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冒険者  作者: sai


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31/32

31 12本の鍵

食事も終わり、部屋には穏やかな時間が流れていた。


しばらく黙っていたはなが、ゆっくりと口を開く。


「ご主人様。」


「一つ、お話ししておきたいことがあります。」


その声色は、いつもの柔らかさとは少し違っていた。


「何?」


「先ほど、ご主人様は強くなりたいと仰いました。」


「はい。」


「私も、その願いを応援したいと思っています。」


「ですが。」


はなは真っ直ぐ俺を見つめる。


「前世のご主人様は、平穏な人生を望まれていました。」


「平穏?」


「はい。」


「ご自身の力が大きすぎることを、常に心配されていました。」


「利用されることも、望んでおりませんでした。」


「様々な辛い経験を経て。」


「ご主人様は、自らの力と記憶に封印を施し、その鍵を私たちへ託されたのです。」


俺は黙って話を聞く。


「前回、私が封印を一部解除したのは、ご主人様の命が危険だったからです。」


「いざという時は解除しても構わない。」


そう命じられておりました。


(本当は少し違うのですけれど……。)


(前世のご主人様がおっしゃっていたのは、『ご主人様自身が危険な時』ではありません。)


(『ご主人様の周りにいる大切な方々が危険に晒された時』でした。)


(ですが、あの時の私には、それを冷静に判断する余裕などありませんでした。)


(ご主人様を失うかもしれない。)


(その一心で、封印を解除してしまいました。)


(……申し訳ありません、ご主人様。)


「ですが今は、私もいます。」


「クロードもいます。」


「大抵の問題であれば、私たちで対処できます。」


「このまま急激に力を付け続ければ、封印がさらに緩み、完全に解けてしまう可能性があります。」


「そして全てを思い出すことは……。」


「前世のご主人様が、一番望まなかったことなのです。」


部屋が静まり返る。


俺は腕を組み、少し考える。


「……でもさ。」


「ん?」


「男子なら一回は考えるじゃん。」


「もし魔法が使えたら。」


「もし異世界へ行けたら。」


「俺つえーしてみたいって。」


クロードは静かに苦笑する。


俺は構わず続けた。


「しかも今、その状況なんだよ?」


「絶対やらない手はないでしょ。」


「記憶が戻って嫌なこともあるかもしれない。」


「でも。」


俺は笑う。


「俺は俺だし。」


「っていうか。」


「俺、そんなヤワじゃねーし。」


「前世の俺って、そんなメンタルこんにゃくだったの?」


部屋に沈黙が流れる。


はなは少し考え――


クスッと笑った。


「……確かに。」


「その辺りは、あまり似ておりませんね。」


「でしょ?」


「それに。」


俺はさらに首を傾げる。


「俺ってそんなに凄かったの?」


「結構やばくない?」


「あと、封印の鍵だっけ?」


「私たちって言ったよな?」


はなは静かに頷く。


「はい。」


「前世のご主人様は、とても偉大なお方でした。」


「ですが、そのお話はまだ先にいたしましょう。」


「今は、ご主人様自身の人生を歩んでいただきたいのです。」


「そして鍵ですが。」


「全部で十二本あります。」


「十二本?」


「はい。」


「十二本全てが揃った時、封印は完全に解除されます。」


(……正確には、マスターキーも存在しますが。)


(今は、そのお話は不要でしょう。)


はなは心の中だけで呟く。


「その鍵は、誰が持ってるんだ?」


「ご主人様に仕える、十二柱のしもべです。」


「私も、その一柱。」


「それぞれが封印の鍵を一つずつ預かっています。」


俺は思わず口を開けたまま固まる。


「……え?」


「ってことは。」


「はなみたいなのが、あと十一人いるの?」


「はい。」


「皆、ご主人様との再会を待っています。」


俺は天井を見上げる。


「……。」


「俺の前世。」


「やっぱり相当やばい奴だったんじゃね?」

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