22
「は、はなが喋ったぁぁぁぁぁっ!!」
宿中に葵の叫び声が響く。
「落ち着いてください、ご主人様。」
「落ち着けるか!」
「はなが喋ってるんだぞ!?」
「えっと……。」
はなは首をかしげる。
「そこですか?」
「そこだよ!」
「他にどこがあるんだ!」
クロードは隣で腕を組んだまま、不思議そうに二人を眺めていた。
「……知り合いですか?」
「いや、知り合いっていうか……。」
「はなです。」
「その認識で間違ってません。」
「いや、間違ってるだろ!」
思わずツッコミを入れる葵。
はなは一度姿勢を正し、ぺこりと頭を下げた。
「改めまして。」
「お久しぶりです、ご主人様。」
「葵様の愛しの番犬、はなでございます♪」
「……やっぱり、はななんだな。」
甘えるように擦り寄る仕草も、尻尾を振る癖も昔のまま。
目の前にいるのは間違いなく、自分が一番可愛がっていた愛犬だった。
「ご主人様をお守りできて、本当に良かったです。」
はなの表情が少しだけ真面目になる。
「あの日、ご主人様を襲った高エネルギーの爆発。」
「あれからお守りするために、温存していた力をほとんど使い切ってしまいました。」
「その結果、私はご主人様の中で休止状態となり、回復に専念していました。」
「この世界は魔力が豊富です。」
「そのおかげで、ようやく顕現できる程度まで回復しました。」
「ですが、本来の力はまだ戻っていません。」
葵は黙って聞いている。
「それと、もう一つ理由があります。」
はなの耳が少しだけ伏せられる。
「前世のご主人様との約束です。」
「その約束があったため、今まで姿を現すことはできませんでした。」
「詳しい内容は、まだお話しできません。」
「ごめんなさい。」
申し訳なさそうに頭を下げる。
「今回だけは例外でした。」
「ご主人様の生命が危険な状態だったため、緊急措置として私の権限で封印を一部解除しました。」
「本来なら許されることではありません。」
「申し訳ありません、ご主人様。」
葵は小さく首を振る。
「謝ることじゃない。」
「助けてくれたんだろ?」
「ありがとう。」
その言葉を聞いた瞬間、はなの尻尾が勢いよく振られる。
「えへへ……。」
照れくさそうに笑った後、少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「本当は……。」
「また姿を消して、ご主人様の中で回復を続けることもできました。」
「でも……。」
「私は、ご主人様に会いたかったんです。」
「いっぱい甘えたかったんです。」
「今までずっと我慢してきましたから。」
そう言って胸を張る。
「これは、ご主人様を支え続けてきた私のお給料です!」
「今回は、わがままを通させていただきます!」
その言葉に、葵は思わず吹き出した。
「なんだそれ。」
「正当な権利です!」
得意げに鼻を鳴らすはな。
そして改めて姿勢を正した。
「もう一度、自己紹介いたします。」
「私の名前は、はな。」
「真名は――」
「ご主人様に仕える将の一柱、『白虎』。」
「これからも末永く、よろしくお願いいたします。」
「ご主人様♪」
そう言って、はなは嬉しそうに葵へ飛びついた。
葵は困ったように笑いながら、その小さな体を優しく抱きしめた。




