23
「……で。」
葵は、はなを見つめる。
「白虎って何?」
はなは首をかしげた。
「私の真名ですね。」
「本当の名前、と言った方が分かりやすいでしょうか?」
「もちろん、はなでもあります。」
「いやいや。」
「白虎って、あの白虎?」
「物語とか伝説によく出てくる、四神の白虎?」
はなは少し考えた後、にこっと笑う。
「まぁ、多分そうですねー。」
「……へー。」
数秒の沈黙。
「……何それ。」
「うちのペット、ヤバくない?」
じわりと変な汗が流れる。
柴犬だと思っていた愛犬が、まさか神話級の存在だったとは。
「いやいや……。」
「情報量が多すぎるだろ。」
頭を抱える葵。
すると、ふと思い出す。
「そうだ。」
「前の俺との約束って何なんだ?」
その瞬間。
はなの笑顔が少しだけ曇った。
「……申し訳ありません。」
「まだ、お伝えできません。」
耳を伏せ、小さく頭を下げる。
「ごめんなさい。」
その様子を見て、葵もそれ以上は聞けなかった。
「そっか。」
「言えないなら仕方ないか。」
はなは申し訳なさそうなしょんぼりした表情のまま、小さく頷く。
しかし、すぐに何かを思いついたように顔を上げた。
「そういえば、ご主人様。」
「はい?」
「今なら魔力が感じられるのではありませんか?」
「……え?」
葵は意識を体の内側へ向ける。
すると。
「……あ。」
前までは何も感じなかった。
だが今は違う。
体の奥に、ほんのわずかだが温かい流れのようなものを感じる。
「これ……。」
「魔力?」
「はい。」
「まだごく僅かですが、間違いありません。」
「おぉぉぉ!」
葵は目を輝かせる。
「感じる!」
「感じるぞ!」
「やっと異世界っぽくなってきた!」
ベッドの上で大はしゃぎする葵。
はなはすかさず言葉を続けた。
「感じられるだけでは意味がありません。」
「まずは、その流れを見失わないようにしてください。」
「慌てず、ゆっくり。」
「はい先生!」
葵はすぐにベッドの上であぐらをかき、目を閉じる。
再び体の内側へ意識を向け始めた。
「そこです。」
「焦らず。」
「そのままです。」
集中し始めた葵を見て、はなは小さく胸を撫で下ろす。
(……よかった。)
(話を逸らせました。)
前世の約束については、まだ話せない。
危ないところだった。
ふと視線を上げる。
部屋の隅で静かに立っていたクロードと目が合った。
「……。」
クロードは無言のまま、はなを見つめている。
その表情は困惑していた。
初めて会ったはずなのに。
どこか懐かしい。
そんな不思議な感覚だけが胸に残っていた。
はなは何も言わない。
ただ、魔力へ集中する葵と、困惑するクロードを優しく見つめながら、静かに微笑んでいた。




