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部屋に重苦しい沈黙が流れる。
誰も口を開けなかった。
優しそうなおじさん。
そう思っていた人物が、武器や麻薬を扱う闇ブローカーだった。
しかも、人身売買や殺しまで。
常人なら信じられないような経歴だった。
そんな空気の中、田中さんが苦笑した。
「……驚きましたか?」
誰も答えない。
「まあ、そうですよね。」
田中さんは肩をすくめ、小さく息を吐いた。
「全部、本当です。」
その言葉に、再び静寂が訪れる。
「親には捨てられました。」
その一言で、全員の視線が田中さんへ向く。
「物心ついた頃には、チンピラの使い走りでした。」
「殴られて、蹴られて、それでも使えなくなれば捨てられる。」
「そんな毎日でした。」
淡々と話している。
まるで他人の昔話のように。
「だからでしょうね。」
「人なんて信じなくなりました。」
「信じられるのは、自分と金だけ。」
「金があれば裏切られない。」
「金があれば生きていける。」
「そう思って生きてきました。」
少しだけ笑う。
その笑顔は、どこか寂しかった。
「気付けば、今みたいな仕事をしていました。」
「後悔は……ありません。」
「自分で選んだ道ですから。」
そう言うと、天井を見上げる。
「最後は部下に裏切られて殺される。」
「俺には、お似合いの最期ですよ。」
自嘲するように笑った。
その笑い声は、誰にも響かなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、田中さんがぽつりと呟く。
「……一つだけ。」
「気掛かりがあります。」
「毎日エサをやっていた野良猫がいるんです。」
「決まった時間になると、どこからともなく現れて。」
「俺が来るまで、ずっと待ってるんですよ。」
「今日は来ないなって……きっと今も待ってるんでしょうね。」
「それだけが、心残りです。」
また静寂が訪れる。
俺は思わず頭をかいた。
「……なんて言えばいいんだろ。」
三人が俺を見る。
「いや、人身売買とか殺しとか聞いたあとに、猫には優しいって言われても頭が追いつかないんだけど。」
思ったことが、そのまま口から出てしまった。
田中さんは少しだけ笑う。
「自分でも、おかしいと思いますよ。」
「人は平気で裏切れるのに、猫には弱いんです。」
「猫は……金なんかなくても、腹が減ったら寄ってきますから。」
その言葉に、また誰も何も言えなくなった。
善人でもない。
悪人でもない。
ただ、どこかで壊れたまま生きてきた一人の人間が、そこにいた。




