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世界を救った英雄は平穏を望んだ。だけど転生した俺は強くなりたい  作者: sai


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25

昨日は、はなの指導のもとで魔力を感じ取る練習を続けていた。


最初は何も分からなかった魔力も、今では意識を向ければうっすらと感じられるようになっている。


今日は、いよいよ魔法の練習だ。


「では、ご主人様。」


「昨日の復習から始めましょう。」


「まずは体内の魔力を感じ取り、全身へ循環させます。」


葵は静かに目を閉じる。


意識を体の奥へ向けると、温かな流れがゆっくりと浮かび上がる。


「見つけましたね。」


「はい。そのまま慌てず、全身へ巡らせてください。」


温かな流れが腕へ、足へ、胸へ。


昨日よりも滑らかに魔力が巡っていく。


「いい感じです。」


「次は、その魔力を一か所へ集めます。」


「基本は利き手です。」


葵は右手へ意識を集中させる。


全身を巡っていた魔力が、ゆっくりと右手へ集まり始めた。


「集まってる……。」


「はい。」


「ですが、ご主人様。」


「魔力は多ければ良いというものではありません。」


「魔力量。」


「魔力を通す回路。」


「そして制御。」


「この三つが揃って初めて魔法になります。」


「回路?」


「はい。」


「人の体には『魔力回路』があります。」


「筋肉と似たようなものですね。」


「使えば使うほど鍛えられ、より多くの魔力を安定して流せるようになります。」


「ですが、未熟な回路へ大量の魔力を流せば、制御できず暴発する危険があります。」


「最悪の場合、自分自身を傷つけ、命を落とすこともあります。」


「こわっ……。」


思わず右手を引っ込める葵。


すると、はなは優しく笑った。


「安心してください。」


「今のご主人様の魔力量では、回路を傷つけるほどの魔力はありません。」


「暴発しても魔法が失敗する程度です。」


「本当に危険なのは、魔力量だけが増え、制御を覚えないまま無理をした時です。」


「ですから今は、恐れず感覚を覚えてください。」


「……なら安心した。」


葵は胸を撫で下ろした。


(本当は……。)


はなは表情を変えないまま、心の中で呟く。


(ご主人様が感じ取れている魔力は、本来のものではありません。)


(あの日、封印を限定解除した影響で、本来封じられている魔力がほんの僅かに漏れ出しているだけ……。)


(私は、ご主人様を守るためとはいえ、封印を緩めてしまいました。)


(あれが正しかったのか……今でも分かりません。)


一瞬だけ後悔が胸をよぎる。


だが、それを悟られぬよう、すぐにいつもの笑顔へ戻った。


「では、その魔力を体の外へ放出してみましょう。」


葵は右手から魔力を流す。


淡く光る魔力は空気中へ溶け込み、静かに消えていった。


「……消えた。」


「はい。」


「放出しただけの魔力は、やがて霧散します。」


「魔法とは、ここから先の技術です。」


「ここから?」


「はい。」


「魔法とは、魔力を設計する技術です。」


「設計?」


「家を建てるには設計図が必要ですよね。」


「魔法も同じです。」


「何を生み出すのか。」


「どんな形にするのか。」


「どのような性質を持たせるのか。」


「その全てを頭の中で組み立て、魔力へ意味を与えます。」


「初心者が『火を出したい』と思うだけでは火は生まれません。」


「鮮明な設計図があって初めて、魔法になります。」


「じゃあ詠唱って?」


「設計を補助するためのものです。」


「人は複雑なイメージを維持し続けることが苦手です。」


「だから言葉にすることで設計図を整理し、魔力へ正確に伝えます。」


「人によって詠唱が違うのも、その人が最もイメージしやすい言葉を選んでいるからです。」


「熟練した魔法使いほど頭の中だけで設計を完成させられるため、詠唱は短くなり、やがて無詠唱でも魔法を扱えるようになります。」


「なるほど……。」


「魔法って超能力じゃなくて、技術なんだ。」


「その通りです。」


「知識。」


「経験。」


「そして鍛錬。」


「それら全てが、魔法使いを強くします。」


葵が炎のイメージを思い浮かべながら首を傾げていると、はなが小さく笑った。


「最初は難しく考えなくても大丈夫ですよ。」


「まずは、お手本をお見せします。」


「お願いします、先生。」


はなは一歩前へ出ると、静かに目を閉じた。


周囲の魔力が、吸い寄せられるようにはなの前へ集まっていく。


「巡る魔力よ。」


「我が意思に応え、その姿を炎へ。」


「優しく燃え。」


「静かに揺らぎ。」


「この手に宿れ。」


「――《ファイア》」


ボッ。


はなの前に、小さな火球が生まれる。


荒々しさはない。


まるで蝋燭の火が、そのまま空中へ浮かんだかのような穏やかな炎だった。


火球は静かに揺らめきながら空中に留まり、やがて音もなく霧のように消えていく。


「これが魔法です。」


はなは振り返り、優しく微笑んだ。


「……すげぇ。」


葵は思わず見入ってしまう。


派手さはない。


それでも、自分の目の前で何もない空間から炎が生まれた。


それだけで胸が高鳴るには十分だった。


「よし。」


「次は俺の番だ。」


葵はゆっくりと右手へ魔力を集める。


頭の中に、小さな炎を思い描く。


暖炉で静かに揺れる炎。


優しい橙色。


心地よい熱。


静かな揺らぎ。


一つひとつイメージを積み重ねながら、人生初めての魔法へ挑戦した。

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