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第十八話 現実と向き合う
宿の外。
壁にもたれながら、葵は一本のタバコに火をつける。
「……。」
煙を吐きながら、空を見上げる。
異世界。
魔法。
冒険者。
最初に想像していたものは、もっと夢のようなものだった。
特別な力を手に入れて。
魔法を自由に使って。
強大な魔物を倒して。
そんな展開を、どこかで期待していた。
しかし現実は違った。
魔法は使えない。
ゴブリンには勝てない。
結局、クロードに助けてもらっただけだった。
「……甘かったな。」
思わず苦笑する。
だが、落ち込んでばかりもいられない。
現実的な問題がある。
お金だ。
食事。
宿。
生活するには何をするにも金が必要になる。
地球にいた頃も、余裕のある生活ではなかった。
給料日前には財布の中身とにらめっこ。
残りのお金でどう一週間を乗り切るか考える日々。
だからこそ分かる。
お金がないということが、どれだけ不安なのか。
「……母さん、凄かったんだな。」
昔は口うるさいと思っていた。
でも、なんだかんだで俺には甘かった。
文句を言いながらも、最後には助けてくれた。
支払いのついでとはいえ、朝飯やタバコまで買わせてくれた。
離れて初めて、その優しさに気付く。
「……ありがとな。」
そして親父。
妹が絡まなければ、ごく普通の父親だった。
毎日どこかへ仕事へ行き。
家族を養うためにお金を稼いでくれていた。
昔はそれが当たり前だと思っていた。
でも今なら分かる。
働いて、お金を稼ぎ続けることがどれだけ大変なことなのか。
「……そういえば。」
「親父って、何の仕事してたんだろう?」
考えてみる。
思い出せない。
気付けば家を出ていて。
気付けば帰ってきていた。
それくらいしか知らなかった。
「帰ったら聞いてみよう。」
そこまで考えて、苦笑する。
「……帰れる保証なんて、ないか。」
少しだけ胸が締め付けられた。
最後に思い浮かぶのは妹。
「……まぁ、あいつは相変わらず人使い荒いんだろうな。」
人をいいように使うことに関しては天才だった。
何度も振り回された。
「でも……元気にしてるといいな。」
自然と笑みがこぼれる。
「よし。」
タバコを踏み消す。
まずは生きること。
そして稼ぐこと。
強くなるのは、その後だ。
⸻
翌日。
葵とクロードは冒険者ギルドへ向かった。
「まずは簡単な依頼から始めましょう。」
クロードが依頼掲示板へ目を向ける。
「町中の配達依頼があります。」
「危険は少なく、報酬も悪くありません。」
依頼内容は荷物や書類の配達。
町の中だけで完結する仕事だ。
「これなら俺でもできますね。」
体力には自信がある。
走り回る仕事なら苦にならない。
葵が依頼を受けようとした時、クロードは少し考え込むような表情を見せた。
「……どうしました?」
「少し心配です。」
昨日の戦闘を思い出しているのだろう。
「ですが、町の中なら危険はありません。」
「無理だけはしないでください。」
「危険を感じたら依頼より自分を優先してください。」
その言葉に、葵は少し照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。」
その時、ギルド職員がクロードへ近付いてきた。
「クロードさん、指名依頼が入っています。」
「……分かりました。」
クロードは軽く頷き、葵へ向き直る。
「私はしばらく別行動になります。」
「町の中とはいえ、気を付けてください。」
「はい。」
こうして二人は一度別れることになった。
葵にとって、この世界で初めて自分一人の依頼が始まる。




