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葵とはなは、森の近くで魔法と身体強化の練習を続けていた。
初めて魔法を使えた興奮もあり、俺は何度も魔力を巡らせる感覚を確かめていた。
「ご主人様、今日はここまでにしましょう。」
「まだいけるって。」
「昨日も深夜まで続けていましたよね?」
「……。」
はなの冷静な指摘に、俺は目を逸らす。
そんなやり取りをしていた時だった。
ガサッ。
森の茂みが揺れる。
「ギャッ!」
姿を現したのは、一匹のゴブリン。
そして――。
額には、見覚えのある傷があった。
「あっ……。」
俺の表情が固まる。
「またお前かぁぁぁ!」
以前、俺を追い詰めたゴブリン。
脇腹に受けた痛みを思い出し、無意識に手を当てる。
ゴブリンも俺に気付く。
一瞬驚いたような表情を浮かべる。
だが、すぐに口元を歪めた。
「ギャッ……ギャハハッ!」
まるで獲物を見つけたと言わんばかりの笑み。
棍棒を構え、一歩踏み出す。
「……。」
俺の足が止まる。
頭では分かっている。
今の俺なら、前とは違う。
魔法も使える。
身体強化も覚えた。
それでも――。
体があの時の恐怖を覚えていた。
「ひっ……。」
思わず後退る。
その瞬間だった。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
森全体を震わせる怒声。
俺が振り返る。
「……はな?」
そこにいたのは、いつもの可愛らしい柴犬の姿。
しかし、その雰囲気は全く違っていた。
金色の瞳は鋭く細められ、全身から白い雷光が溢れ出している。
「二度も我が主へ牙を向けるか!!」
空気が震える。
圧倒的な殺気に、ゴブリンの表情から笑みが消える。
「前回……。」
はなの声が低く響く。
「貴様は、ご主人様に傷を負わせた。」
「そして――。」
「己の力を過信し、あのご主人様を舐め切った態度。」
「万死に値する。」
俺は思わず息を呑む。
「はな……?」
いつもの優しい声ではない。
白虎としての威圧感。
それが目の前にあった。
「万雷よ。」
「我が名に応えよ。」
「白虎が権能、その一端をここに示す。」
周囲の魔力が集まっていく。
空気が震える。
「天を裂き。」
「大地を穿て。」
「――《白雷天轟》」
次の瞬間。
ゴォォォォォッ!!
空が白く染まる。
巨大な白雷が地上へ降り注いだ。
「うわぁぁぁぁっ!!」
俺は慌てて身を伏せる。
轟音。
衝撃。
熱風。
視界が白く染まる。
しばらくして、恐る恐る顔を上げる。
「……え?」
そこにいたのは――。
「ギャァァァァァ!!」
逃げていくゴブリンの姿だった。
「……。」
「生きてる。」
俺は呆然と呟く。
そして周囲を見る。
巨大なクレーター。
焼け焦げた地面。
吹き飛んだ木々。
「……。」
「いや。」
「外してるじゃん。」
はなが固まる。
数秒の沈黙。
「あっ。」
「……。」
「てへっ♪」
はなが舌をぺろりと出す。
「久しぶりでしたので……。」
「少し力加減を間違えました。」
「まだ本来の力も戻っていませんし、怒りすぎて制御が甘くなってしまいました。」
「申し訳ありません。」
少しだけ申し訳なさそうな顔をする。
俺は一瞬黙る。
だが、すぐに頭を抱えた。
「いやいやいや!」
「そこじゃない!」
「ここって普通、俺が再戦して勝つ場面じゃない!?」
「俺の成長イベントだよね!?」
「なんで相棒が全部持っていってるの!?」
はなは首を傾げる。
「そういうものなのですか?」
「そういうものだよ!」
「俺のリベンジ返せぇぇぇぇぇ!!」
俺の叫びだけが、静かになった森へ響き渡った。




