表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者  作者: sai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/32

5

部屋に重苦しい沈黙が流れる。


誰も口を開けなかった。


優しそうなおじさん。


そう思っていた人物が、武器や麻薬を扱う闇ブローカーだった。


しかも、人身売買や殺しまで。


常人なら信じられないような経歴だった。


そんな空気の中、田中さんが苦笑した。


「……驚きましたか?」


誰も答えない。


「まあ、そうですよね。」


田中さんは肩をすくめ、小さく息を吐いた。


「全部、本当です。」


その言葉に、再び静寂が訪れる。


「親には捨てられました。」


その一言で、全員の視線が田中さんへ向く。


「物心ついた頃には、チンピラの使い走りでした。」


「殴られて、蹴られて、それでも使えなくなれば捨てられる。」


「そんな毎日でした。」


淡々と話している。


まるで他人の昔話のように。


「だからでしょうね。」


「人なんて信じなくなりました。」


「信じられるのは、自分と金だけ。」


「金があれば裏切られない。」


「金があれば生きていける。」


「そう思って生きてきました。」


少しだけ笑う。


その笑顔は、どこか寂しかった。


「気付けば、今みたいな仕事をしていました。」


「後悔は……ありません。」


「自分で選んだ道ですから。」


そう言うと、天井を見上げる。


「最後は部下に裏切られて殺される。」


「俺には、お似合いの最期ですよ。」


自嘲するように笑った。


その笑い声は、誰にも響かなかった。


しばらく沈黙が続いたあと、田中さんがぽつりと呟く。


「……一つだけ。」


「気掛かりがあります。」


「毎日エサをやっていた野良猫がいるんです。」


「決まった時間になると、どこからともなく現れて。」


「俺が来るまで、ずっと待ってるんですよ。」


「今日は来ないなって……きっと今も待ってるんでしょうね。」


「それだけが、心残りです。」


また静寂が訪れる。


俺は思わず頭をかいた。


「……なんて言えばいいんだろ。」


三人が俺を見る。


「いや、人身売買とか殺しとか聞いたあとに、猫には優しいって言われても頭が追いつかないんだけど。」


思ったことが、そのまま口から出てしまった。


田中さんは少しだけ笑う。


「自分でも、おかしいと思いますよ。」


「人は平気で裏切れるのに、猫には弱いんです。」


「猫は……金なんかなくても、腹が減ったら寄ってきますから。」


その言葉に、また誰も何も言えなくなった。


善人でもない。


悪人でもない。


ただ、どこかで壊れたまま生きてきた一人の人間が、そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ