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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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50

ボス部屋の扉がゆっくりと開く。


広い石造りの空間。


その中央には、全身を黒い鎧で包んだ騎士が静かに立っていた。


右手には漆黒のロングソード。


左手には大盾。


兜の奥で赤い双眸だけが妖しく光っている。


「二十階層のボス、シャドウナイトです。」


クロードが小さな声で説明する。


「剣技に特化した魔物です。」


「力任せでは勝てません。」


「葵。」


「今まで教えたことを思い出してください。」


「はい。」


俺は深呼吸を一つして剣を構えた。


戦闘が始まる。


最初に前へ出たのはクロードだった。


剣と剣がぶつかり合い、重い金属音が部屋中へ響く。


「よく見ていてください。」


「相手の癖を読むのです。」


攻防を繰り返しながらも、クロードは落ち着いて教えてくれる。


何度も教わった足運び。


剣筋。


重心移動。


視線。


一つ一つを思い出しながら、俺はシャドウナイトの動きを観察した。


(右から斬る時、左肩が少し下がる。)


(盾で押し込む前に体重が前へ移る。)


少しずつ動きが読めてきた。


「今です!」


クロードの声が響く。


俺は身体強化を使い、一気に踏み込む。


教わった通り、無駄なく剣を振る。


シャドウナイトは盾で受け止める。


その瞬間。


クロードが逆方向から斬り込み、体勢を崩した。


「葵!」


「はい!」


迷いなく踏み込み、胴へ一閃。


黒い鎧に深い傷が走る。


シャドウナイトが後退した。


「もう一歩!」


クロードの声に身体が自然と反応する。


恐怖はなかった。


ただ、教わった通りに剣を振る。


横薙ぎから、そのまま首元へ斬り上げる。


黒い鎧が砕け散り、シャドウナイトは黒い霧となって消滅した。


静寂が訪れる。


「勝った……。」


思わず息を吐く。


クロードがゆっくり剣を納め、笑顔で頷いた。


「お見事です。」


「以前とは別人ですね。」


「剣筋も迷いが減っています。」


その言葉に思わず笑みがこぼれる。


「ありがとうございます。」


「でも、ほとんどクロードのおかげです。」


クロードは首を横に振った。


「それでも最後に決めたのは葵です。」


「自信を持ってください。」


その言葉が素直に嬉しかった。


セレナは目を輝かせながら駆け寄ってくる。


「葵お兄ちゃん!」


「すっごくかっこよかった!」


「ありがとう。」


頭を優しく撫でると、セレナは嬉しそうに笑った。


続いて、はなが静かに歩み寄る。


「まだ改善すべき点はございます。」


「ですが、この短期間でここまで成長されたのは見事です。」


「よく頑張られましたね、ご主人様。」


普段は厳しいはなに褒められ、少し照れくさくなる。


「ありがとう、はな。」


猫姿の青龍も尻尾を揺らしながら近付いてきた。


「ご主人様。」


「思っていたより、ずっと成長されましたね。」


「少し見直しました。」


素直ではない褒め方に思わず笑ってしまう。


「それ、褒めてるのか?」


青龍は小さく笑った。


六合も穏やかに微笑む。


「皆様のご指導を素直に吸収されております。」


「この調子で鍛錬を続ければ、さらに強くなられるでしょう。」


「ありがとう。」


四人に囲まれながら礼を言う。


部屋の奥では転移石が淡く輝いていた。


クロードが魔力を流し、転移石へ登録を行う。


「これで次回からは二十階層から探索できます。」


「今日は戻りましょう。」


全員が頷き、転移石へ手を添える。


眩い光に包まれた次の瞬間、俺達は一階の転移石前へ戻っていた。


そのまま宿へ戻り、今日の成果を話しながら夕食を取る。


明日はいよいよ二十一階層。


新たな探索に向け、それぞれ身体を休めるのだった。

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