19
翌朝。
葵は一人、町中を走り回っていた。
初めて受けた依頼は配達。
荷物や書類を町のあちこちへ届けるだけの簡単な仕事だ。
「これくらいなら何とかなるな。」
体力には自信がある。
バスケットで鍛えた足は伊達ではない。
順調に依頼をこなしていく。
⸻
「配達完了です。」
荷物を受け取った依頼人は中身を確認すると、依頼書を受け取り慣れた手つきで名前を書いた。
「はい、ご苦労さん。」
その瞬間だった。
(……あれ?)
依頼書に書かれた文字が普通に読める。
依頼人の名前。
届け先。
品名。
全部理解できた。
「読める……。」
そこで初めて気付く。
町の看板も。
店の名前も。
ギルドの依頼書も。
最初から普通に読めていた。
「しかも……書けそうだな。」
頭の中には文字の形まで自然と浮かんでくる。
「これって転移特典ってやつか?」
助かる。
異世界で文字が読めないなんて、それだけで生活できない。
「……ありがたい。」
「ありがたいんだけど……。」
もっとこう……
魔法が最初から使えるとか。
最強スキルとか。
そういうのを少し期待していた。
「便利だけど、なんか地味だな……。」
苦笑しながら最後の依頼へ向かう。
⸻
配達は思っていた以上に順調だった。
体力のおかげで町中を走り回る程度では疲れない。
気付けば最後の一件となっていた。
届け先は町外れ。
下水道の入口にある清掃員の待機所だった。
「すみませーん。」
声を掛けると、中から作業着姿の男性が出てくる。
「ああ、その荷物か。」
「悪いんだけど注文した本人が今作業中なんだ。」
「下水道に入ってすぐの場所にいるから届けてもらえるか?」
荷物を見る。
『汚泥除去用クリーナー』
どうやら清掃で使う薬品らしい。
「分かりました。」
距離も近いようだ。
葵は快く引き受けた。
⸻
石造りの階段を下りる。
ひんやりと湿った空気。
独特の臭いが鼻をつく。
「うわぁ……。」
思わず顔をしかめる。
「毎日ここで働くとか、本当に大変だな。」
そう呟きながら歩いていると、奥から何か物音が聞こえた。
「……助け……。」
か細い声。
葵は慌てて駆け出す。
「大丈夫ですか!」
目の前にいたのは年老いた清掃員だった。
しかし、その体は半透明のゼリー状の魔物に絡みつかれ、身動きが取れなくなっている。
「なっ……!」
「スライム!?」
老人は苦しそうにもがいている。
「た……助けてくれ……。」
突然の出来事に葵の頭は真っ白になる。
戦うのか。
逃げるのか。
判断が追いつかない。
その間にも、スライムは老人をゆっくりと飲み込もうとしていた。
キリ良く何とか今日中には次まで出す予定です。




