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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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葵はゆっくりと右手へ魔力を集める。


頭の中へ、小さな炎を思い描く。


暖炉で静かに揺れる炎。


優しい橙色。


心地よい熱。


静かな揺らぎ。


一つひとつ丁寧に積み重ねる。


(よし……。)


そっと右手を前へ突き出した。


その瞬間。


ボッ。


「……え?」


右手の先に、小さな火が灯った。


蝋燭ほどの小さな炎。


だが確かに、何もない空間から炎が生まれていた。


「で……。」


「出たぁぁぁぁぁ!!」


葵は思わず飛び跳ねる。


「魔法だ!」


「俺、魔法使ったぞ!」


嬉しさのあまり、その場で何度も右手を見つめる。


炎はすぐに消えてしまったが、それでも十分だった。


異世界へ来て初めて、自分の力で魔法を発動できたのだ。


「おめでとうございます、ご主人様。」


はなは嬉しそうに拍手する。


「とても綺麗な魔法でした。」


「やった!」


「俺、才能ある?」


「ありますよ。」


はなは笑顔で頷く。


(……やはり。)


(封印によって力の大半は眠っています。)


(それでも、ご主人様の本質までは失われていません。)


(できないわけがないのです。)


(本当に、安心しました。)


「では、この調子で他の属性も試してみましょう。」


「よし!」


葵は魔力を巡らせる。


水を思い描く。


小さな水球が生まれた。


「おっ!」


続いて風。


柔らかな風が手のひらから吹き抜ける。


「おぉ!」


最後は土。


足元から小さな土の塊がせり上がった。


「全部できた!」


「火も!」


「水も!」


「風も!」


「土も!」


「異世界最高ぉぉぉ!!」


子どものようにはしゃぐ葵を見て、はなも自然と笑みを浮かべる。


「基本四属性は問題ありませんね。」


「次は魔法ではなく、身体強化を覚えましょう。」


「身体強化?」


「はい。」


「今までは魔力を体外へ放出していました。」


「ですが身体強化は逆です。」


「体内を巡る魔力の密度を高め、身体能力そのものを引き上げます。」


「魔力が筋肉や骨、神経を補助することで、人が本来持つ限界を一時的に超えられるのです。」


「まずは全身強化。」


「全身へ均等に魔力を巡らせ、その流れを少しだけ強めてください。」


葵は目を閉じ、全身を巡る魔力をゆっくりと増やしていく。


すると――


「おぉ……。」


体が驚くほど軽い。


景色も、音も、今までより鮮明に感じられる。


「これが全身強化です。」


「では次は部分強化。」


「腕だけ。」


「脚だけ。」


「あるいは拳だけ。」


「魔力を一か所へ集中させます。」


「一点へ集中させるほど、その部位の強化率は高くなります。」


「ですが、その分ほかの部位へ巡る魔力は減ります。」


「状況に応じて全身強化と部分強化を使い分けること。」


「これが近接戦闘の基本になります。」


葵は右拳へ魔力を集中させる。


拳の内側から力が湧き上がるような感覚が広がった。


「なんか……。」


「強くなった気がする。」


「その感覚を忘れないでください。」


「身体強化は、ご主人様にとって最も基本となる技術の一つです。」


葵は何度も頷きながら、自分の拳をじっと見つめていた。

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