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食後
全員が箸を置く。
鍋の中は見事なまでに空っぽだった。
肉も野菜も、一切残っていない。
「……食ったぁ。」
葵はその場へ寝転がる。
「もう食えねぇ……。」
セレナもお腹を押さえながら幸せそうに微笑む。
「こんなに美味しいご飯……初めて食べました。」
クロードも珍しく笑みを浮かべた。
「これほど美味しい料理は、人生で初めてです。」
青龍は満足そうに尻尾を揺らす。
「やっぱりご主人様の料理は最高ですね。」
六合も静かに頷く。
「昔と変わらぬ味でした。」
はなは目を細める。
「懐かしいですね。」
晴明は空になった鍋を見て、満足そうに微笑んだ。
「綺麗に食べてくれてありがとう。」
「作った甲斐があったよ。」
その時だった。
「あ、そうだ。」
晴明が思い出したように六合を見る。
「六合。」
「はい。」
「武器関係はまだ危ないから、そのままでいい。」
「でも、みんなに何かあった時は困るし。」
「回復系のアイテムを何点か。」
「それと、防御系は修行の邪魔になっちゃいけないから、緊急用の結界だけ使えるようにしてあげて。」
少し考えた後、笑顔で付け加える。
「神封型で♪」
その場の空気が止まった。
六合が恐る恐る口を開く。
「……晴明様。」
「それは、少々やり過ぎではございませんか?」
青龍も苦笑する。
「私達もおりますし。」
「そこまでの物は必要ないかと。」
はなも静かに頷いた。
「過保護が過ぎます。」
葵だけが首を傾げる。
「神封型って?」
はなが説明する。
「名前の通りです。」
「神級の存在を封じるために、ご主人様が作られた結界です。」
「現在確認されている存在で、破られた記録はありません。」
「え……。」
葵は引きつった笑みを浮かべる。
「いやいや。」
「世界が違ってきてるんだけど。」
「そんな物を俺達が持ってていいのか?」
晴明は不思議そうに首を傾げた。
「でも、この前の一件で女神側はもう勘付いてると思うんだよね。」
「それに――。」
少し考えてから続ける。
「魔神王辺りも気付いていたら、そのうち探りを入れてくると思うよ。」
その一言で。
はな達三人の表情が固まった。
「……。」
「……。」
「……。」
六合が額へ手を当てる。
「魔神王ですか……。」
青龍も苦笑した。
「それは、あまり考えたくありませんね。」
はなは真剣な表情で晴明を見る。
「その可能性は高いのでしょうか。」
晴明はあっさり頷く。
「多分ね。」
「彼なら封印の揺らぎくらいは見逃さない。」
「ただ、すぐに動くことはないと思う。」
「様子見くらいかな。」
三人は同時に深いため息をついた。
「やはり……。」
「ご主人様は最後まで規格外ですね。」
葵だけが苦笑する。
「……俺。」
「どんどん嫌な話になってるんだけど。」
重たい空気が流れる。
そんな中。
晴明が「あっ。」と思い出したように手を叩いた。
「あ、そうだ。」
「一つ言い忘れてた。」
全員が晴明を見る。
「僕の名前だけど。」
「地球では晴明。」
「でも、この世界では別の名前で活動していたんだ。」
少し照れ臭そうに笑う。
「ゼノス。」
その名前を聞いた瞬間。
「ゼ、ゼノス様!?」
クロードが勢いよく立ち上がった。
セレナも目を丸くする。
「えっ!」
「ゼノスって……。」
「絵本のゼノス様!?」
嬉しそうに晴明へ近寄る。
「お母さんがね!」
「小さい頃、何回も読んでくれたの!」
「世界を救った大賢者のお話!」
「最後はみんな笑顔になって終わる、大好きなお話だった!」
「まさか、本当にいたなんて……!」
目を輝かせながら晴明を見つめる。
クロードも興奮を隠せない。
「ゼノス様のお名前は、この世界で知らぬ者はほとんどおりません。」
「世界を救われた英雄。」
「そして伝説の大賢者。」
「その御方が……。」
「まさか、ご本人だったとは。」
晴明は照れ臭そうに頭をかいた。
「そんな大したものじゃないよ。」
「昔の話だから。」
クロードとはな達は揃って苦笑した。
「ご本人だけですよ。」
「そう思っておられるのは。」
葵は晴明を見る。
「そんなに有名だったのか。」
晴明は困ったように笑う。
「少し有名になり過ぎただけだよ。」
青龍が肩をすくめる。
「その『少し』の基準が、ご主人様だけおかしいのです。」
葵は呆れながら笑った。
「もう分かった。」
「晴明の『少し』だけは信用しない。」
その一言に、その場は再び笑いに包まれた。




