩き込まれる。


「きゃあっ!」


セレナも吹き飛ばされ、地面へ倒れ伏す。


杖は手から離れ、起き上がれない。


葵だけが、槍を身体へ突き刺されたまま立っている。


「はぁ……。」


「はぁ……。」


視界が霞む。


脳裏へ浮かぶ。


異世界へ来て、最初に戦ったゴブリン。


何もできず、一方的に叩きのめされた。


次に浮かぶのは、スライムとの戦い。


必死に剣を振った。


それでも間に合わなかった。


目の前で老人を救えなかった、あの無力感。


(また……。)


(また守れないのか。)


(何一つ変わってない。)


悔しさで歯が軋む。


(前世は……。)


(世界を救った英雄だった。)


(なのに俺は。)


(今の俺は誰一人守れない。)


(また……負けるのか。)


槍使いがゆっくりと槍を構えた。


「終わりだ。」


切っ先が葵の胸へ向けられる。


誰も動けない。


誰も助けられない。


まさに絶体絶命――。


その時だった。


ドゴォォォォォォン!!


凄まじい衝撃と共に、一人の影が葵の前へ降り立った。


槍使いの一撃を片手で受け止める。


「ほっほっほ。」


「何とか間に合ったかの。」

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