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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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ダンジョンから地上へ戻った葵達は、すぐに異変へ気付いた。


「……何か騒がしくないか?」


町中を人々が慌ただしく走り回っている。


武器を抱えた冒険者。


荷物を運ぶ商人。


避難を始める住民。


普段の活気とは明らかに違う空気だった。


葵は近くを走っていた男性を呼び止める。


「すみません。」


「何かあったんですか?」


男は足を止めることなく答えた。


「大変なんだ!」


「近くに新しいダンジョンが出現したらしい!」


「そこからモンスターが溢れ出してる!」


「スタンピードだ!」


そう言い残し、男は走り去っていった。


「スタンピード……。」


葵が呟く。


クロードの表情が険しくなる。


「急ごう。」


「ギルドだ。」


一行は急いで冒険者ギルドへ向かった。



ギルドへ入ると、中は人で溢れ返っていた。


普段は酒を飲み談笑している冒険者達も、今は誰一人笑っていない。


受付前では女性職員が大きな声で説明を続けていた。


「静かにしてください!」


「調査の結果、町の近くに新たなダンジョンの出現を確認しました!」


「現在、そのダンジョンから大量のモンスターが溢れ出しています!」


「スタンピードです!」


ギルド内がざわつく。


女性職員は構わず続けた。


「ギルドは緊急依頼を発令します!」


「ランクは問いません!」


「特別な事情がある方を除き、全冒険者を対象とした強制依頼となります!」


「参加される方はこちらで登録をお願いします!」


その言葉でギルド内はさらに騒然となった。


「マジかよ……。」


「こんなタイミングで……。」


「新しいダンジョンだと?」


不安と緊張が広がる。


その時だった。


ギィ……


奥の扉が開く。


大柄な男がゆっくりと姿を現した。


ファルン冒険者ギルド。


ギルドマスターだった。


男はギルド全体を見回し――


腹の底から響くような大声を上げる。


「お前らぁぁぁぁ!!」


その一声だけで、騒がしかったギルドは一瞬で静まり返った。


ギルドマスターはゆっくり口を開く。


「お前ら。」


「この町は好きか?」


あまりにも唐突な問い。


冒険者達は互いに顔を見合わせる。


ギルドマスターは気にせず続けた。


「俺は好きだ。」


「好きな時にダンジョンへ潜って。」


「好きなように稼いで。」


「酒飲んで。」


「バカ騒ぎして。」


「この町は、冒険者の自由が全部詰まってる。」


少し笑う。


「まぁ……。」


「バカは多い。」


ギルド内から笑いが漏れる。


「悪い奴も、たまーにはいる。」


「だが、そんな奴はほんの一握りだ。」


「こんないい町、他にはねぇ。」


「だから俺は、この町のギルド長をやらねぇかって話が来た時――」


「二つ返事で引き受けた。」


ギルドマスターは全員を見渡した。


「もう一度聞く。」


「お前ら。」


「この町は好きか?」


一瞬の静寂。


そして。


「当たり前だーー!!」


「好きに決まってんだろ!!」


「ここが俺達の町だ!!」


「最高だーー!!」


冒険者達が一斉に叫ぶ。


ギルドマスターは大きく頷いた。


「なら――」


「守んねぇとなぁ!!」


「おおおおおおおっ!!」


ギルド中が歓声に包まれる。


ギルドマスターは豪快に笑った。


「安心しろ。」


「お前らの先頭には俺が立つ。」


その直後だった。


「それに――」


「今、この町には。」


「とんでもねぇ奴らもいる。」


そう言って、ギルドマスターは視線をゆっくりと葵の方へ向けた。


偶然。


目が合う。


ギルドマスターはニヤリと笑った。


「楽勝とは言わねぇ。」


「だが。」


「勝てねぇ勝負じゃねぇ!!」


再び冒険者達が拳を突き上げる。


「参加者は二時間後!」


「正門前に集合だ!!」


「勝つぞ!!」


「お前らぁぁぁぁ!!」


「おおおおおおおおっ!!!!」


ギルド中に雄叫びが響き渡る。


その熱気を前に、葵は呆然と立ち尽くしていた。


(……何だ、この人。)


理由は分からない。


なのに。


身体の奥から熱い何かが込み上げてくる。


自然と拳を握り締めていた。


「……勝つ。」


気付けば、小さくそう呟いていた。

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